山口元気代表に聞く、脱ブシロード後のロードマップ。「本当の意味でKNOCK OUTを引き継ぐのはこれから」
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ブシロードの子会社・ブシロードファイトが6月15日、KNOCK OUTの事業をREBELSの運営会社・Def Fellow(デフフェロー/代表取締役:山口元気)に譲渡すると発表した。16年9月のKNOCK OUT設立発表会見で、オーナーの木谷高明氏は「KNOCK OUTも最初2年ぐらいは赤字だとは思いますが、いずれ大きなビジネスになると信じています」と話していたが、赤字が大きく膨らみ、2年半後の昨年5月、プロデューサーが山口氏に交代。その発表時に木谷氏は「僕ら(ブシロード)は映像やキャラクターの資産を作っていますが、これぐらいの赤字ならあきらめませんし、まだまだ可能性があります」と意気込んでいた。ところが、今年に入ってからの新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、ブシロードの収益の柱である声優や新日本プロレスなどのライブイベントが中止となり、KNOCK OUTは再建計画の変更を余儀なくされた。その新たな道として選ばれたのが、今回の山口プロデューサーへの事業譲渡。その決定に至る過程、そして“脱ブシロード”後のロードマップについて、山口氏に聞いた。(聞き手・井原芳徳、写真:井原芳徳、久保与志)
「コロナの影響で、悠長な事を言っている状況じゃ無くなった」
――この間のプレスリリースですと、KNOCK OUTの事業譲渡ということと、年内の大会日程しかわからない状態でした。「今後の同事業の展開等につきましては、7月中旬頃に発表をさせていただく予定でございます」と記されていて、まだ言えない話もあるとは思いますが、ひとまずKNOCK OUTを任された山口プロデューサーの声をファンも選手も聞きたいと思い、今回インタビューを申し込みました。
山口「譲渡がひとまず発表されましたが、色々、新体制について交渉中なこともあって、それによって7月中旬の発表内容も変わることになりそうです。8月になるかもしれません。」
――最初に事業譲渡と聞いた時は驚きました。でも、ブシロードグループは、声優や新日本プロレスなどのライブイベントが事業の大きな柱です。相当大変な状態なのは想像できたので、KNOCK OUTにも影響は出るだろうとは思っていました。いつ頃から譲渡に関わる話が出始めたのですか?
山口「3月頃からですね。今年3月にコロナがちょっと激しくなった頃、『すぐに辞めるわけじゃないですが、かなり厳しいです』と。そうしている間にコロナが一気に広がって、4月には『もう続けるのは無理な状態になりました』と言われて。やはり元からあった赤字は大きいと。」
――4月7日に政府が緊急事態宣言を出し、東京都などでは解除されたのが5月25日でした。その頃には撤退という話が決まっていたという事ですね?
山口「状況を考えれば仕方がないと思います。新体制になってから、興行単体で黒字化はできたのですが、社員・スタッフの方々の月々の固定費、テレビ番組の枠を買う費用や制作費もかかり、月々の経費は膨大な額になる。コロナ危機に突入し、興行単体での何百万くらいの利益では、今までの借金を帳消しにする状態にはとてもならなくて、それどころか更に積み重なっていく。それならば…、と会社が考えるのは当然かなと思います。僕も小さいながら、ジムを経営しているので理解できます。
去年のプロデューサー就任前の時点で、KNOCK OUTを辞めるつもりだったと。続ける条件として、興行単体でまた赤字になったら終わりで、とにかく黒字化する事が絶対条件でした。就任前、『前のような派手なKNOCK OUTはできません。我々はタニマチではないので、予算は今までのKNOCK OUTの半分程しかかけられません』と言われて、『あー、旧KNOCK OUTのファンや関係者からはボロクソに言われるな。でも仕方がない』と覚悟して取り組みました。とにかく抑えるところは抑えて、黒字にして少しでも継続する事をしなければ、終わってしまう。とにかく今は何を言われても我慢して、持続可能な組織に生まれ変わり、自前のスター選手を見つけて育てて、また会社が資金を回して貰えるような状態にするしかない。
予算が従来の半分だから、名前のある外国人も呼べないし、ファイトマネーが高い日本人選手も無理。となったら、試合数を組んで利益を出すしかない訳です。正直言えば、僕だって、そんな事やりたくないですよ。誰だって当たり前です。強豪外人やタイ人を呼んで、本物のリング!って、そりゃやりたい(笑)。でも僕の会社じゃないですからね。要求された事をやらなければならない立場ですから。だから2年かけてKNOCK OUTを再生させようと思っていたんですが、コロナの影響で、悠長な事を言っている状況じゃ無くなったんですよね。」
「ブシロードさんは、あくまで“コンテンツビジネス”という考え」
山口「あとやっぱり、声優やプロレスのライブをやって、1イベントで大量の収益を上げるブシロードさんからすれば、こんな経費かけてんのに、キックってこの程度の黒字しかならないの?という感覚もあったんじゃないでしょうか。プロレスに比べれば、格闘技のファン全体の数も少なくて、グッズの売れ方も全く違う。格闘技の場合、会社として続けるには、RISEさんやRIZINさんのようにスポンサーを取ってきて運営する形や、K-1さんのようにジム経営やアマチュアを含めた包括的なビジネスモデルの形のどちらかでないと、お金をかけた運営は難しいのでないでしょうか。ブシロードさんは、あくまで“コンテンツビジネス”という考えなので、そこのファンを生み出し、ビジネスとなるようにするには、相当な時間が、まだまだキックボクシングだとかかってしまいますよね。今まではガンガン広告宣伝費をかければ、すぐ様反応があったのに、なんでキックではこんなに少ないんだ?って。」
――他のブシロードのコンテンツと同じように、KNOCK OUTも山手線の駅にポスターを大量に貼る広報戦略をしていましたね。RIZINやK-1等の各団体も、もちろんコンテンツビジネスは目指し、会場に行けばグッズ売り場に列はできていますが、ブシロードの各事業に比べれば、まだまだだと思います。
山口「新日本プロレスはファンの裾野が日本全国どころか世界規模で、地方から東京ドームまで、会場にバンバン来てくれて、グッズ等をバンバン買ってくれる。なので、スポンサーを取って運営していくという感じではなく、あくまでコンテンツビジネスを育てていくんだという考え方ですよね。ジムを作ってアマチュアなどで育てていくという考えも提案したけど、それはゆくゆく考えましょうという感じの答えでした。まあ、ジムを作ったりする予算どころの話ではないから、仕方がないんですが。」
「ついてきてくれた選手の目標がなくなっちゃうじゃないですか。だからやるしかない」
――ブシロードからすれば、そのままKNOCK OUTの休眠や消滅という選択肢もあったと思いますが、山口さんへの譲渡となったのは?
山口「会社としてはもう無理だけど、KNOCK OUTという大会に関して、やってもらえますかということを言われたので。KNOCK OUTをやめますと言ったら、明確なピラミッドを2年かけて作ると就任最初に目標を掲げたのに、ついてきてくれた選手の目標がなくなっちゃうじゃないですか。だからやるしかないですよね。幸い、KNOCK OUTもREBELSもスポンサーさんや応援してくれる人が増えているので、テレビ放送以外の部分では、ブシロードさんいなくても、できる手応えは、ここ1年であったので、大丈夫かなと思いました。」
――もちろん変わらず大変でしょうけど、山口さん中心の体制に本格的になることで、ブシロードの意向とか、赤字の穴埋めを気にせず、ある意味、自由にできるようになると思います。
山口「会社として存続させないといけない一辺倒の状態から、ある程度、自分達の裁量でできるようになる。例えば『外国人選手は呼べません。どうしても呼ぶなら渡航費とか込みで○○万円以内で』という厳しい制約があったところが『ここは勝負だから○百万かけて呼んだとしても、話題性で取り返せる!』とできなかったことが、できるようになる。赤字になったとしても自己責任ですからね。もちろん、バブル的なことをするつもりは全く無いですけど、ファンの人のテンションが上がるようなイベントに出来ると思います。これまでは真逆の事しか出来なかったので。」
――格闘技の興行に長年携わった人ならではの、勝負所の直感って、絶対ありますよね。ここ1年、KNOCK OUTとREBELSの融合が進んでいましたが、基本的にはその路線は変わらない?
山口「そうですね。基本的には後楽園でREBELSをやって、勝ち上がった子たちが大会場でのKNOCK OUTに出る、そこでVS世界になるのがいいんですが、コロナの影響で海外から選手を呼べないですからね。やはり他団体さんと協力して日本一を決めるという舞台になると思います。ピラミッド作りは変わらず、やっていくつもりです。」
クラウドファンディングって、信用と共感なんだなって凄くわかりました
――8月30日のREBELS後楽園大会の第1弾決定カードは先日発表されました。新体制のKNOCK OUT初となる9月12日の大田区総合体育館大会はどうなりそうでしょうか?コロナ対策含めて。
山口「今、色々交渉中で、それも7月中旬に発表する予定ですので、楽しみにしていてください。コロナ対策も、8月末や9月になると、だいぶ変わると思うんですよね。僕自身もPCR検査をやってみて、現時点で2万円ぐらいで、抗体検査で1万円ぐらいなんですけど、たぶんもっと値段も下がって、検査する事が一般的になるんじゃないかなと思います。リングドクターの方と話しても、そのうち肝炎やHIVの血液検査と同じ部類になるんじゃないかと言われてました。イベントに対する世間の認識も、3~5月に比べ、だいぶ変わって来たと思うんですよね。勿論感染拡大しないように、政府、東京都が決めたガイドラインをしっかり守っていくのが当たり前ですが。」
――無観客でも、プロ野球やJリーグが再開すれば、世間の風向きはまた変わるんでしょうね。
山口「大会もそうでしょうし、ジムをやっていても、キックボクシングの練習に関しては、フェイスシールドやマスクをして換気をしっかりすれば、要は飛沫を飛ばないようにする事で感染を防げるのかなと感じています。」
――山口さんが経営するジム、クロスポイント吉祥寺も厳しい状態となり、クラウドファンディングを始めたところ、多額の支援が集まりましたね。
山口「元々、僕の頭にはクラウドファンディングは無かったんですよ。吉祥寺のジムの家賃だけで、月200万円ですから。ジムの2階のフィジカルトレーニング施設は撤退するしかない、1階だけにしようか、その1階だってこのコロナが長引いたら危ないな、…と思っていたんですけど、日菜太が『クラウドファンディングやりましょう!』と提案してくれて、渡慶次幸平が凄く協力してくれて、あの2選手の主導でしたね。クラウドファンディングって、信用と共感なんだなって凄くわかりました。苦しいながらも、長年、このジムで選手を育てて来て、あまり評価された意識は無かったんですけど、信用と評価をしていただいていたのかなと感じ、すごく励みになりました。コツコツ頑張って来て良かったなと、初めて思いました。本当にありがたいですよね。」
――6月3日に立ち上げ、わずか3日で目標金額の600万円を達成したのには驚きました。現在は約900万円で、今月いっぱいまで続きますね。
山口「コロナは秋以降、第2波が来ると思うんですよね。それを見据えた場合、さらにご支援をいただけると安心できるのかなと思います。でも、これだけ皆さんに応援して頂いたら、ますます選手たちは頑張らないといけないですね。」
――確かにそうですね。
「覚悟を決めてやり抜くつもりです」
山口「KNOCK OUTに関しては、これから、選手もファンも憧れる舞台にしていかないとけない。僕が就任して最初1年は、経済的な事情もあって、できないことだらけでしたが、これは仕方がない。僕は会社から要求された事に対して私利私欲を捨てて、できること全てやり切ったと思ってるので後悔はないです。むしろ、ここからが本当にスタートになるのかなと思っています。」
――広く立ち技格闘技界で、K-1ともRISEともシュートボクシングともムエタイとも違う、KNOCK OUTらしさが、ファンのニーズに合致する可能性が、まだあると思うんですよね。単に肘有り・肘無しとかルールの違いだけじゃなく。
山口「これから独自の色は出せるんじゃないかと思います。でも、僕はプロデューサーとは言っても、ぶっちゃけ言うと、RISEでアマチュアを担当していた頃から、アマからプロに行く明確な道筋を重要視していて、選手にとっての道筋を作りたい人間なんですよね。僕自身が選手時代にそうでしたから。練習環境を整えて、アマがあってプロがあって日本チャンピオンになって、その先に世界という目標があれば、選手はどこを登ればいいのか、どこを目指せばいいのかとわかる事でモチベーションが保てる。そこをしっかり作りたい。だから、僕がプロデューサーじゃなくていいんですよ。たまたま僕しかREBELSにはいないから、やってるだけで。僕は裏方でピラミッドの組織をしっかり作りたいです。本当に誰か相応しい人にやって欲しいと思ってます。
それから、結局、木谷さんにはお会いできてないので、伝えたいのですが、木谷さんをはじめブシロードの皆さんには本当に感謝しています。逆にチャンスを頂けてありがたいなと。あそこまでお金をかけたコンテンツ、ブランドの未来を託されたという事なので改めて責任を痛感しています。覚悟を決めてやり抜くつもりです。」
――KNOCK OUTを手放した後も、ブシロードが手掛けたイベントというイメージは多少は残るわけですから、KNOCK OUTのブランドイメージが向上すれば、ブシロードとしても幸いですよね。
山口「プロデューサーを1年やりましたけど、本当の意味でKNOCK OUTを引き継ぐのは、新体制になるこれからだと思います。」◆◆◆