K-1 9.10 横浜アリーナ(レポ/無差別級トーナメント):中国武林風のリュウ・ツァー、カーフキック駆使し3連続KO勝ちで優勝。カリミアンは準決勝反則減点、サッタリは一回戦1R KOで敗退
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ReBOOT ~ K-1 ReBIRTH ~
2023年9月10日(日)神奈川・横浜アリーナ
レポート&写真:井原芳徳 ※金子晃大×玖村将史などのワンマッチのレポは別記事で掲載します。
カルロス菊田新体制のK-1初の大会で無差別級トーナメント開催
7月に中村拓己氏からカルロス菊田氏にK-1プロデューサーが交代してから初のK-1が開催された。昼はK-1、夜はグラップリングのQUINTETの2部構成で、2大会とも「ReBOOT」という共通の大会名が付けられている。7月の開催発表の際、両プロモーションは「資本業務提携」を結んだことを発表し「MMA(総合格闘技)の寡占状態が続く世界の格闘技市場の中で、打撃格闘技と寝技格闘技のそれぞれの面白さを改めて世界に向けて発信していきます」とプレスリリースの中でアピールしていた。
K-1部門の大会名は「K-1 ReBIRTH」。菊田氏は8月のプロデューサー就任発表時「かつてのK-1のように日本だけでなく世界で予選を行い、勝ち抜いた強者によるファイナルトーナメントを行う。あの頃のトーナメントシステムに“ReBIRTH”します」「今後は中軽量級の総称を(K-1 WORLD)MAXとします」「(重量級の)WORLD GPは世界での地区予選を進めます。WORLD MAXは選手層の厚さを考えても日本での開催が中心になります」と今後の方針を説明していた。今大会のカードのうち、K-1スーパー・バンタム級タイトルマッチの金子晃大 vs. 玖村将史が後者のWORLD MAX路線を代表する試合なら、「K-1 30周年記念 無差別級トーナメント」は前者のWORLD GP復興路線の試金石となる。試合ごとの紹介映像のナレーションは全て英語で、これも世界への配信を意識したものだろう。
(ところが、大会中に菊田プロデューサーはXで「DAZNおよびFITE TVでの配信ですが、プラットフォーム側の事情により配信ができなくなりました。急遽YouTubeにおいて無料ライブ配信(日本以外)を行うことを決定いたしました」と発表し、世界へのアピールが早速つまづいてしまった。)
無差別級トーナメントにはK-1からはK-1クルーザー級(90kg)王者のシナ・カリミアン、Krush同級王者のマハムード・サッタリが選抜され、中国の武林風、ブラジルのWGP、リトアニアのKOK、ルーマニアのDFSといった大会から選手が派遣され、8選手による1DAYトーナメントで優勝を争う。日本人選手は一人もおらず、未知数の要素の多さは、旧K-1時代のトーナメントの雰囲気に近いともいえよう。優勝者にはベルトではなく王冠が授与される。K-1のトーナメントでは必ずリザーブファイトも行われてきたが、今回は行われない。
一回戦はサッタリが敗退。カリミアンがKO勝ち
第5試合 K-1 30周年記念 無差別級トーナメント 一回戦1(2ノックダウン制) 3分3R(延長1R)
×マハムード・サッタリ(イラン/TEAM ŌTA/Krushクルーザー級王者、K-1無差別級トーナメント2022優勝/主催者推薦選手/84.70kg)
○クラウディオ・イストラテ[Claudiu Istrate](イタリア/Kombat Gym/ISKAヨーロッパ・ヘビー級王者/IRON FIGHTER推薦選手/108.60kg)
1R 2’19” KO (2ダウン:右フック)
サッタリは昨年4月のK-1無差別級トーナメントの時も85.2kgの最軽量ながら、K-Jee、京太郎、谷川聖哉を撃破し優勝した。今回は欧米勢が主な相手のため勝手が違いそうだが、前日会見では「体格差は関係ありません。自分が一番と信じ、ベストを尽くして戦いたいです」と自信たっぷりに話していた。初戦の相手・イストラテは82戦58勝(32KO)21敗3分の28歳。
1R、サッタリが素早く動き、パンチを振るう。イストラテとパンチが交錯し、場内はどよめく。すると中盤、ロープを背負ったサッタリが右ボディを当てると、直後にイストラテが左フックを当ててダウンを奪う。サッタリはすぐ立ち、ダメージは小さい様子だが、流れは変わらず。最後はイストラテが左ボディ、右アッパーを連打しサッタリをひるませ、さらに右フックを当ててダウンを奪いKO勝ちした。日本勢相手に無差別級でも勝っていたサッタリだが、さすがに欧米勢相手では厳しいようだ。
第6試合 K-1 30周年記念 無差別級トーナメント 一回戦2(2ノックダウン制) 3分3R(延長1R)
○シナ・カリミアン(イラン/SINA ARMY/K-1クルーザー級王者/主催者推薦選手/95.10kg)
×ケリム・ジェマイ[Kerim Jemai](ドイツ/ZAM-ZAM Ulm/ISKA世界スーパーヘビー級王者/ISKA推薦選手/106.35kg)
3R 1’35” KO (2ダウン:パンチ連打)
カリミアンはアクシデントによる反則勝ちで終わった昨年12月のカルロス・ブディオ戦以来の試合。対するジェマイは戦績18戦18勝(7KO)無敗の30歳。
1R、カリミアンはセコンドのニコラス・ペタス氏の指示を聞きながら、左ミドル、右ロ―などを積極的に当てる。ジュマイは少しフラつく場面もあるが大崩れはせず、随所でパンチ等を返し、まだ大差はつけさせない。記者採点はイーブン。
2R、カリミアンはパンチの連打、右ローを効かせ、差をつけるように。だが中盤、ローキックがローブローとなると、豊永レフェリーがブレイクに入った後に、カリミアンが左ハイを当ててしまい、レフェリーから注意を受ける。その後もカリミアン優位だが、最後は少し疲れた様子で攻撃が減ってしまう。記者採点はカリミアン。
すると3R、カリミアンは序盤に右のバックハンドブローをヒット。奇襲に成功すると、パンチを連打してジュマイを追い詰め、防戦一方にしたところでレフェリーはダウンを宣告する。カリミアンは引き続きパンチを当て続け、再び同様にスタンディングダウンを奪いKO勝ちし、準決勝に駒を進めた。
第7試合 K-1 30周年記念 無差別級トーナメント 一回戦3(2ノックダウン制) 3分3R(延長1R)
×ミハル・トゥリンスキー[Michal Turynski](ポーランド/HW LOW-KICK/KOK&WKNヘビー級王者、WAKO-PROスーパーヘビー級王者/KOK推薦選手/115.35kg)
○アリエル・マチャド[Ariel Machado](ブラジル/Hemmers Gym/Madison Team/WGP Kickboxingライトヘビー級王者/WGP推薦選手/104.50kg)
4R 判定0-3 (梅木9-10/豊永9-10/岡田9-10)
3R 判定0-1 (梅木29-30/豊永30-30/岡田30-30)
トゥリンスキーは57戦42勝(12KO)15敗の37歳。初戦の相手・マチャドは64戦52勝(36KO)12敗の36歳。
1R、両者パンチとローを時折出すが、探りながらといった様子で慎重な状態が続く。終盤、トゥリンスキーが右のバックハンドブローからのパンチ連打で少し攻めるが、また差は小さい。記者採点はイーブン。
2R、お互いパンチを出すが、トゥリンスキーのクリンチが増え、箱崎レフェリーから警告を受ける。前に出るトゥリンスキーに対し、マチャドは右ローをコツコツ当て続け、トゥリンスキーは少し圧力が落ちるが、まだひるむほどにはならない。記者採点はイーブン。
3R、トゥリンスキーは前に出て膝とパンチ、マチャドは回って右ローを当てる構図が続く。だがお互い攻めあぐねる状態は変わらず、均衡は崩れない。トゥリンスキーはクリンチが多く、またもレフェリーから警告を受ける。ジャッジは1者がマチャドを支持したが、2者がイーブンで延長へ。
延長R、お互い疲れているものの、マチャドがやや積極的にパンチを当て好印象を残し判定勝ちした。ジャッジ3者と記者採点はマチャド。
第8試合 K-1 30周年記念 無差別級トーナメント 一回戦4(2ノックダウン制) 3分3R(延長1R)
×ヴァレンティン・ボルディアヌ[Valentin Bordianu](ルーマニア/Catalin Morosanu Academy/DFS推薦選手/112.65kg)
○リュウ・ツァー[Liu Ce](中国/唐山文旅驍騎ファイトクラブ/CFP/中国キックボクシング選手権2023 90kg級優勝/武林風推薦選手/99.25kg)
1R 2’36” KO (右フック)
ボルディアヌは24戦17勝(7KO)7敗・36歳。対するリュウは6戦5勝(3KO)1敗・27歳。
1R、体格で勝るボルディアヌが前に出てパンチを振るうが、リュウはスピーディーに動きながら、右のカーフキックを的確に当て続ける。ボルディアヌが詰めてパンチを連打する場面もあるが、リュウはクリーンヒットを免れ続けると、右カーフの後に右フックも当てるように。ボルディアヌは早くも足のダメージが溜まっており、リュウが右フックを当てると、前進しながらフラつきダウンする。ボルディアヌは足のダメージの影響で立ち上がれず、リュウのKO勝ちとなった。
準決勝はイストラテがカリミアンとの大荒れの試合を制す。中国の新鋭・リュウ・ツァーも決勝へ
第11試合 K-1 30周年記念 無差別級トーナメント 準決勝1(2ノックダウン制) 3分3R(延長1R)
○クラウディオ・イストラテ[Claudiu Istrate](イタリア/Kombat Gym/ISKAヨーロッパ・ヘビー級王者/IRON FIGHTER推薦選手/108.60kg)
×シナ・カリミアン(イラン/SINA ARMY/K-1クルーザー級王者/主催者推薦選手/95.10kg)
判定3-0 (水谷28-27/豊永28-27/梅木28-27)
1R、圧力をかけるイストラテに対し、カリミアンは回って距離を取ってロー、ミドルを当てる。中盤、イストラテが右ボディを当てつつ左フックを効かせ、ロープに詰めてのパンチラッシュでカリミアンを棒立ちにさせ、箱崎レフェリーはダウンを宣告する。その後もイストラテがパンチ主体で優位を維持する。
2R、カリミアンは組んだ状況からイストラテの後頭部にパンチを連打し、レフェリーから注意を受ける。イストラテはブレイク後に攻撃し、カリミアンも左インローがローブローとなり、お互い反則の多い荒れ気味の展開に。終盤、激しいパンチの打ち合いの中で、イストラテは少し疲れて来た様子になる。するとカリミアンがイストラテをコーナーに詰め、パンチを連打し追い詰める。だがまたもカリミアンは後頭部へのパンチでレフェリーから注意を受ける。さらに最後の打ち合いで、終了後のゴングの後もカリミアンがパンチを振るい、右フックが箱崎レフェリーの後頭部に当たり、レフェリーがダウンしてしまう。箱崎氏はすぐに立ったものの、審判団は協議に入る。念のためながらレフェリーがドクターチェックを受ける異例の事態に。結局、カリミアンには減点1が科される。イストラテ陣営は反則勝ちにすべきだと抗議していた。
3R、開始直前には「レフェリーがんばれ」とのヤジも飛び、場内から笑いが起こる一幕も。すると今度は開始すぐのカリミアンの左インローが、軽くではあるがローブローとなり、またも中断する。そして今度はクリンチの展開でイストラテが後頭部にパンチを連打し、イストラテに注意が出される。大荒れの展開が続いたものの、終盤は穏やかな展開に。カリミアンが積極的にパンチを当てるが、イストラテも随所でフックを強打して印象を作り、逆転を許さない。ジャッジは3者とも28-27で、イストラテを支持し、イストラテが判定勝ちした。
カリミアンは2Rと3Rのポイントを取っており、レフェリー殴打の反則の減点1が無ければ延長に持ち込めていた形だ。旧K-1のゼロ年代のいわゆる”モンスター路線”で、ボブ・サップ、モンターニャ・シウバらの反則が連発した頃、K-1から多くのファンが離れた。旧K-1の負の側面までも“ReBIRTH”させてしまわないためにも、カリミアンは今後クリーンに戦って欲しい。
第12試合 K-1 30周年記念 無差別級トーナメント 準決勝2(2ノックダウン制) 3分3R(延長1R)
×アリエル・マチャド[Ariel Machado](ブラジル/Hemmers Gym/Madison Team/WGP Kickboxingライトヘビー級王者/WGP推薦選手/104.50kg)
○リュウ・ツァー[Liu Ce](中国/唐山文旅驍騎ファイトクラブ/CFP/中国キックボクシング選手権2023 90kg級優勝/武林風推薦選手/99.25kg)
2R 1’57” KO (右ローキック)
反対ブロックが大荒れの消耗戦になった一方、リュウは余裕を持って準決勝に進むことに成功する。1R、小柄なリュウは一回戦同様、距離を取りながら、右のカーフキックを着実に当て続ける。中盤過ぎから、マチャドがロープ際にリュウを詰め、左フックを当てるようになるが、リュウは耐えてサイドステップで逃げ、引き続き右カーフを当てる。記者採点はイーブンだが、パンチと蹴りのどちらを評価するかで分かれる可能性はある。
2Rも同じような構図だが、中盤、リュウの右カーフが効き目を発揮し、マチャドは下がるように。するとリュウが右ローをクリーンヒットし、ダウンを奪う。マチャドは足を伸ばしたまま立ち上がれず、リュウのKO勝ちとなった。
中国武林風のリュウ・ツァーがイストラテを42秒KOし優勝
第15試合 K-1 30周年記念 無差別級トーナメント 決勝 3分3R(延長1R)
×クラウディオ・イストラテ[Claudiu Istrate](イタリア/Kombat Gym/ISKAヨーロッパ・ヘビー級王者/IRON FIGHTER推薦選手/108.60kg)
○リュウ・ツァー[Liu Ce](中国/唐山文旅驍騎ファイトクラブ/CFP/中国キックボクシング選手権2023 90kg級優勝/武林風推薦選手/99.25kg)
1R 0’42” KO (右ローキック)
※リュウが優勝
1R、開始すぐから体格で勝るイストラテが前に詰めてパンチラッシュを仕掛けるが、リュウはブロックして耐えると、回って距離を取り、右のカーフキックをヒット。イストラテはカリミアンとの大荒れの準決勝で足を痛めていたといい、カーフを数発もらうとフラついて背中を向けるように。さらにリュウが右ローを当てると、イストラテはダウンする。イストラテは足を伸ばしたまま動けず、レフェリーがストップ。リュウが3連続KO勝ちでトーナメントを制覇した。
優勝したリュウは「日本に初めて来て優勝できました。中国人で初めてK-1で王者となったのは私の先生の(元K-1ライト級王者の)ウェイ・ルイさんです。私が中国人の2番目の王者になりました」と話し、記念撮影でもウェイに記念品の王冠をかぶせていた。
大会後のインタビューでリュウはカーフキックについて「日本では流行っていますが、まだヨーロッパのヘビー級では流行っていないと思って活用しました」と話した。ベスト体重について聞かれると「88kgぐらいです」と話しており、カリミアンとサッタリと同じクルーザー級でのライバルにもなりそうだ。隣にいたウェイも「今日のリュウは100点でした」と称えつつ「また日本で戦いたい」とコメントした。リュウとウェイが主戦場の武林風はK-1と長年良好な関係で、K-1の世界展開においても強力なパートナーとなるだろう。