97年度、最後のシングルのトーナメントでは、初戦で圧倒的なレスリング技術で高阪の攻め手を封じ、一躍大きな評価を得たリングス・ブルガリアの新エース、ボリス・ジュリアスコフ。同じブルガリアのトドール・トドロフと並び、リングス２大美男子の座も誇っている。どうやら、ブルガリアは、美男子の産地のようだ。
　だが、リングス２戦目の対ヘイズマン戦では、不慣れなスタンドでの打撃合戦に挑み、そのままマットに沈んでしまった。この弱点を突けば、坂田の勝機はかなりあるように思えたが・・・。

　しかし、坂田は、タックルからのグラウンドという戦術を選んだ。
　不器用な前げりで突っ込んでくるボリスに対し、坂田タックル。だが、ボリスのレスリング技術からすれば、これを切ることはいともたやすい。そのままバックを取る。亀の体勢から裏返って逃れようとする坂田だが、ボリス、なんなく付いていき、またバックを取る。アマチュア・レスリングだったら、この間の攻防だけで、ポイント大差の判定勝ちである。
　首狙いに出るボリス。その動きの隙を狙って足を取り、立ち上がろうとする坂田だが、結局潰され、ハーフガードに。しかし、首しか攻め手がないボリスも極めきれず、ブレイクとなる。

　牽制の打撃から再びタックルにいく坂田。またもや簡単に切られる。バックをとったボリスは、首を押さえて坂田の体を返し、今度は袈裟固めに。坂田、ついにエスケープ。それでも坂田は戦法を変えない。三回目の低いタックル。ボリスもバックを取るが、今度は、坂田、待ってましたというようにボリスの腕を手繰る。桜庭や金原が得意とする戦法である。
　しかし、ボリスはあわてずにそのまま坂田を潰して上にのってしまう。そしてサイド。袈裟固めを狙う。だが、ここから坂田が逆襲に出た。ボリスの体をひっくり返し、上にのったのだ。まず、バックをとってスリーパー狙い。ボリスが体を返してそこから抜けると今度はマウント奪取。ボリスの動き方を完全に把握したような見事な展開である。そのままボリスの腕を潰し、十字もしくは三角に入るチャンスを狙う。

　絶対有利に思われた坂田だが、ボリスの地力は、そのままの体勢を許さない。坂田が腰を安易に上げた瞬間を見計らい、マウントを返す。しかし、坂田はそこからガードを取り、そのまま腕十字に。
　決まった・・・かと思われたが、一瞬後、ボリスは再び坂田を押しつぶし、サイド・ポジションを取り、袈裟固めに移行。タップを奪った。

　坂田は、どうやら、試合前から肋を痛めていたようだ。腕十字を狙った時、肋がばきっといい、動けなくなってしまったという。前半、ボリスのレスリング技術に翻弄されながらも、終盤、その動きにのって次々とチャンスをものにしていただけに、坂田にとっては残念な展開になった。
　逆に、ボリスにとっては、久方ぶりの本領発揮の試合。本格的なレスリングの技術さえあれば、後は袈裟やネルソンだけでも勝ち抜けることを実証した。後はどこまで「総合慣れ」できるかどうか。
　長らく弱小勢力に甘んじて来たブルガリア勢の台頭はそこにかかっている。

（山名尚志）

取材：山名尚志　カメラ：井田英登
HTML編集：井原芳徳