厳しさ、を感じさせる大会だった。序盤からキャッチレスリングの創始者的存在であるはずの鈴木と伊藤が揃って黒星を喫し、高橋と近藤はチームGRABAKAの新鋭に勝利するも大苦戦。セミの渋谷の相手のイアン・フリーマンは突然腹部の痛みを訴えドクターストップがかかり、メインの菊田もバッティングによる大出血でドクターストップ...。21世紀のパンクラス開幕戦は、大会のキャッチフレーズ「幻想は20世紀に置いてきた」をそのまま体現するような、波乱の幕開けとなった。
今大会からはラウンド制導入、アウトサイドブレイクの廃止、全てのポジションでの蹴り技の解禁など新ルールが採用され、さらに人気選手が多数出場することもあり、昨年の10月大会(菊田×ブスタマンチ)の2300人を越す入場者数を記録した。ルール変更自体は選手のファイトスタイルをさほど変えなかったが、ラウンド制導入は各選手のアグレッシブさを促していたような印象を受けた。今回は負傷事故が続出したため結果として後味の悪い興行となった感は否めないが、パンクラスはこの新ルールをきっかけに格闘技本来のゴツゴツした激しさや厳しさを増していくのではという予感がした。
船木誠勝引退後、次期エース候補と目された近藤はUFC-Jでティト・オーティスに完敗。シュルトが無敵の王者を誇り、菊田が組み技での圧倒的な強さを誇示し、謙吾はストレートパンチで連勝の山を築きつつあるが、この3人がパンクラスのエースとなるには、まだ決定打が足りない。この日も近藤と菊田は苦い結果を残し、エースへの道のりの厳しさを感じさせた。
結果的に観客の一番の声援を受けたのは、休憩前の第5試合に登場し、修斗から移籍しての初試合を見事一本勝ちで制した佐々木有生だった。満場のパンクラスの観客は、生え抜きの渡辺大介の完敗に落胆することなく、他団体の新しい仲間の誕生を温かく迎え入れた。もちろん佐々木は今後美濃輪や山宮らに勝っていかなければエース級の選手にのし上がれないが、少なくとも今日に関して言えば佐々木がヒーローだったといえるだろう。観客には今後の佐々木の試合に期待感を持たせ、なおかつ大会の後味の悪さをかろうじて救った一本勝ちだったと思う。
そう考えれば、「エース」はいなくとも、その大会ごとの「ヒーロー」さえいれば、パンクラスは「何かが起こりそうな場所」としてファンの期待を吸い寄せ、過去の盛況を取り戻していくのではないだろうか? 「何かが起こりそう」というと、20世紀に置いてきたはずの「幻想」と一致してしまうが、20世紀の「幻想」が船木を中心としたエース物語だったとすれば、21世紀の「幻想」はむしろ、ルールという舞台装置が自然発生させるノンフィクションな場そのものであり、前世紀のそれとは似て非なる異質の物である。もちろんエースがいるに越したことはないだろうが、パンクラスの新ルールは、その心配を払拭させるに十分のポテンシャルを秘めているのではないか。次回大会、3月31日のなみはやドーム大会で、そのポテンシャルがよりはっきり証明されることを期待したい。