「格闘ブームが、やってくる。」ならば、「もっと戦いを、もっと愛を!」(提供:AbemaTV)
インターネットテレビ局「AbemaTV」は、2019年3月に開催される4大会「DEEP JEWELS 23」(9日)、「K-1 WORLD GP 2019 JAPAN ~K’FESTA.2~」(10日)、「RISE WORLD SERIES 2019」(10日)、「ONE Championship : A NEW ERA IN TOKYO」(31日)を「格闘チャンネル」等にて無料完全生中継する。武尊、那須川天心、青木真也、浅倉カンナら、人気選手の試合が1か月に一挙に視聴できるこのタイミングに、AbemaTVは「格闘ブームが、やってくる。」というキャッチコピーでのキャンペーンを展開。果たしてAbemaTVの言う通り、ブームはやってくるのか? やってきたとして、ゼロ年代のあの熱狂的なブームとどう性質が変わるのか? そしてそのブームにどうBOUTREVIEWは向き合うつもりなのか? 当サイトには珍しい6千字を超えるコラムというスタイルで、この事象について考えてみた。結論は「More Fights, More Love!(もっと戦いを、もっと愛を!)」。とにかく、会場でもAbemaTVでも、もっと試合を観て、もっと格闘技を好きになろう!(BOUTREVIEW 井原芳徳)
「第2次格闘技ブーム」の出発点になりそうなのは、やはりあの一戦?
「武尊対那須川天心、本当にやるんですかね?」
最近、いろんな大会・会見・計量等に取材に行く中で、オフレコトークで一番話題に上るのが、武尊の12月のK-1大阪大会でのマイクアピールをきっかけに機運が再燃した、この一戦についてである。
「…ていうか、今日(明日)ここのメインイベントでやる試合について話題にしましょうよ」って気持ちにもなるし、色々知っている内情をうっかり漏らすこともできないし、正直困ったなあとは思うが、この一戦への関心度の高さを感じることができ、いろんな空気感を探る材料にもなるので、決して無意味ではない。
実際、2月11日にYoutubeの「RIZIN CONFESSIONS」で天心が「東京ドームでやりたい」と話し、公開3時間後に武尊がTwitterで「東京ドームで会いましょう」とリアクションした件をBOUTREVIEWでニュースにしたところ、1カ月間でダントツ1位のページビューを叩き出し、ファンの間での関心の高さを改めて実感した。この記事のツイートをリツイートする人達のプロフィールを見ても、高校生から大学生ぐらいの若者が多く、新規のファンが増えていることもわかる。
仮にこの一戦が2人の言うように東京ドームで実現すれば、2006年12月2日のK-1 WORLD GP決勝トーナメント以来、約13年ぶりの東京ドームでの格闘技の興行となる。K-1が東京ドームに初進出したのは97年11月9日。同年7月にはナゴヤドーム、9月には大阪ドームでK-1が開催され、97年はK-1がドーム大会に進出した最初の年だった。その年の10月11日にPRIDE.1が開催され、高田延彦とヒクソン・グレイシーの一戦が行われた。2000年5月には船木誠勝対ヒクソンのコロシアム2000、2002年8月には小川直也がメインを務めたUFO LEGENDがいずれも東京ドームで開催され、UFO LEGENDから20日後の8月28日には国立競技場でK-1とPRIDEが協力しDynamite!が開催された。この時期から、2006年6月のフジテレビのPRIDEとの契約解除、同年12月のK-1最後の東京ドーム大会あたりまでの4~5年が、いわゆる「格闘技ブーム」の時代だったといえよう。
「ブーム」は続くのか?「ブーム」後の不安はないのか?
「ブーム」という単語を辞書でひくと(参照:コトバンク)、三省堂「大辞林 第三版」は「爆発的に流行すること。急激に盛んになること」「にわかな需要で価格が上がること。急に景気がよくなること」、小学館「デジタル大辞泉」には「ある物が一時的に盛んになること。急に熱狂的な人気の対象となること」「急に需要が増して価格が急騰すること。にわか景気」という記述がある。目を引くフレーズは「爆発的」「急に」「一時的」「にわか」。古参ファンが好きになった対象がブームになったとたん、新規ファンを「にわかファン」と見下す傾向はどの分野にもあるが、時代に安易に流されないスタンスが求められる辞書の書き手たちからも、「ブーム」というのはどこか軽薄なものと捉えられている感がある。「にわか」という言葉が他に使われるケースとしては「にわか雨」がすぐ思いつくが、にわか雨はせいぜい数時間で止む。同じように「にわか」のファンはブームが過ぎれば大半が去っていく宿命にある。
東京ドームでの大会がブームのバロメーターとなるのなら、武尊対那須川天心の実現した時こそが、「第2次格闘技ブーム」の出発点と、後世で語られることになるのかもしれない。だが心配されるのは、その出発点が線となるのか? 「第2次」がいつまで続くのか? 武尊対天心に匹敵する黄金カードはあるのか? 団体対抗戦といった企画につながる可能性があるのか? そしてブームが過ぎた後、その反動で大きく衰退しないだろうか? といったところだろう。天心対堀口、天心対メイウェザーの熱狂はいつまでも続かない。天心の対武尊も数カ月のフィーバーで終わる恐れもある。対抗戦のカードが出尽くした時に「にわか」ファンたちは関心を維持してくれるかどうかも気になるところだろう。
「第2次格闘技ブーム」は、インターネットと既存メディアが補完し合う形に
「第2次格闘技ブーム」の始まりの兆しは見えつつある。だが、もし再びブームが起こったとしても、02~06年頃の「第1次格闘技ブーム」とは、良い面でも悪い面でも、性質は大きく異なるものになるのだろう。そして第1次ほど爆発的ではない、地味なブーム(矛盾したフレーズかもしれないが)となりそうだが、ブーム沈静化後の業界を巡る状況についても、そんなに悲観的になることは無いのではと思っている。
「第1次」「第2次」の格闘技ブームの異なるポイントは大きく3つあると思う。1つ目はメディア環境、2つ目は経済状況、3つ目は中核となるプロモーターの選手育成の基盤である。
1つ目のメディア環境について言うと、第1次、そしてそれ以前の20世紀の諸々の格闘技関連の流行は共通点が多いのも特徴だ。昭和時代、力道山も沢村忠もタイガーマスクもクラッシュギャルズも地上波テレビ主導のブームだった。梶原一騎原作の漫画が大山倍達のフルコンタクト空手、馬場・猪木らプロレスラーたちの幻想を拡大した側面もあった。平成に入ると、梶原作品的な役目を雑誌媒体が担うようになり、「格闘技通信」はK-1、「紙のプロレスRADICAL」はPRIDEをプッシュし、両大会のイメージ戦略を助けた。ヒクソンの400戦無敗という真偽があやふやな幻想も、今のようにYoutubeで素人も映像を公開できる時代なら成立しなかったかもしれない。冒頭の武尊のツイートもそうだが、ミルコもマクレガーもトランプ大統領も、今やマスコミを介さずSNSで当事者が最初に発信し、マスコミが後追いするケースが増えた。96年から08年まで放送されたフジテレビの深夜の格闘技情報番組「SRS」はK-1を主体にしつつも、修斗のような比較的小規模の大会についてもフューチャーし、ルミナ・マッハらの人気を高め、後の五味・KIDといった軽量級のスター選手の登場につなげた。90年代のリングスはWOWOW、その後出現したPRIDEはスカパー!と、新興の衛星放送局の契約者を増やすコンテンツという側面もあった。2007年以降の格闘技ブーム衰退期にレンタルDVD屋で人気を博したのがジ・アウトサイダーのソフト群だったのも記憶に新しい。
そして「第2次格闘技ブーム」の下地を作ろうとしているのは、テレビ・漫画・雑誌・映像ソフトではなく、インターネットである。旧体制のK-1末期、東日本大震災の起こった2011年、TBSでの放送が無くなったWORLD MAXの大会を流したのはニコニコ生放送だった。今やYoutubeでは非公式含め膨大な数の試合映像を観ることができ、選手の新技術習得の手段にもなっている。WOWOWでのUFCの中継が無くなった時期にはDAZNとUFCファイトパスが視聴環境の中心となった。そして3年前にスタートしたAbemaTVは視聴環境を一変させ、K-1、修斗、パンクラス、ONE Championshipといった大会をスマホでも気軽に視聴できるようになり、最近はDEEP JEWELS、シュートボクシング、RISEの中継も始まり、格闘技ファンには欠かせない観戦プラットフォームとなっている。格闘技以外の分野でも、映画のアカデミー賞でネットフリックスが制作した「ROMA」がノミネートしたり、YoutubeがDA PUMPの「USA」のヒットの火付け役となり、ユーチューバーのスターが出現したりと、インターネット発信のブームが各分野で増えてきた。
だがそれら人気急上昇の事象を「ブーム」として烙印を押す役目をしているのは、既存の地上波テレビや紙媒体といった旧メディア群である。武尊も天心も知名度の上がる大きなきっかけとなったのはフジテレビのRIZIN中継と、それに付随するバラエティ番組の出演増加だった。つまり「第1次」ブームとの違いは、旧メディアと新興のインターネットメディアが相互補完的にブームを醸成する形になりつつあるということ。サッカーや野球の日本代表の試合は地上波で放送されるが、Jリーグ、海外サッカー、NPB(日本プロ野球)はネットメディアが主な視聴環境となっている。そしてJリーグやNPBの地方チームにはそれぞれ熱狂的なファンが多数いて、東京・大阪以外のチームにも人気が分散し、ファンサービスが充実し、球場のテーマパーク化が進み、老若男女幅広いリピーターを増やし、産業としても安定化している。人気をV字回復させた新日本プロレスもそうだが、「にわか」ファンをつなぎとめ、ブームではなくある種の「文化」として定着させた点は、格闘技業界関係者も多分に見習うべき点があるだろうし、「第2次格闘技ブーム」に浮かれない心構えも大事だろう。
経済は厳しい。でもスターの卵たちを産む環境は昔より豊かだ。
「第1次」「第2次」の格闘技ブームの異なるポイントの2つ目は、経済状況だ。日本での第1次ブーム終焉直前、米国ではUFCの人気が上昇し、UFCがPRIDEを買収すると、PRIDEの主力選手の多くがUFCに戦場を移した。UFCは総合格闘技の世界的な事実上標準となり、世界各地から強者が途切れなく参入し、マクレガーのように莫大なファイトマネーを一夜で稼ぐファイターも出現した。PRIDEは「60億分の1」というフレーズを多用し、PRIDEこそが世界最強の格闘家を決める場所だと喧伝していたが、後継団体のRIZINはその場としてUFCには太刀打ちできないため、何をビジョンに掲げるべきか、試行錯誤を繰り返してきた。そして格闘技業界にとどまらず、国の経済状況も無視できない外的要因だ。第1次格闘技ブーム後の世界では中国経済が大きく発展し、とりわけキックボクシングでは日本の大会が太刀打ちできないファイトマネー相場となっている。東南アジアの経済発展も、ONE Championship躍進のベースにある。日本で第2次格闘技ブームが起こった場合、持続させる手段の一つとして、カジノでのギャンブル対象となることも考えられるが、まだ現実的には先の話で、諸々の法整備も必要だろうし、アンチ・ドーピング活動も欠かせないだろう。
第1次格闘技ブームと違う点、3つ目は中核となるプロモーターの選手育成の基盤だ。上記の経済を巡る状況はどちらかといえば厳しいが、これに関してはむしろ好材料といえるのではないだろうか。第1次ブーム終焉後、K-1の運営する大会で唯一、安定したにぎわいを見せていたのは、魔裟斗の出る大会だった。2009年大晦日の魔裟斗の引退後、K-1は急激に衰退し、12年に運営会社が経営破綻する。14年から現在のK-1 JAPAN GROUPによる大会がスタートしたが、「100年続くK-1」のスローガンを掲げ、プロ大会を始める前からアマチュア大会を開催し、ジムを経営し、プロモーション面でもYotube等を駆使して多くの選手の個性をアピールし、スター選手の人気ばかりに依存しない経営構造を構築しつつある。K-1に限らず、RISEもシュートボクシングも修斗もパンクラスも、格闘技界が「冬の時代」と言われた間もその前も、地道にアマチュアから選手を育成し、数千人規模の会場でのプロ大会の開催を地道に続け、天心・RENA・堀口といったスターを生む下地を作った。そしてこれらのスターの卵たちの試合もAbemaTVを始めとしたネットメディアのおかげで、今の時代は追いかけることが容易になり、中小の大会のステータスも上がり、選手たちのモチベーションアップにもつながっている。あと、第1次ブームの頃も兆しはあったが、フィットネスの手段としてキックボクシングやブラジリアン柔術が「冬の時代」の間に普及したことも忘れてはならない。格闘技を習うことが、怖い・上下関係が厳しい・汗臭いイメージから脱却しつつあるのも、格闘技全体のイメージアップの助けとなっているはずだ。
More Fights, More Love! もっと戦いを、もっと愛を!
結論に入ると、「第1次格闘技ブーム」の時代は、大手メディア、大手イベント主導だったのが、「第2次格闘技ブーム」は、それら大手の力も大事ではあるが、新興のインターネットメディアの情報発信、現場でのファンサービス、中小規模大会やジムにおける選手育成や実践といった、他のムーブメントとの相互補完・相乗効果で作り上げていくものになるだろうということだ。そして大会を主催するプロモーターも多様化し、それぞれのファンの好みの大会や選手の幅が広がり、SNSなどを通じてプロモーターや選手とも直でコミュニケーションを取りやすくなっている。もちろん各選手・プロモーター・メディアの不安材料はいくつもある。だがスター選手が引退したり、大手プロモーターの経営が行き詰まったり、大手メディアが離れたりしても、第1次の頃よりもリスクが分散された形で作られるブームなら、立ち直りも早いだろうし、他の選手・プロモーター・メディアにとってもチャンスとなり、新勢力が浮上する環境も昔より整っている。
そして何より、今後起こりそうな「第2次格闘技ブーム」をより活気づけ、持続可能にするのは、ありきたりかもしれないが、結局はファンの格闘技に対する「愛」だと思う。マクドナルドなどのファストフード店で、友達とYoutubeやAbemaTVでのK-1を見ている高校生をたまに見かけるが、自分が今の時代に高校生に戻ったらきっとそんな感じで楽しんでいるんだろうなあと微笑ましく感じるし、そしてその、ほのかに生まれた格闘技に対する愛が、大人になっても消えないで欲しいなあとも思ったりもする。娯楽も多く、社会人になってもたゆまぬ勉学が求められる時代に、格闘技に注ぎ込む金も時間も限られ、ちょっと話題が途切れれば、格闘技に芽生えた愛も、簡単にしぼんでいくかもしれない。だが、男と女でその性質は少し違うかもしれないが、「強さ」を求める感情は普遍的であり、そこに一番ダイレクトに響くのは格闘技で、他のスポーツ、他の娯楽ではかなわないと(なんだかんだ言って)私は信じているから、格闘技への愛が若者たちから消えないで欲しいなと願っている。
BOUTREVIEWは97年に始まり、年中無休で十何年も更新を続けてきた。単に話題性のあるニュースばかりでおいしい所取りをせず、中小の大会でも可能な限り対戦カード表の様式を整え、大会スケジュールページから辿り着きやすくし、チケット情報や中継の情報や大会の開場・開始時刻の情報も欠かさないのも、ファンの皆さんに○×の結果を見るだけで消費して欲しくない、会場でもAbemaTV等での中継でも(極端な話、非公式動画でも)いいから、一個一個の戦いにとにかく直接触れて欲しいからだ。観戦を積み重ねれば積み重ねるほど、ファンの一人一人の愛は増し、業界振興につながると信じ、このスタイルを十何年も続けてきた。その方針を、AbemaTVに勝手に対抗してキャッチフレーズめいたものにするとすれば「More Fights, More Love!(もっと戦いを、もっと愛を!)」といったところだろうか。「第2次格闘技ブーム」自体は歓迎だが、ブームの有無に関わらず、富めるときも、貧しいときも、格闘技を愛し、今後もメディア活動に勤しんでいければと思っているし、ファンの皆さんの一助になれれば幸いである。
■『DEEP JEWELS 23』
放送日時:3月9日(土) 昼12時30分~午後3時30分(予定)
放送チャンネル:「格闘チャンネル」(視聴URL)
BOUTREVIEW 対戦カード&チケット情報
■『【K-1平成最後のビッグマッチ】K-1 WORLD GP ~K’FESTA.2~』
放送日時:3月10日(日)午後1時~夜9時(予定)
放送チャンネル:「格闘チャンネル」(視聴URL)
BOUTREVIEW 対戦カード&チケット情報
■『【那須川天心出場!AbemaTV初生中継】RISE WORLD SERIES』
放送日時:3月10日(日)午後3時30分~夜10時(予定)
放送チャンネル:「格闘3チャンネル」(視聴URL)
BOUTREVIEW 対戦カード&チケット情報
■『【日本初開催】ONE Championship 東京大会 A NEW ERA』
放送日時:3月31日(日)夜7時~夜11時30分(予定)
放送チャンネル:「格闘チャンネル」(視聴URL)
BOUTREVIEW 対戦カード&チケット情報
※試合延長などにより、放送時間が変更になる可能性がございます。