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(レポ&写真) [全日本キック] 1.4 後楽園:真弘・石川・ヴァシコバが王者に

全日本キックボクシング連盟 "NEW YEAR KICK FESTIVAL 2006"
2006年1月4日(水) 東京・後楽園ホール  観衆:2080人(超満員札止め)

  レポート&写真:井原芳徳  【→カード紹介記事】 【→掲示板スレッド】
 

2007年のキックボクシング

 全日本キック毎年恒例の1.4新年興行。入口では全員に年賀ハガキが配布され、第4試合終了後の休憩時間には、ハガキに書かれたナンバーでプレゼントが当たるお年玉抽選会が実施された。リング上に上がった3選手が2桁の番号を言い、4桁のナンバーの下2桁と一緒だった人が当選する仕組みだが、その3選手はこの日出場しなかった小林聡、山本優弥、藤原あらし。小林は去年の1.4で大月と戦い、優弥は2/6後楽園大会で佐藤嘉洋を激闘を繰り広げた。いずれの大会も超満員。あらしも5月、マッハ55準決勝の国崇戦では後楽園を満杯にしてみせた。
 
 つまりそんな千両役者たち不在の今大会だが、去年同様超満員札止めに。去年3月、今大会でタイトルマッチを行う6選手のうち前田尚紀を除く5人が赤コーナーに並んだ大会があったが、その時は観衆1480人で満員マークが付かなかった。メインで1R KO勝ちした山本元気はマイクを持つと「まだ僕の力では後楽園ホールを一杯にできませんが…」と口にし、どこか空しさを漂わせていたが、そんな出来事が遠い昔のことのようにさえ思える。
 
 あれからわずか9ヶ月半。ようやく時が彼らに追いついた。通路には人があふれ、皆幸せそうな表情だ。これから絶対凄いものが見られる。僕らの行く先にはもっと凄いキックボクシングが広がっている。そんな夢と希望が後楽園ホールの中で渦巻いている。2006年になったばかりだというのに、僕らは“2007年のキックボクシング”を早くも見せつけられることとなる。

 


 

第5試合 全日本ライト級王座決定戦 3分5R
○サトルヴァシコバ(勇心館/1位)
×吉本光志(AJジム/2位)
2R 2'30" KO (左フック)

※ヴァシコバが第16代王者に

ヴァシコバ「気分転換にやってみようと思った」

 最初は互いにジャブでフェイントをかけあいながら様子を伺う展開。サウスポーのヴァシコバが左ストレートや左ロー、オーソドックスの吉本が右ストレートや右ミドルを当てる。
 均衡が崩れたのは1R残り1分過ぎ。ヴァシコバの左ストレートで吉本の腰が落ちる。ヴァシコバがパンチと膝の猛ラッシュで倒しにかかると、場内は悲鳴と大歓声に包まれる。吉本は防戦しつつもパンチを返し、持ち前のハートの強さを発揮する。
 2Rに入ると吉本は先程のピンチが嘘のように持ち直し、1R途中まで同様の接戦に。だが中盤、左ストレートが警戒されていると察したヴァシコバは「気分転換にやってみようと思った」という左バックハンドブローでついにダウン奪取に成功する。
 こうなると完全にヴァシコバの流れだ。左ストレートと膝をバンバン当て、必死の表情で吉本を追いかける。最後は打ち合いの距離で左フックを吉本のアゴに一撃。倒れた吉本はなんとか10カウント以内に立ち上がるが、表情は虚ろで足はフラフラ。レフェリーストップ後もゾンビのように前に出ようとする吉本と、膝をついて天を仰ぎ大喜びヴァシコバのコントラストが印象的だった。
 マイクを持つと満面の笑顔でファンや関係者へのお礼を述べるヴァシコバ。全日本伝統のベルトを腰に巻くと、その太陽のような明るさがより一層際立っていた。

 
第6試合 全日本スーパーフェザー級王座決定戦 3分5R
×前田尚紀(藤原ジム/フェザー級1位)
○石川直生(青春塾/フェザー級3位)
1R 終了時 TKO (ドクターストップ:右肘打ちによる額の骨の陥没)

※石川が第2代王者に

石川「何も言葉が浮かばないんですけど…」

 開始早々、前田はまるで相撲の張り手のように左右のパンチを振りながら突進。右ストレートや右ローを当て機先を制す。だが石川は前田を首相撲に捕まえるとボディに膝を突き刺す。コーナーに詰めては上から肘を突き落とし、離れ際には長い足でハイを放つなど、リーチを活かした攻めで反撃する。それでも前田の勢いはまだまだ落ちない。再び“ドスコイパンチ”を石川にお返しする。

 試合は2Rからのように思われたが、インターバル中の赤コーナー周辺が騒がしい。リングドクターがマイクを持つと、石川の肘で前田の額が陥没骨折した疑いがあり、これ以上続行すると危ないことを明かす(※1/13追記:その後の診断で打撲と判明)。出血は無く、リングサイド席の客にしか確認できない深さの陥没で、当然会場にモニターも無いため、多くの観客はあっけにとられている。静まり返った中、終了のゴングが打ち鳴らされても、石川は信じられない様子で座ったまま。数秒たつとようやく勝利が実感できたようで、ようやく立ち上がって喜びの雄叫びをあげた。

 マイクを持った石川は「お客さんにはわかりにくい結末だと思うけど、右肘が腫れました」と右肘を客に見せる。そして多弁な彼にしては珍しく、「何も言葉が浮かばないんですけど」と話した後、「父ちゃん母ちゃん、生んでくれてありがとう」と叫び、「今度はもっとインパクトのある試合をして、全日本キックのエースになります」と宣言した。
 思えば石川は11月の王者決定トーナメント準決勝でも右肘で勝利。IKUSA GPは肘無しだったが、その前の昨年3月の試合も右肘で勝っており、右肘で全日本の公式戦3連勝を果たしたことになる。切り裂くというレベルを越え、頭蓋骨を陥没させるほどの破壊力に達した石川の右肘は、今後の対戦相手にとって大きな驚異となるだろう。
 「前田に勝ったことの方が大きい。ベルトは後から実感が沸いた」とバックステージで喜びを噛み締める石川。「日泰対抗戦に出たい。タイ人とやったことがないので、自分の肘と膝がどこまで通じるか試したい」とも話しており、今後のマッチメイクが注目される。
 

第7試合 全日本フェザー級タイトルマッチ 3分5R
×山本元気(DEION GYM/王者)
○山本真弘(藤原ジム/2位・IKUSA -U60戦王)
判定0-2 (朝武50-50/野口49-50/梅木49-50)

※真弘が第22代王者に

真弘「今までやっていたことが間違いでないことがわかった」

 13ヶ月前の対戦はドロー。2004年のキックボクシングのベストバウトと言っても過言ではない激闘だったが、今回のW山本対決も(少し気が早いが)2006年のベストバウト候補に上がりそうな名勝負となる。
 素早いパンチのコンビネーションで元気が前に出れば、真弘はさらに上を行くスピードでスッと横に回り、元気に入り込ませない。伸びのあるローや前蹴りも元気の行く手を阻む。

 真弘はパンチで打ち合わない作戦だが、時折打ち合いになると、素早いヘッドワークで元気の殺しの右を見切る。打ち終わりに左ストレートを当てる場面も。元気は右ミドルを何発も当てるが、真弘の左ストレートの威力は落ちない。以前は手打ち気味だったが、藤原敏男会長の指導で足をふんばって打てるようになったといい、それが功を奏しているようにも思える。
 もちろん元気の右パンチもたくさん当たっている。特に4Rのヒット数は多かったように思う。だが詰めがあと少し足りない。元気は試合後のインタビューで「オーバーワーク気味だった。疲れのピークが2週間前に来た。ジムが変わって練習ができすぎたのが逆に悪影響だったかもしれない」と漏らす。逆に真弘は試合のターニングポイントを聞かれると、「4以降。3まではドローと思った」と話していた。
 熾烈な消耗戦。守る方だけでなく攻める方も体力を奪われる。近年3R制が増えたが、5R制での4R以降の体力勝負の厳しさに、キックボクシングの真髄を感じる。

 両者ともはっきりとポイントを取ったと思えるラウンドのないまま迎えた5R。距離を詰めての打ち合いを繰り広げる場面が、これまでのラウンドに比べて格段に増える。元気の右と真弘の左が何度も交錯。顔を腫らした元気がコーナーに詰められクリンチで凌ぐ場面も。だが直後には元気のパンチをもらい真弘がダメージをごまかすように苦笑いを浮かべる。とても5R目とは思えない、一進一退の激しい打ち合いのまま試合終了。同時に2人はリング中央で抱き合い、満員の客席からは大きな拍手が巻き起こる。

 判定は0-2で真弘に軍配。だが終了時、両者とも勝ちの確信がなかったといい、筆者の採点も50-50のドローだった。元気は敗れ王座を失った。しかし全日本キック伝統の1.4のメインで赤コーナーに立ち、後楽園ホールの超満員の観衆を最後まで熱狂させたことで、“新エース”の座にさらに近づいたことは誰もが認めるところだろう。

 新王者・真弘は「今日は勝つこと前提で内容は納得がいかなかったけど、次は自分らしい戦いをしたい」とマイクアピール。バックステージで自己採点を聞かれると「40点」と厳しい採点をしていた。だが一方で「今までやっていたことが間違いでないことがわかった」という言葉も飛び出す。
 IKUSA GPを制し、全日本も制し、藤原イズムへの確信が、刀とベルトという2つの形あるものとなった。次は師匠もかつて歩んだ打倒ムエタイの道へ。いったいこの弱冠22歳の青年は、これから幾つの夢を形にしていくのだろう?

 


 

第4試合 JAPAN VS THAI ウェルター級 サドンデスマッチ(3分3R延長1R)
○湟川満正(AJジム/3位)
×ウィラチャート・ウィラサクレック(タイ/元ルンピニースタジアム・ライト級6位)
判定2-0 (朝武30-29/野口30-30/大成30-29)


 戦績73戦52勝(8KO)17敗2分の27歳・ウィラチャートに対し、湟川が1R開始早々からストレート、アッパー、ハイ、ロー等で手数多く攻める。10センチ近い身長差もうまく活かしポイントを稼ぐ。2Rには何度もコカされるが、終盤には右ストレートで反撃。3Rも多彩な技で攻めでタイ人にペースを握らせず、判定ながらも勝利をもぎ取った。同門の山内、江口がゲンナロンに敗れているが、次は湟川の出番か?
 

第3試合 JAPAN VS THAI 70kg契約 サドンデスマッチ(3分3R延長1R)
×江口真吾(AJジム/ミドル級2位)
○ゲンナロン・ウィラサクレック(タイ/元WBF豪州ウェルター級王者)
判定0-3 (豊永29-30/朝武27-30/野口29-30)


 ゲンナロンが一瞬の隙を突くような右ストレートを何度も江口の顔面にクリーンヒット。差し合いになればうまく江口のバランスを崩し何度もコカし、業師ぶりをこの日も発揮する。だが3R中盤、江口の右ハイと右ストレートが連続でクリーンヒット。結果的には完敗だったものの、これでゲンナロンを怒らせ必殺の右肘を終盤出させることに成功している。なかなか勝ち星に恵まれない江口だが、前回の試合でもチャーンヴィット相手に善戦しており、次第に光明は見えつつあるのかもしれない。
 

第2試合 CROSS BOUT フェザー級 サドンデスマッチ(3分3R延長1R)
×正巳(勇心館/5位)
○赤羽秀一(ウィラサクレック・フェアテックスジム/J-NETWORKフェザー級3位)
2R 終了時 TKO (ドクターストップ:右目尻のカット)


 パンチに定評のある正巳が右ストレートで序盤は主導権。だが赤羽の右ローに下がるようになると、赤羽が得意の左膝を何発も当てるようになり反撃。ラウンド最後はダウンに近い状態となり辛うじて正巳が逃げ切った。しかし途中の左膝か左ハイキックかで正巳は右の目尻を切りドクターストップがかかった。逆転勝利の赤羽は入場曲のロックに合わせたエアギターで喜びを表現し観客を楽しませた。
 

第1試合 ウェルター級 サドンデスマッチ(3分3R延長1R)
○大輝(JMC横浜GYM/9位)
×水野章二(湘南格闘クラブ)
2R 終了時 TKO (タオル投入)

※2R水野に2ダウン(パンチ連打と左ハイキック)

 第1試合にはデビュー以来6連勝の21歳の新鋭・大輝が登場。1Rから左ミドル、右ロー、左フック等の多彩な攻めで主導権を握る。ミドル等で応戦した水野だが、2Rには足が効いてきた様子。大輝はコーナーに詰めてのパンチの連打でスタンディングダウンを奪うと、右ハイと左ハイの連打で2度目のダウンを奪う。ラウンド終了ゴング直後に放った左フックで水野は3度目のダウン。流れの中での攻撃のため反則にもダウンにもならなかったが、インターバル中の水野陣営のタオルで試合は終了した。
 

オープニングファイト第3試合 ライト級 3分3R
○村山トモキ(AJジム)
×堀口貴博(ウィラサクレック・フェアテックスジム)
判定2-0 (30-29/30-30/30-29)

オープニングファイト第2試合 ミドル級 3分3R
○佐藤皓彦(JMC横浜GYM)
×稲村直人(TEAM-1)
判定3-0 (30-29/30-28/30-29)

オープニングファイト第1試合 ウェルター級 3分3R
×小樽基能(はまっこムエタイジム)
○日菜太(湘南格闘クラブ)
1R 1'23" KO

Last Update : 01/05 21:24

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