青木真也×二重作拓也 格闘技医学トーク (3) 脳細胞は痛みを感じないから怖い

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青木真也Youtubeチャンネルで、青木と“格闘技ドクター”二重作拓也氏との対談が実現した。採録記事の全4回の第3回をお届けする。
・第1回 格闘技は社会的に徳俵ギリギリのところで成り立っている
・第2回 たとえ周りから「青木、面倒くせえ」と思われても
・第3回 脳細胞は痛みを感じないから怖い
・第4回 全てはこの、格闘技の文化を守るため
青木 僕はセコンドにつくのがあまり好きじゃないんです。リスクがあるし、タオルを投げるタイミング一つとっても難しい。他人の人生の責任は負いたくない。
二重作 (アマチュアの格闘技大会で三浦崇宏氏がKOされた際)青木さんは瞬間的にタオルを投げたじゃないですか。タオルを投げたことをちゃんと正当に評価していかなければいけない。格闘技は熱狂を煽る商売ですから、会場全体が冷静さを失いがちです。レフェリーやセコンドだけが冷静でいられるか?という状況なんですよ。過去の色んな試合で、迷って投げられなかったセコンドもいっぱいいると思うんです。
青木 レフェリーに試合を止められたら、セコンドとして無能感は正直ありますよね。タオルを投げたのと同時にでレフェリーが止めるのが一番いいと僕は思っています。レフェリーにしても「止めたいけれど止められない」という状況があると思うんです。効いているけれど、止められた選手が、ファイトバック(=殴り返したりタックルを仕掛け返したり)してしまう恐れもある。でも、明らかに逆転の芽がなかったり、効いている状況だったりしたら、僕は「もういいっしょ」と思って投げちゃうスタイルなんです。タオルを投げるべきか悩んでいる間に、スポンと(パンチを)打ち抜かれて倒れてしまい、そこで初めてレフェリーが止めることもある。だから、もう少し早い段階で止めたほうがいいんじゃないの、と僕は思っています。
二重作 そのマインドがみんなに共有されるといいですよね。
青木 それに、ドクターは試合を止められないから。ドクターはあくまでレフェリーに進言する立場だから。
二重作 団体によって違うこともあると思うんですけど、選手が倒れて、明らかに危ない状態でも、レフェリーが呼ぶまで僕らドクターが選手を診に行けないこともあります。
青木 僕はドクターやレフェリーをそこまで信用していないところがあるんです。全員が信用しきってしまうと、かえって安全が保たれない。
二重作 それは本当にそうです。リングドクターはその場で初めて選手を見る。初見の選手がどんな怪我をしていて、どんな素因を持っているか分からない。脳の血管が脆くなっているかもしれない。実は2週間前のスパーリングで倒れているかもしれない。セコンドは一緒に練習しているから分かります。だから本当はレフェリーストップやドクターストップの前に、状態を分かっているセコンドが「逆転できるわけない」と判断してスッと入るべきなんです。逆に僕らドクター側も「よく投げてくれました」と評価していく必要がある。「タオルアワード」のようなものを作って、「このタオルのタイミングは絶妙だった」と盛り上げていくくらいでないといけないでしょうね。
青木 僕自身もノックアウトされたことがあります。3年ぐらい前、ロシアの選手(=サイード・イザガクマエフ)に負けた後、初めて「頭が痛い」と感じたんですよ。普段はそんなこと言わないのに。試合後にCTを撮ったら、鎮静化してはいたけれど血腫の跡がありました。
青木のマネージャー 本人は痛みが数日で消えれば「もういいかな」と思ったんですが、宇野薫さんに「(検査に)絶対行け」と言われて。選手はしばらく試合をしなければ大丈夫と思いがちですよね。
二重作 今の話はポイントで、脳ってそもそも、痛くないんですよ。脳細胞には痛覚がないんです。青木さんが頭が痛かった時は、周囲の血管などが痛んでいた可能性があります。何らかの物理的な損傷がベースになって、化学的な反応が起きて痛みを感じたのでしょう。でも、それ以前の試合で一度も痛くなかったからといって、ダメージがなかったわけではない。脳はめちゃくちゃダメージを受けていても、痛くないから本人は何も感じないということもあります。首から上は、衝撃を感じにくいベースがある。だからKOされた選手が立ち上がって「どこも怪我していません」と言うのは、単に痛みを感じられないだけで、本当はめちゃくちゃ危険な状態なんです。
青木 選手は「効いていない」と言いますからね(苦笑)。
二重作 脳細胞は痛くない。例えば脳の腫瘍を切るのも、頭蓋骨を開けて、意識があるまま心拍数も変わらずに手術できるくらいなんです。格闘技やスポーツをやる上では、こういう前提知識が必要です。先日、甲子園のデッドボールで選手が担架で運ばれた後にすぐ戻った件がありました。あれは絶対ダメです。脳の中で出血しているかも分からないのに、誰かがOKを出して出場させている。もし何かあった時、誰が責任を取るのか。そういう危うさが相変わらずある。(↓第4回に続く)


