田村、ランキング２位。金原、ランキング７位。
　しかし、リングス・ジャパン同士のランキング対決という以上に、この二人の場合、Ｕインターでの先輩・後輩同士の再会、というサイド・ストーリーが大きく存在する。インター時代、勿論、田村は金原の遥か上にいた。しかし、金原も、インターが崩壊し、キングダムになってからは、実質的なエースの座を努めていた。その一年。そして、リングスに移ってから、黙々と連勝街道を駆け上がっていったもう一年。金原は、どこまで、田村に肉薄しているのか。
　ヴォルク・ハンに連勝記録をストップさせられているため、正直、金原が田村を撃破するのではないかという緊張感は薄れている。だが、逆に言えば、これは金原にとって、このまま上に駆け上がっていけるかどうかの正念場だということでもある。

　試合はキック合戦から始まった。
　ムエタイ・マニアの田村。新日本プロレスにキックパンツで参戦し、一時はＫ−１への参戦も真面目に考えていた金原。両者ともキックには自信がある。ただし、キックの質は違う。ムエタイをイメージしたしなうような田村のキックに対し、金原は、直線的な固いキックを打つ。
　キック合戦は金原の優勢のうちに進んだ。金原のローが、カットされるとはいえ、田村に当たり、またハイも顔面のすぐ近くを襲うのに対し、田村の右ローは、バックステップでかわされてしまう。組み合いになっても、金原は、田村に一歩も引けを取らない対応を見せる。組んだ時から、腕を手繰り、首を押さえという崩し合戦が始まり、バックの取り合い、亀の崩し合い、パスガードを巡る攻防と厳しいポジショニング合戦、さらには関節へと繋がる。
　こう表面だけを追っていくと、いつもの田村の試合のように見えるかもしれない。しかし、この試合は、細かなところが違った。具体的に言うと、関節技vs関節技の切り返し合戦になっていないのだ。
　そうではなく、スタンディングでの差し合いから、グラウンドまで、ポジションの取り合いがメインをしめる。片方が関節を取りにいっても、その切り返しがすぐに次の関節技にいくというのではなく、ポジション取りがワン・クッション入る。下から三角を狙った田村を金原が潰し、バックに回り、田村が亀に。そこから足をこじいれて右腕を取り十字にいこうとする金原の動きを、田村が外して逆に上に乗ったところで金原ガード・ポジション云々というように。腕十字狙いを切り返して膝十字、更にそれを切り返して裸締めと言ったサブミッションからサブミッションへと直接的に繋がる「旧」リングスの極めっこのスタイルとは異質なのである。

　そのせいか、田村の動きがどことなく精細を欠く。
　勿論、動き回ってはいるのだが、好調時に見せるマウントからサイド、上四方、またマウントといったスピードのあるフェイントは見られないし、それどころか、金原にガード・ポジションに追い込まれる状況が何度も生まれる。10分過ぎの攻防では、遂に、田村がガード・ポジションで固まった状態でブレイク。
　ガード・ポジションを、「守りに入るああいうやり方は好きじゃない」と公言してはばからなかった田村が、自ら、ガードのまま膠着してしまったのだ。
　見た目は互角でも、実のところこれは金原のペース。いつもの金原の「マイペース」である。

　ブレイク後、田村はいらついた顔で、明らかに局面の展開を図りにいく。
　ポジショニング合戦はもう終わり、と言わんばかりに金原の右ハイをかわすと、強引に首投げに。それがすっぽぬけたと見るや否や、金原の足首に飛びつき、そのままアンクル・ホールドでエスケープを奪う。
　スタンドで再開後も、いきなり飛び込み、思いきりのいい左ミドル。これは掴まれてテイクダウンされ、金原にアームロック、腕十字を狙われるが、ロープ・ブレイクで逃れると、差し合いから斜めに回ってねじり倒し、そのままアームバー。連続でのエスケープ・ポイント奪取。

　金原も展開をもとの「マイ・ペース」に戻そうと打撃から先行してタックルに入り、テイクダウン。下からの田村の十字狙いを外していく。更に、足を取りにきた田村の動きも封じて亀に追い込むが、それでも田村は足狙いを止めない。結局、足首の取り合いとなり、またもやアンクル・ホールドで金原をエスケープに追い込む。金原のポジショニングに対して、不利な体勢からでも、あくまで、直接にサブミッションを極めにいくのである。
　最後も、差し合いからねじり倒し、金原がポジションを取り返すために体を返していったところを、バックからそのまま腕を取り、文句なしの十字を極めてしまった。

　結果的には田村の完封勝利である。
　高度な技術の鎬合いを高く評価した前田は、試合終了後二人をリングサイドに呼んで称えて見せた。社長賞として金一封も出す予定だという。
　だが、かつてのヴォルク・ハン戦、あるいは一年前のvs高阪戦に象徴される、マット上の二人の心が響き合うような「至福」の雰囲気を、この試合で感じることは正直難しかった。
　Ｕのスタイルを守り続けようとする田村。
　その孤独がにじみ出ていたといったら言い過ぎだろうか。

（山名尚志）

取材：山名尚志　カメラ：井田英登
HTML編集：井原芳徳