RIZIN 12.31 さいたまスーパーアリーナ(中盤戦レポ):扇久保博正、元UFC1位のドッドソンに判定勝ち。山本美憂、引退戦は伊澤星花に一本負け。上田幹雄、スダリオ剛をKO。ヘビー級王座戦熱望
MARTIAL WORLD PRESENTS GYM VILLAGE
神楽坂 江戸川橋 クラミツムエタイジム
立ち技最強、ムエタイを究める!16周年、選手コース開設。ジュニア、女子クラスも。今ならスタート月会費0円!
にゃんこ大戦争 presents RIZIN.45
2023年12月31日(日) 埼玉・さいたまスーパーアリーナ
レポート&写真:井原芳徳 (※今回のレポート記事は3ページに分けてお伝えします)
山本美憂、引退戦は伊澤星花に一本負け
第13試合 山本美憂引退試合 MMA 女子スーパーアトム級(49kg)(ノンタイトル戦) 5分3R
○伊澤星花(Roys GYM/RIZIN女子スーパーアトム級王者、RIZIN同級トーナメント2022優勝、DEEP JEWELSストロー級王者)※フリーから所属変更
×山本美憂(KRAZY BEE/SPIKE 22)
2R 0’37” 裸絞め
2023年の大晦日のRIZINは実質4部構成となり、第3部のメインイベントの位置には、RIZIN草創期から女子の戦いを盛り上げて来た山本美憂の引退試合が置かれた。美憂は5月の有明アリーナ大会での伊澤戦で引退予定だったが、右膝の前十字靭帯を断裂したため欠場し、4月の時点で大晦日への延期が発表済だった。
美憂は49歳。山本“KID”徳郁の姉で、子供の時から父・郁榮氏からレスリングを叩き込まれた。16年のリオ五輪出場を逃し、同年のRIZINでRENA戦でMMAデビュー。一時は長野美香、浅倉カンナら相手に4連勝した。20年大晦日に浜崎朱加の王座に挑戦したが一本負け。21年11月の沖縄大会ではRENAに2R TKO負けし、昨年22年7月の沖縄大会でも大島沙緒里に判定負けし3連敗中だった。これまでのMMA戦績は13戦6勝7敗。
伊澤は26歳。レスリングと柔道をベースとし、20年にMMAを始め、プロ3戦目でDEEP JEWELS王座を獲得。21年大晦日のRIZIN初戦で浜崎朱加に2R TKO勝ちし、昨年22年4月の再戦でも浜崎に判定勝ちし、RIZIN王者となった。7月からの同級GP一回戦ではラーラ・フォントーラに1Rフロントチョークで一本勝ちし、9月の準決勝では欠場のRENAの代役出場のアナスタシア・スヴェッキスカに2R腕十字で一本勝ちし、大晦日の決勝ではパク・シウとの接戦で判定勝ちして優勝した。今年23年5月の美憂戦が中止となり、同月末のDEEP JEWELSに出場し、アム・ザ・ロケットに一本勝ち。7月のクレア・ロペスとのRIZIN王座初防衛戦でも64秒フロントチョークで一本勝ちし、デビュー以来11戦全勝(1KO/5一本)の快進撃を続けている。
1R、美憂が序盤からタックルを仕掛けて倒し、早速見せ場を作る。だが伊澤はギロチンチョークで迎撃する。極まりは浅く、美憂は脱出するが、伊澤は休ませる時間を与えず、下から足を登らせ三角絞めを狙う。伊澤は立つと、美憂がコーナーに押し込むが、伊澤はコーナーを背にして両足でしがみつき、ギロチンを狙う。最後も美憂が倒して上になるが、伊澤がギロチンで迎撃して終える。ここまで伊澤ペースだ。
2R、またも美憂がタックルを仕掛けるが、伊澤は切りつつ背後に回って潰すと、ハーフバックで押さえつつ裸絞めを極め、タップを奪った。試合後は両者抱き合って健闘を称え合った。
勝った伊澤は涙を流しながら「山本美憂選手は私が小さい頃からトップで戦っていて、私が総合をやろうと思ったのも美憂選手がきっかけです。美憂選手はいつまでも強くて憧れの選手です。私がこれから盛り上げ、新しい世代の人にバトンを渡せるよう頑張ります。女子格闘技、本当に面白いんですけど、あんまり面白くないと言われて悔しいです。もっと頑張って嫌いな人も好きになってもらえるようにします」とアピールした。
試合後、美憂の引退セレモニーが行われた。RIZINの榊原信行CEOは記念のメダルと花束を贈呈した。続いてセコンドについていた息子のアーセンがマイクを持ち「母ちゃんは何かしら新しいことを見つけて挑戦すると思うので、見つけたら応援してあげてください。ラブユー、マム」と話した。続けて美憂は「まだ悶々としているというか、勝ってリングを降りるつもりだったので不思議な気持ちです。戦績が良くない選手だったにも関わらず応援してもらって、こんな幸せなアスリートはいないと思います。いつもありがとうございます。これから色んなことに挑戦したいです。今日まで支えてくれた家族、チームメイト、本当にありがとう」等と感謝の言葉を述べ、最後は引退の10カウントゴングを聞いた。最後はアーセン、夫のカイル・アグオン、父の郁榮氏も加わり記念撮影した。
上田幹雄、スダリオ剛をKO。ヘビー級王座戦熱望
第12試合 MMA ヘビー級(120kg) 5分3R
×スダリオ剛(HI ROLLERS ENTERTAINMENT/PUREBRED/118.90kg)
○上田幹雄(BRAVE/極真会館全世界空手道選手権2019優勝/110.55kg)
2R 0’55” TKO (レフェリーストップ:左上段膝蹴り→グラウンドパンチ)
スダリオはの昨年22年大晦日、後にUFCに上がるジュニア・タファに1R TKO負け。今年23年4月にはUFC帰りのロッキー・マルティネスに判定勝ち。9月のRIZIN.44でトッド・ダフィーとの試合が組まれていたが、ダフィーがパスポートのトラブルで来日できず、1週間後の10月1日の名古屋大会で代役のイム・ドンファンに3R TKO勝ちしている。
上田はフルコンタクト空手の極真会館の19年の世界大会で優勝し、日本人として16年ぶりに世界王者になる快挙を成し遂げた。昨年4月のRIZINでのMMAデビュー戦では髙阪剛にKO負け。12月のGRACHANでソン・ムジェを12秒左ハイでKOしMMA初勝利をあげると、今年6月のRIZIN札幌大会では関根“シュレック”秀樹を22秒左ハイでKOした。9月のK-1ではキックボクシングに初挑戦し、K-Jeeに2R KO勝ちしている。
1R、上田が時折スイッチも織り交ぜながら、サウスポー主体で距離を取りつつ、左のミドル、前蹴り、三日月蹴り、ハイを随所で当て続けて主導権を握る。伸びのある素早い蹴りが当たる度、場内はどよめく。スダリオが中盤組み付いて倒すが、その先に持ち込めず、上田はスタンドに戻し、蹴りを当て続ける。
すると2R、上田が左の蹴りを当てていると、スダリオが前に突っ込んで来たが、上田は下がりながら左のハイを放ち、膝をスダリオのアゴにクリーンヒット。ダウンしたスダリオに、上田がパウンドをまとめたところで、レフェリーがストップした。
マイクを持った上田は「今現在日本で一番強いヘビー級と言っていいですか?自分が。榊原社長、軽い階級に負けたくないんで、来年ヘビー級のベルト作ってください。海外の強い選手を倒して、日本人の底力を見せたいです」とアピールした。
扇久保博正、元UFC1位のドッドソンに判定勝ち
第11試合 MMA フライ級(57kg) 5分3R
○扇久保博正(パラエストラ松戸/RIZINバンタム級日本GP 2021優勝、元修斗フライ級&バンタム級世界王者)
×ジョン・ドッドソン(米国/ジャクソン・ウィンクMMA/元UFCフライ級1位・バンタム級8位)
判定3-0 (松宮=扇久保[D0-0 A30-0 G20-0]/豊島=扇久保[D0-0 A30-0 G20-0]/石川=扇久保[D0-0 A30-0 G20-0])
扇久保は21年6月から大晦日にかけて行われたRIZINバンタム級日本GPで春日井“寒天”たけし、大塚隆史、井上直樹、朝倉海を下して優勝した。だが昨年22年9月の埼玉大会ではキム・スーチョルに判定負け。大晦日大会では1階級下のフライ級に下げ、堀口恭司と対戦し判定負けした。今年23年9月の埼玉大会で引き続きフライ級で戦う予定だったが、7月の埼玉大会でのバンタム級王者決定戦を海が負傷欠場し、扇久保は大会3週間前のオファーを「家族(=RIZIN)がピンチの時は黙っている男はいない」と引き受け、フアン・アーチュレッタと対戦し判定負けしている。今回はフライ級に戻って戦う。
ドッドソンはUFCでデメトリアス・ジョンソンと2度のフライ級王座戦を争った。20年8月の試合を最後にUFCを離れた。昨年22年大晦日にRIZINに初参戦すると、所英男を1R KOしインパクトを残した。今年23年5月の有明大会では竿本樹生に判定勝ちしている。
1R、扇久保がオーソドックス、ドッドソンがサウスポーで構え、ドッドソンがパンチで積極的に攻めるが、扇久保は組み付くと、振り回してから倒して上になる。扇久保は中盤過ぎにパスガードに成功すると、終盤も押さえ続けて鉄槌を当て、アームロックも狙い、最後はマウントを奪い、パウンドラッシュで攻め続ける。ここまで扇久保優勢だ。
2R、スタンドの攻防が続き、お互いミドル、ロー、パンチを時折当てるが、均衡は崩れず終わる。
3R、変わらずスタンドで均衡状態が続くが、中盤、扇久保がタックルを仕掛けて押し込み、テイクダウンを狙い続ける。扇久保は倒せなかったが、残り1分でブレイクがかかると、最後は左右のミドルやハイを当て続け、ドッドソンの反撃を封じて終える。記者採点はダメージ0-0、アグレッシブネス30-0、ジェネラルシップ20-0で合計50-0で扇久保。ジャッジも同じ採点で扇久保を支持し、扇久保が判定勝ちした。
朝倉海推薦のヴィンス・モラレス、元谷友貴に判定勝ち
第10試合 MMA バンタム級(61kg) 5分3R
×元谷友貴(アメリカン・トップチーム/元DEEPフライ級&バンタム級王者)
○ヴィンス・モラレス[Vince Morales](米国/JAPAN TOP TEAM & シンジケートMMA)
判定0-3 (石川=モラレス[D0-50 A0-30 G20-0]/豊島=モラレス[D0-0 A0-0 G0-20]/松宮=モラレス[D0-0 A0-30 G0-20])
元谷は5月のRIZINで朝倉海との事実上のRIZINバンタム級王座挑戦者決定戦に臨んだものの3R KO負け。すると翌6月、堀口恭司の所属するフロリダのアメリカン・トップチーム(ATT)に移籍した。11月11日のDEEPでの再起戦では元DEEPバンタム級暫定王者のCOROを圧倒し2R TKO勝ち。試合後のマイクで大晦日のRIZIN参戦を希望すると、RIZINの榊原信行CEOもオファーを約束していた。カード発表は遅くなったが、コンディションは問題無いだろう。
モラレスはMMA 20戦13勝(7KO/3一本)7敗の33歳。15年にMMAデビューし、16~18年にベラトールで2勝。18年から22年までUFCに上がり8戦3勝5敗。今年5月・7月と米国のローカル大会で2連勝し、5月には石原夜叉坊に2Rダースチョークで一本勝ちしている。朝倉海が3月にラスベガスのシンジケートMMAに出稽古した際にモラレスと出会い、大晦日のフアン・アーチュレッタ戦に向けてのスパーリングパートナーとして日本に招へいし、海の推薦で大晦日のRIZINに上がることになった。
試合は最近までUFCで戦っていたモラレスがレベルの高さを示す内容に。1R、モラレスが序盤からプレッシャーをかけ続け、度々元谷をコーナーに詰め、パンチを振るう。クリーンヒットはまだ少ないものの、手数でモラエスがはっきり差をつける。終盤、モラレスはテイクダウンを奪うと、コーナー際で押さえ、パウンドを当て続ける。最後、元谷は立つが顔面から出血している。
2Rもモラレスが前に出て、右フック、アッパー等のパンチを当て続け優位に進める。元谷も左フックを返し、2度テイクダウンを奪うが、その先に持ち込めず、スタンドに戻され続ける。
3R、モラレスは変わらずパンチを当てる。中盤、元谷がテイクダウンを奪い、終盤にはバックを取りかけたが、モラレスは対処して上になり、最後はギロチンも狙い、元谷の反撃を封じて終了する。記者採点はダメージ0-0、アグレッシブネス0-30、ジェネラルシップ0-20の合計0-50でモラレス。ジャッジの採点はバラついたが、3者とも順当にモラレスを支持し、モラレスがRIZIN初戦を白星で飾った。
太田忍、芦澤竜誠を圧倒「来年からベルト目指して頑張る」
第9試合 MMA バンタム級(61kg) 5分3R
○太田 忍(パラエストラ柏/16年リオ五輪レスリング・グレコローマン59kg級銀メダリスト)
×芦澤竜誠(Battle Box/元INNOVATIONフェザー級(57.15kg)王者)
1R 2’21” KO (グラウンドパンチ)
レスリング五輪銀メダリスト・太田は20年大晦日のRIZINでのMMAデビュー戦で所英男に一本負け。21年9月に久保優太、大晦日に祖根寿麻相手に連勝も、昨年22年7月に元谷友貴に判定負け。今年23年4月の倉本一真との元レスリング対決では、開始27秒で右フックで倉本をKOし、場内を沸かせた。7月の超RIZIN.2では瀧澤謙太に1R TKO勝ちし。10月の名古屋大会では瀧澤同様にRIZINバンタム級日本GP’21ベスト4の井上直樹との試合が組まれたが、直前にONEの元ランカー・佐藤将光に相手が変わり、判定1-2で惜敗し、バンタム級王座戦線で一歩後退してしまった。
芦澤は16年にキック団体・INNOVATIONのフェザー級王者になると、その後はK-1を主戦場に活躍。村越優汰、大岩龍矢、西京春馬には敗れたが、小澤海斗、島野浩太朗には勝利し、卜部弘嵩とは1勝1敗。昨年6月のTHE MATCHでのYA-MANとのオープンフィンガーグローブマッチでは1R KO負けした。その後MMA転向を希望し、12月にK-1との契約が切れると、大晦日のRIZINに来場し、皇治戦を承諾。芦澤がMMAルールでの対戦を希望したが、皇治が拒否し、今年23年4月の大阪大会ではキックルールで対戦し、芦澤が判定2-1で勝利した。今回28歳でMMAデビューする。
試合は案の定、太田のワンサイドゲームに。1R、太田が開始間もなく、パンチを振りつつ、素早い両足タックルを仕掛け、抱え上げてあっさりとテイクダウンを奪う。太田が上で押さえ、芦澤は下からクロスガードで防御を続ける。太田はパスガードしつつ、芦澤の首を抱えて、上のままギロチンを仕掛ける。芦澤は耐えていたが、最後はすっぽ抜けると、意識が飛んでおり、太田がダメ押しのパウンドを当てたところでレフェリーがストップした。公式の決まり手はグラウンドパンチによるKOとなっている。
マイクを持った太田は「あれ、何かあった?」と、あっけない勝利を皮肉るように第一声を放ちつつ「芦澤選手が真剣にMMAやっていたのを知っているので、芦澤選手にまず拍手をお願いします。来年からベルト目指して頑張るんで応援お願いします」とアピールした。