KNOCK OUT 代々木第二の成功は混沌の序章?宮田充プロデューサー独占インタビュー「今後“何か”があった時に『はい、やりましょう』って言えるようにしておきたい」
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―― バウトレビューとしては珍しい、プロモーターへの単独インタビューを今日はすることになりました。KNOCK OUT 3月5日 国立代々木競技場第二体育館大会の後、KNOCK OUTの宮田充プロデューサーと、なんやかんやとLINEのやりとりをしているうちに、たまにはインタビュー物もいいなと思ってやってみることにしました。
宮田 プロモーターのインタビューってバウレビさんではあんまり載ってないですよね?「何でいきなり宮田のインタビューが載ってんだ」って○○さんや●●から言われたりして(笑)
―― まあ仮に探りが入っても、探ってきた方のインタビューも全然やりますんで(苦笑)
宮田 アハハ、ひとまず代々木大会ではお世話になりました!
―― 試合のことはレポートで載せていますけど、試合経過中心ですから、こういう機会でもないと、感想だったり、大会全体を俯瞰して思ったことをたっぷり語る機会ってそうそう無いんですよね。私自身、そういう機会はあっていいと思っていましたし、何より、単純に面白い大会で、語り甲斐のある大会でしたから、インタビューであれこれ聞いてみようと思いました。
宮田 ファンの方に活字で届けてもらうことは大事ですし、望むところです!よろしくお願いします!
代々木第二は3,800人満員、好勝負続き、YouTubeディレイ配信も好評…「でも評判が良くて逆に怖い」
―― 休憩前の前半がKNOCK OUTの後楽園ホールの普段の大会に近い雰囲気やラインナップですけど、それぞれの選手の技術やファイトスタイルの持ち味が良く出ていましたね。本戦第1試合で小倉尚也が1R KO勝ちして、第2試合の渡慶次幸平はボコボコにやられて延長に持ち込んで逆転KO勝ちして、会場を大盛り上がりにして。こいつバケモノか?って驚きながら見ていました。そしてその後も印象に残る試合が続きました。
宮田 2020年の10月からKNOCK OUTプロデューサーの仕事を始めさせてもらって、翌21年の3月にKNOCK OUTとREBELSを統合しました。そこから少しずつ機運を高めて、本来は去年の6月26日の代々木第二を押さえましたけど、まだコロナ禍だったし、選手の怪我とかの影響で正直マッチメイクも厳しい状況だったので延期することになりました。それで本来ならキャンセル料とかがかかるんですけど、たまたま翌年の3月5日の日曜日という良い日が空いていて、体育館さん側から「スライドもできますよ」って言っていただいて。これは運があるなって感じて、3月5日に決めました。9ヶ月延びたおかげで感染対策も少しずつ緩和されて、マスクは必須だけど声援はOKっていう状況もプラスになりましたね。当日券もよく伸びて、札止めまではいかなかったですけど、満員と見てもらえるお客さんの集まり方でした。
―― そうですね。正真正銘の満員と言っていい客入りだったと思います。
宮田 それにほとんどのお客さんが最後の鈴木千裕 vs. マルコス・リオスまで残ってくれて、終わり時間は19:50。出来過ぎでした。ただ、評判が良くて…ズバリ言って、逆に怖いなっていう。
―― え?逆に。
宮田 ネタばらしになるからハッキリは言えないですけど、結果オーライな部分も3つ4つあったんですよ。好評頂いたYouTube中継も、色んな経緯があって直前にやってみようってなって。
―― 休憩前までYouTubeで生中継して、休憩明けの後半戦の主要カードから1時間ぐらいのディレイでYoutubeに試合ごとに映像をアップする形式でしたけど、プロレスやボクシング含めて今まで聞いたことのないスタイルでした。
宮田 今回はサムライTVさんで生中継が決まっていて、これまでやっていたツイキャスPPVや、新しいメディアさんとも交渉はしていたんですけど、最後は山口元気代表から、YouTubeでこういうことができないかって案が出てきて、結構ギリギリのタイミングで決まりました。よく考えたらファンの人たちが得するシステムだし、波及効果が大きいですよね。事故らず1時間弱で後半戦をアップできて、数字もガンガン上がっていきました。
―― 結局、有料中継をやったとしても、勝手に違法動画を上げる人たちがいて、どの団体も苦労していますよね。なおさら今回の大会の後半戦は、KNOCK OUTを普段見ない人たちも、鈴木千裕、龍聖、木村“フィリップ”ミノル、不可思、ぱんちゃん璃奈といった気になるような選手の多いラインナップでした。
宮田 マッチメイク的にも、去年の6月の時点だったらできないものが多かったです。
―― 龍聖がRIZINに初出場して、そこから連続KO勝ちをしたのも6月以降でした。鈴木千裕の名前がいい意味でも悪い意味でも広く知れ渡ったのは6月以降でしたし(笑)
宮田 平本くんにさんざんイジられてね(笑)。ただ、彼は一年365日、平本蓮をやり切っているからプロですよ。
―― 宮田さんがいた頃のK-1のK-1甲子園で浮上したきた当時から、インタビューとかの受け答えでも、頭の回転が早いなあ、ボキャブラリーが豊富だなあとは思っていました。それがああいう方向に頭が働くとは当時思いもしませんでしたけど、そうやってSNSや会見で機運を高めることで、今度の4月29日のRIZINの代々木第一のファンの注目度が高まりましたし。
宮田 あー、RIZINさんの代々木第一、売れているみたいですよね。観ておきたい大会です。
年末までカードが1個も決まっていなかった
―― KNOCK OUTの代々木第二も、年明けの第1弾の発表(※龍聖&小笠原瑛作のタイの強豪とのカード、千裕・木村・宇佐美秀メイソン・不可思の出場を発表)から、割と反響は良かったんじゃないですか?
宮田 まずポイントは、去年12月28日の「INOKI BOM-BA-YE×巌流島」ですね。秋ぐらいに谷川(貞治)さんから協力してよって言われて、そこでメイソン選手の試合を初めて見て、ミノルくんとも久々に接点ができました。試合後、その日のうちに2人の出場打診をしました(笑)。あと、KNOCK OUTの主力勢は12月11日の後楽園が終わってから浮かび上がってきた選手たちがいて。千裕くんは大晦日のRIZINで、中原(由貴)選手を倒して生き残りました。で、何が言いたいかっていうと、年末までカードは1個も決めていなかったんですよ。本来、こういう大会は3か月前ぐらいにある程度固まってなきゃいけないんですけどね。
―― 発表はもうちょっと先でも、内々にはそれぐらいに固まっていないといけないでしょうね。
宮田 龍聖くんだってダウサコンにボディ一発で勝ちましたけど、いつもとルールが違うから不安な部分もありました。だから、具体的にマッチメイクを始めたのは元日からでした。
―― ぱんちゃんを除いて、12月にみんないい勝ち方をして、なおかつ怪我も無くて、年明けに一気にカード編成しやすくなりましたよね。
宮田 あと、K-1グループさんに、不可思くんと小倉くんの了承もスムーズにいただけたのもありがたかったです。
―― 元々の選手層と新旧の人脈が連なって、オセロゲームで石が一気に引っ繰り返っていったような感じです。
宮田 ぶっちゃけ、本当は本戦9試合ぐらいでやりたかったんですけど、流れの中で本戦13試合になって。そこがちょっと甘かったかな。海外で試合予定だった壱(センチャイジム)も最後に加えることになりましたし。
―― 壱 vs. 響波は大会まで1か月を切っての発表でしたけど、大会のベストバウト賞に選ばれました。
宮田 ああいう逆転決着が生まれたのは、運ですよ。あと、試合順と展開もうまくハマりましたね。後半の本戦4試合が、それぞれ違う展開と決着で進んだからこそ、最後の千裕くんまでお客さんが観てくれたと思います。“今回は”上手くいきました。
―― 狙いはある程度あったにせよ、狙ってできるようなものじゃなく、それこそ興行の神様が微笑んでくれた感じはあります。あと本戦3時開始で8時前終了で、程良い疲れで済んだのも、取材している記者としても正直助かりました(笑)
宮田 休憩前までは煽りVは無しにして、選手の入退場もちょい巻きで進めてもらって、各セクションの方々がうまくやってくださったからこその7時50分終了でした。でも何よりも、KOが多かったのが良かったです。
―― 確かにテンポが良かったですね。あとKNOCK OUTの良いところとして、肘有りのREDルールも肘無しのBLACKルールもあり、キックボクシングの色んなテイストが味わえて、特に代々木大会はそれが上手く機能したと思います。木村のようなハードパンチャーもいれば、瑛作や壱や響波のような肘・膝の試合もあり。
宮田 3月の代々木大会からBLACKルールはつかんでからの攻撃は1回に変わりました。前々からREDルールとの違いをもっとハッキリさせたくて、どうせ始めるならココだろうって感じでした。
―― BLACKルールの前身のREBELSルール時代は、従来のルールで戦っていたキックボクサーが参入しやすいルールでしたけど、今はムエタイ系と肘無し・キャッチ制限あり系の2分化がより進みましたよね。ONEにしても2つの立ち技ルールが定着しています。正直、BLACKが中途半端なポジションになりつつあるとは感じていて、このタイミングで変わるのは時流に沿っていると僕は思いました。ルール変更に不満の声もありましたけど。
宮田 興行である以上、お客さんに観てもらってナンボですから、観やすさとわかりやすさを優先させた結果です。たまにREDとBLACKの両方でベルトを取りたいって言う選手もいますけど、ここまで二極化した中で二刀流できたらたいしたもんですよ。あと昔話になっちゃいますけど、全日本キック時代にK-1ルールの大会をやったのがKrushで、当時は反発とか色々あったんですけど、2009年の解散が無ければ、全日本キックはどう進んで行っていたんだろうなってのは、たまに思うんですよね。グッドルーザー(=Krushの運営会社)を立ち上げた時は肘有りを封印してKrushルールだけにして、K-1のほうへ進んでいって。
―― あの時点ではルールを一本化してシンプルにしたのが良かったとは思います。
宮田 イベントの方向性やルールを変化させるのって、けっこうしんどいんですよ。まだルールを変えたばかりなので、今後もジムさんや審判団と向き合って、しっかりやっていきます。
KNOCK OUTは今、幸いにも選手層は薄いんですよ
―― そういう苦労の繰り返しが宮田さんの歴史でもありますよね。冒頭、今回の3.5代々木について「評判が良くて逆に怖い」っておっしゃっていましたけど、4.22 後楽園、6.11 後楽園が控えていて、また苦労の日々が続きます。ペースが早いですね。
宮田 ゲッ!そうそう、けっこう興行テンポ早いんですよ、さすがですね井原さん(笑)。今年は後楽園の開幕戦を4月にしていて、年内の9か月で6大会があって、まあまあタイトなんですけど、下半期に何かやったほうがいいのか、あるいは外から何かアプローチがあったり、クロスしたりもあるのか。“何か”今年ありそうな気がしませんか?
―― 去年6月にTHE MATCH 2022があったことで、3月のK-1とRISEのビッグイベントでの対抗戦につながって、立ち技業界の地殻変動が進んでいる感じはします。
宮田 でも、自分の目で見たもの、耳で聞いたものしか信じないというか、変な希望的観測は持たないようにしています。いつでもそうなんですけど、いま触らせてもらっている選手とジムさんがあって、それでできることをやるのが第一っていうか。毎度毎度、よそと交流したり、借りたり、ヘタすりゃパクったりしないとやっていけないようなイベントだったら、さっさと畳んじゃったほうがいいわけで。
―― 交流ありきになっちゃうと危ういですよね。THE MATCHがあれだけ盛り上がったのも、K-1とRISEがそれぞれの大会で確立した世界ができていたからこそでしょう。
宮田 で、KNOCK OUTは今、幸いにも選手層は薄いんですよ。
―― え?「幸い」ですか。
宮田 あんまり増え過ぎちゃうと、回すことで精一杯になったり、薄くなったり、内容が不安定になっちゃうように思います。例えば今、KNOCK OUTが背伸びして月1ペースで興行やったら無理が出ます。まずは代々木第二から後楽園ホールに戻って、千裕くんがメインの後楽園大会、瑛作くんがメインの後楽園大会、龍聖くんがメインの後楽園大会をやったとき、それぞれどれぐらいお客さんを引っ張って来れるか、ってとこも勝負なんですよ。これからの世代だと古木誠也くんとか久井大夢くんたちが赤コーナーでメインをやったらどうなるか。必ずしもチャンピオン=メインイベンターではないですから。
―― 古木選手や久井選手は今回の代々木第二大会の中では、休憩前の前半戦に登場した選手たちでした。
宮田 この間のK-1さんの代々木第一大会を観させてもらいながら、K-1のチャンピオンたちは個々でどれだけの集客力があるんだろう?って思っていました。素晴らしい大会でしたし、イベントのスケールや世界観は抜群で段違いです。ただ、KNOCK OUTは、チャンピオンたちを後楽園で試したり鍛えたりすることができる、それはそれで良いところなのかなって。K-1さんに無くてKNOCK OUTにあるもの、KNOCK OUTだからできるもの、みたいなことを、あれからも考えてますね。
―― 代々木第二大会をYoutubeで見てKNOCK OUTや選手に興味を持った新規ファンが、KNOCK OUTの後楽園に足を運ぶ可能性もあるでしょうし、代々木に出た選手が後楽園のメインイベンターをやることで、どれぐらいファンがついたかわかる、という構造は確かにありますね。あと大会自体が話題になりましたから、「俺もKNOCK OUTに出ようかな」という選手が参入することで、タイトル戦線も動いて、次のビッグイベントにつながる可能性もあります。
宮田 今回は俺たちの力で代々木第二に行けたんだって、結果を出せなかった選手も含めて自信になったと思います。何だかんだ言って原動力はファイターなんで。選手たちも色んな主張をしてくれるようになったのはいい流れですね。そうそう、この間のK-1は龍聖くんに観せたくて、来てもらいました。
今後“何か”があった時に「はい、やりましょう」って言えるようにはしておきたい
―― 龍聖選手にとってK-1の試合や会場の雰囲気は刺激になったでしょうね。RIZINや巌流島には出ましたけど、正直、総合格闘技の興行の中だと“お客さん”という感じじゃないですか。同じ立ち技というジャンルの大きい大会を見て、同じ階級で接点の無い軍司泰斗、斗麗といった選手たちの試合を見て、どう感じたか。
宮田 去年の龍聖くんはRIZINさんと巌流島さんに出させてもらって、千裕くんはMMAとの二刀流でRIZINでは5連勝中です。REDルールのチャンピオンの瑛作くんはムエタイMVP選手のロンナチャイを破ったことで、タイ側でも動きがあるようですから、タイに乗り込んでも面白いでしょう。不可思くんはK-1チャンピオンを目指していく、ぱんちゃん選手はぱんちゃん選手の夢があるだろうし…、ありゃ、みんなバラバラだ(笑)。なんかそれがKNOCK OUTっぽくっていいのかなあ。
―― 確かに選択肢は多いですね。立ち技業界の地殻変動と言いましたけど、タイや海外の変動も日本のシーンに影響するでしょう。
宮田 今年立ち技で“何か”あるんじゃないかって言う人がいますけど、何か聞いています?
―― いや~、まだ具体的には何も。言えない話含め、くっついたり離れたり、ザワザワしてるなあとは思いますが、ある意味それはこの業界では日常茶飯事でもあり(苦笑)
宮田 俺だけ教えてもらってないのか?藤波社長が東スポで知る、みたいな。
―― 社長なのに報道を見て知るという。
宮田 まあ、柔らかく構えて、何が飛んで来ても対応できるようにしておいた方がよさそうですね。鈴木千裕くんが他イベントのチャンピオンとやったらどうなるかって、自分も見てみたいですもん。
―― この間のK-1でライト級(62.5kg)のチャンピオンになった与座優貴選手にも3年前のKNOCK OUTで勝っていますからね。
宮田 あの試合はつまらなかったなあ(笑)。まあ、今後“何か”があった時に「はい、やりましょう」って言えるようにはしておきたいですね、意識を。いや違うな、むしろ選手が「やらせろ」ぐらいのほうがいいかも。自分は根っこは全日本キックで、立嶋篤史や小林聡に振り回されて、そういう立場でいいとも思っているし。
―― K-1時代には皇治にも振り回されましたからね。ぱんちゃんに色々あっても立ち回れる。猛獣使いですよ。
宮田 立ち回っているのか、ただクルクル回転しているだけかもしれませんけど、選手がイキイキしているようなイベントがいいですね。久井くんや若い選手も、トップ選手のマイクやSNSの発言を見て、自分の路線を考えていくでしょうし。あっ、武蔵くんは抜群に良かったですね。武骨な古木くんを相手に、あのKO勝ちは自信になったでしょうね。負けた古木くんの逆襲も楽しみです。あと代々木に出られなかった乙津陸くんや、鈴木宙樹、栗秋祥梧、中島弘貴たちも4.22 後楽園大会に出てきます。乙津はバックステージで会いましたけど、出られない悔しさが顔に出ていましたよ。
―― 乙津に勝ってチャンピオンになって代々木に出た心直が、MASA BRAVELYに判定負けしましたけど、「俺だったら勝てた」ぐらいに思っていて欲しいですよね。チャンピオンになった選手がビッグイベントに出る流れができたことで、逆に出られなかった選手がジェラシーを燃やす構造ができたのも良かったんじゃないですか。
宮田 まさにそこ。井原ちゃん、今いいこと言った(山城新伍風に)。ああいうビッグマッチをやると、出た選手だけじゃなくて、選ばれなかった選手、ケガとかでスタンバイできなかった選手たちの物語も始まるんですよ。ファンの皆さん、そういう流れを今後もぜひ追っていってください。いやあ、バッチリ締まったな、ありがとうございました。
【聞き手・井原芳徳/2023年3月15日収録】
KNOCK OUT 4.22 後楽園ホール:ぱんちゃん璃奈、1年ぶり復帰戦は世界見据え階級上げ台湾の選手と。ONE帰りの鈴木宙樹、スアレックをKOしたREITO BRAVELYと対戦