正直寂しい入りだった。
　主催者発表での観客数は4,520人。見渡す限りでは、会場の入りは、半分いくかいかないかぐらいだろうか。

　決してマッチメイクが悪いわけではない。
　デイブ・フォン・ポパイ、ヴァレンタイン・オーフレイム、ボリス・ジュリアスコフと今後のリングスを担うことが期待されている旬の選手が来ている。常連のヘイズマンは、アブダビ・コンバットで、重量級三位入賞という結果を出した。メインの田村vs金原は、今はなきＵインターでの先輩・後輩というサイド・ストーリーを背負った世代間対決である。
　そして、ＮＨＢ界を荒し回るreal American wrestlingが遂にリングスに上陸した。
　それでも、同じランディ・クートゥアが出場し、同じベイＮＫで開催されたワールド修斗のバーリ・トゥード・ジャパン・オープンに比べると、会場の熱気の違いは、余りに明らかだった。

　流れ、というものがある。
　正道会館と提携し、コマンド・サンボという未知の格闘技の招聘に成功した時、明らかにリングスはこの流れに乗っていた。正直、初期のリングスの試合の水準はかなり低かった。右も左もわからないレスリングの選手やサンビスト、空手家、キックボクサー等々が、とりあえずルール・ブックを読み、手探りでぶつかり合う。
　だから、空回りする試合もあった。というか、過半の試合がそうだった。
　しかし、それでも流れがあるうちは、様々な人がリングスを見に集まった。会場は熱気に溢れていた。

　今のリングスの試合は、その頃に比べれば、圧倒的にクオリティが高い。
　技術的に高度なだけではなく、見ていて試合自体が面白い。
　だが、それでも、である。
　それでも会場は寂しくなった。リングスから「流れ」が離れてしまったからだ。

　リングスは、いま、もう一回流れを掴もうと苦闘している最中である。
　前田日明引退興行という強力なカンフル剤を使い切ってしまった現在、流れが戻って来なかったとしたら、冗談ではなく、非常ベルが鳴り響く。

　少しづつ芽は出始めている。
　高阪のＵＦＣでの活躍。横浜アリーナ大会からのバーリ・トゥードへの再接近。 　そして今大会からのrAwチームの参戦。
　クートゥアvsミーシャの一戦は、勝ち負けを抜きにしても、今までリングスで行われたバーリの試合の中では、一番、見応えのあるものになった。

　考えてみれば、ネットワークを身上とするリングスが、世界の総合格闘技界を代表する優秀な選手があまた集まってきているバーリの世界から背を向け続けているのは余りに無理があった。勿論、当初のグレーシー柔術の登場の仕方、マスコミの煽り方から考えれば、団体としても、また、リングスのファンにとっても、反発が起こるのは当然であり、当初から仲良しこよしでやれたわけもない。
　仕方がなかったといえばそれまでだ。
　しかし、その結果、流れが離れていってしまったこと、もっと直接的に言えば、修斗やＰＲＩＤＥという、バーリ・トゥードを全面に押し立てたプロモーションの方にいってしまったという事実は押さえておく必要がある。

　様々な格闘技の選手を同じ舞台で争わせるという意味での「総合」格闘技のフロンティアはリングスであった。だからこそ、リングスは、流れに乗っていられた。しかし、何でもあり、ということでの「総合」格闘技に関しては、リングスは、明らかに後発である。
　後発のハンディ。
　そして、田村に代表される「Ｕの伝統」とのすり合わせ。
　超えなければならない課題は幾つもある。そして、刻限は迫っている。

（山名尚志）

取材：山名尚志　カメラ：井田英登
HTML編集：井原芳徳