99.6.24 リングス Rise 4th. 後楽園ホール［７］田村潔司×山本宜久

99･6･24 Rise 4th. 後楽園ホール
rise_banner

第7試合（20分１本勝負）

△

リングスジャパン

田村潔司

[D=1 E=2]

フルタイム

引き分け

リングスジャパン

山本宜久

[D=1 E=1 Y=1]

△

開会式の田村　ライバル・・・という関係はどこから始まるのだろう。
　Ｕインター時代、田村は、垣原と新しい時代を作ることをぶちあげ、新日プロに出場拒否をし、「干され」ていた時には、桜庭と何度も名勝負を繰り広げて見せた。
　だが、垣原や桜庭が田村のライバルだったか、と言えば、それは違う。どちらかと言えば、同じ価値を認められる「同志」であり、「仲間」と表現した方がずっとピンと来る。
　ライバルには敵がい心が必要だ。

　対する山本。
　所属選手の少ないリングス・ジャパンの中で、山本は、ライバルとのストーリーよりも、「前田とのしばき合い」をメインに据えていた。同期の成瀬とは体の大きさが違っていたし、何より、その頃のリングスでは、日本人同士の闘いよりも、「前田と並んでトップの外国人選手とやりあうこと」の方が、遙かに重きが置かれたテーマだった。
　「壁」と呼ばれる外国人選手を突破し、前田日明と、師匠と弟子の立場ではなく、対等の格闘家としてど付き合う。それが山本のテーゼだった。

　田村のリングス入りにより、この二人が交錯する。
　田村は、ある意味、非常に戦略的な人間である。試合のやり方だけではない。自分自身のプロデュース、という意味でも、彼の自意識と理想は明確だ。ジャパンの中で、同じように戦略的なのは、おそらく高阪だけだろう。
　だが、高阪の戦略は、あくまで「個人の格闘家」としてのものだ。それに対し、田村の場合、常に「団体」というもの、あるいは、「ＵＷＦ」というものが中核に存在している。
　戦略家田村は、リングス入りに際して、一つのストラテジーを立てた。
　「仲間」としてではなく、インターという背景を背負った「外敵」としてジャパンの選手に対峙すること。彼らを挑発し、そのターゲットとされることによって、団体の緊張感をぎりぎりまで高め、更にはそれを勝ち抜いていくことで、「エース」の地位を獲得すること。
　どこまではっきりとした絵図を描いていたかはわからない。だが、田村の発言、立ち居振る舞い、そして「インターのジャンパー投げ」は、あからさまに、こうした構図を他の選手に強要していた。

開会式の山本

　そうして、山本が挑発を受けた。

　第一戦。トーナメントでの対決。
　既に長井満也を「あっさりと」片づけていた田村は、あえてインターのジャージを着て、リングに上がってきた。
　それを見て山本が切れた。
　あからさまに潰しにいく山本。
　だが、それすら、戦略家田村の計算のうちだった。切れているが故にできる一瞬の隙。そこを飛びつき逆十字で切って捨てた。
　この時点で種は播かれた。
　だが、まだライバルではない。敵同士、あるいは、田村の側から言えば「最大の障害物」というだけに過ぎない。認め合う部分が欠落しているのだ。
　この頃、田村は、しきりと「山本が嫌い」と発言している。無論、リップ・サービスの部分もあるだろう。だが、かなりマジな雰囲気もあった。

　それからしばらく二人の対決はなくなる。
　田村は、遂に前田越えを達成し、思惑通りリングスのエースの地位を掴み取る。一方の山本は、腰が悪化し、何度も休場を続ける。
　二人が再会したのは、前田がリングスを引退して後のことだった。

　この時の試合は、前とは、大分趣が違うものとなった。
　長期休場明け間もない山本は潰しにはいかなかった。語弊はあるが、「勝ち」にもいっていなかった。それよりも、気持ちをぶつけることに集中した。
　田村は、その山本に答えた。
　互いの思いを叩きつけあうようないつまでも続く乱打戦、あるいは「しばき合い」。試合後、田村は、長期の休場を耐え抜き、それだけの思いで立ち向かってきた山本に対し、「敬意を表したい」と語った。
　敵意と好意。反発と共感。
　ライバルが誕生した瞬間だった。

　両者の入場と共に後楽園ホールは沸き上がった。
　膨れ上がった期待が客席を何度も何度もどよもしていく。
　レフェリーによるチェック。対峙する両者。

　刹那、田村がはじけたように山本に飛びより、張り手を食らわす。ぱーんという音がゴングの代わりとなった。

　テイクダウンにいく田村。
　しかし、それを潰し上に回る山本。その動きに付き合って上を奪い返そうとする田村。上、下、右、左。両者の体が、メタモルフォーゼするＣＧのように、流れ、絡まり、一瞬の止めもない。
　そしてスタンドに戻る両者。
　旧いも新しいもない。明らかに突き抜けたクオリティの動きを見せられている。

グラウンドの攻防

　だが、グラウンドが長引いてくれば、上に載るのは山本だ。まさに水のように、山本のポジショニングはよどみというものを見せない。先の試合の高阪のように、敢えて下にいるのではない。
　山本が田村を下にしているのだ。
　だが、田村も、下から足首を、手首を、腕を手繰り、攻めに行こうとする。それを防ぎ、間接を狙う山本。その隙をとらえる田村。
　田村のガード。
　不利な体勢でありながら、下から指をくいくいと動かして山本を挑発する田村。ボディへパンチを連打する山本。腰が浮き、体重を載せたパンチが次々と振り下ろされる。
　しかし、これはイエローだ。自分もグラウンド状態（どちらかの膝がついた状態）でなければ、グラウンドの相手に打撃攻撃はできない。
　意外なことで田村がポイントを先取する。それとも、これも計算通りなのか。

山本のアキレス腱がため

　計算であったにしても、それは続かなかった。
　山本とのポジショニング合戦に漸く一矢を報いた田村が、マウントを取り、先のお返しとばかりにボディにパンチの山を降らせる。そして山本の頭部を上から潰して十字狙いに。
　だが、山本はそれを堪え、体を返してディフェンスする。
　そして、そのまま、バックをとってスリーパーに。試合時間の半ばを過ぎて、遂に、最初のエスケープを奪った。
　試合の展開が変わる。
　スタンドでの打ち合いが激しくなる。
　そしてグラウンド。ポジションの取り合いの末、今度は山本が上にのり、田村ガード。しかし、田村はそのまま下からの十字を見事に極めて見せる。
　山本、エスケープ。
　また打ち合いから激しいグラウンドでの取り合い。今度は山本が田村のアキレスを極める。タイ・ポイント。

打撃戦

　もう時間がない。
　打撃戦へと展開をかえる両雄。ロー、ミドル、そしてばちばち掌底の山本。前蹴り、ミドル、膝蹴り、飛び膝蹴りと応酬する田村。
　体は双方ともふらふらだ。
　しかし、目だけは生きている。
　ロー、ロー、掌底、膝。山本が押していく。コーナーに詰まる田村。そこに跳び蹴りを食らわす山本。そして掌底２発。田村の体が崩れ落ちる。ダウン。
　だが、カウントアウトは取れない。
　立ち上がる田村。気力を振り絞ってラッシュにいく。
　ロープに詰め、膝、膝、膝。そしてハイキック。
　今度は山本が崩れ落ちた。しかし、まだ立つ。
　まだ、両者、打ち合い続ける。

両者力尽きる