近頃の山本は自信満々である。グラウンド、わけてもポジション取りの巧さは誰もが認めるところだが、本人にはそれで勝とうという意識はさらさらない。それどころか、あくまで打撃戦、それも技術というより気迫勝負の打ち合いに持ち込むことを何よりの目標としている。　
　
　呼吸せずに一分間に掌底100発。　
　
　格闘技マンガの秘密特訓のようなことをあっけらかんと語る。　
　
　一方の高阪は、何より「頭で闘う」ことに拘っているタイプである。高阪にとっての格闘技は、しばき合いでも、レッドゾーンでも何でもない。相手選手との全知をかけた将棋の差し合いであり、チェスの詰め合いである。　
　格闘技の捉え方がまるで違う両者。　
　にも関わらず、幾多の名勝負を生み出しているというのが、実に面白いところだ。　
　
　試合は、まず、短い打ち合いから始まった。　
　グラウンドにすぐ展開を変えるかと思われた高阪だが、真正面から蹴り合いに応じる。スミスのところでのトレーニングの成果を出していこう、という感じである。　
　逆に山本が組み付いてグラウンドに誘う。　
　ポジション取りは山本優位である。マウントからサイド、上四方、またサイドと高阪の上に載っている時間は長い。だが、そこから極めにはいけない。逆に高阪は、腕十字、膝十字、そしてアンクルと的確な攻めを見せる。下からの極めという課題に自ら挑んでいるようだ。そして、ついにアンクルで山本からファースト・エスケープを奪い取る。　
　
　山本が展開を変えに出た。　
　しばき合いである。掌底、掌底、膝、掌底。高阪、たまらずにダウン。　
　だが、再開すると、高阪も打ち返す。コーナーに山本を縫いつけてミドル、ハイ、ミドルとキックの乱れ打ち。防戦一方の山本にスタンディング・ダウンが取られる。　
　
　一気に乱戦ペースとなっていく。　
　スタンドでの打ち合い。そこからグラウンドにもつれ込む。上になるのは山本。だが、極めを狙って攻め込むのは高阪である。マウントを取っても何をしても高阪の足が下から腕を、首を刈りに動き、腕十字、三角と下から次々と攻めに行く。山本、三角でエスケープ・ポイントを重ねる。スタンド再開後、交錯する山本の張り手と高阪のミドル。間合いがつまると高阪が飛びつき腕十字を狙う。それを抜いてマウントを取り、十字狙いに出る山本。だが、またも高坂がアキレスに切り返し、エスケープ。　
　ここで再び山本の思いきった掌底ラッシュ。　
　掌底、張り手、そして膝。　
　ポーカーフェイスの高阪の顔が歪む。倒れる。もがく。体を起こす。　
　しかし、テン・カウントのうちに立ち上がれず、ＫＯが宣せられるとそのままひっくりかえってしまった。　
　
　高阪は闘い方のスタイルの変更を試みている最中だと語った。　
　この試合で見せたスタンドでの積極的な打撃、そして上を取られてからの的確な攻めはその一端だろう。トライアルに関しては手応えはあったと言う。だが、それでも、「山本さんは掴みきれなかった」と。　
　確かに山本を掴むのは難しい。　
　山本の技術と天分をもってすれば、グラウンドで相手を完全に封じ込め、きっちりと勝ちにもっていくことは簡単だろう。普通に考えれば、そうした方が勝ちに結びつきやすいはずだ。　
　だが、実際には、そういう合理の世界を越えた試合展開に、山本は、敢えて引きずり込んでいく。しばき合い、ばちばちに持っていくのである。その上で、お世辞にも綺麗とは言えない打撃で、ＫＯ勝ちをものしてしまう。それでもってランキング２位である。　
　どう評したらいいのか。　
　
　その山本は、何と、ＵＦＯの小川との対戦希望を表明した。　
　桜庭とか、エンセンとか、ケァーとかであったらわかりやすい。高田でも、まぁ、想像の範囲内である。それが小川。　
　しかも、東京ドームでの最後の対橋本戦しか試合を見ていないという。　
　　
　考えすぎずに、ただ単に、わくわくと待っていればいいだけなのかもしれない。　

（山名尚志）

取材：山名尚志・岩田貴宏・薮本直美　カメラ：井田英登
HTML編集：井原芳徳