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[File 0009] 小石原勝「ジャパニーズ・ムエタイ、爆発のとき」

 「格闘技」という言葉を英語でいうとマーシャル・アーツ。「Arts」という言葉には芸術や技術といった意味があるが、一流の格闘技選手たちは皆、リングの中での体の動きだけでなく、リング外での言動や生活でも非凡な才能を発揮する時がある。

 千葉県の郊外、京成八千代駅のすぐ近くにある習志野ジムの樫村謙治会長は、かつて立嶋篤史や加村健一(新日本キック・バンタム級王者)を育てた名コーチだ。

「立嶋は絵がうまくてね、よく俺の絵とかを描いてくれたんだ。加村はタイで産まれたんだけど、タイ語を日本語に訳す時の訳し方が凄く繊細で、自然なんだよね」

 かつての弟子の思い出話を語り始めると、会長の顔から笑顔がこぼれる。そして6月18日のIKUSA GPに参戦が決まった小石原勝も、樫村会長が「凄く頭がいい」とベタ褒めする愛弟子の一人だ。
 

 マーシャルアーツ日本スーパーフェザー級王者・小石原のリング外での才能は、会社経営である。高校中退後、電気通信工事の仕事を始め、経験を積むうちに独立。外務省関連の海外の重要な仕事等を請け負い、起業当時は頻繁に海外出張をしていた。仕事に追われ、20歳過ぎから始めたキックボクシングになかなか専念できなかったが、33歳の昨年11月でようやく初の王座奪取。遅まきながらも花を咲かせられたのは、経営が軌道に乗り、5人の社員に海外出張等の実務を任せられるようになり、以前より練習がしやすくなったことも一つの理由だという。

 今はスーパーフェザー級の小石原だが、数年前までライト級で試合をしていた。「練習に専念できたら、本当はフェザーの体」と樫村会長は評する。小石原は29歳の時、当時デビュー以来7連勝と日の出の勢いだった木村允(現MA日本ライト級王者)と対戦している。投げの反則による減点さえ無ければ木村の連勝記録を止められたほどの大接戦だったが、この時ほとんど練習しないまま試合に臨んでいたという。初の大舞台となったコンバット2002トーナメントの時もそうだった。

 しかしそんな小石原が、今度のIKUSA GPに向けて過去になく練習しているという。仕事は夕方4時に切り上げ、習志野ジムに直行。年齢的なハンデが心配されるが、樫村会長は「僕は選手を評価する時、筋肉を見るんだけど、小石原は30過ぎの割に筋肉がいい」と身体能力の高さを評する。オーバーワークになりそうな時も、しっかりと休養を取ることで体調を維持してきた。そして何より本人の気持ちの面での充実度が高い。「そんなに先が長いと思っていないから、どうせなら強い選手とやっていきたい」と語る小石原にとって、各団体のチャンピオンクラスが集まるIKUSA GPは最高のチャンスだ。
 

 だが習志野ジムは典型的なムエタイスタイル。IKUSAのリングは小さく、足を使った攻撃がしにくい。しかもGPは肘が反則となる。小石原にとって不利な舞台だが、ここ数ヶ月練習時間が作れた分、IKUSA用にシフトした「ジャパニーズ・ムエタイ」スタイルを錬ることができた。スパーリングの量を増やし、これまで足りなかったスピードとパンチを強化。とはいえデビュー当時はパンチが得意だったといい、長年封印していた武器を改めて磨き直したと表現したほうが正確かもしれない。

 一回戦の相手・山本真弘(全日本キック・フェザー級2位)対策も抜かりがない。コンビネーションと出入りの早さには警戒するが、一発の破壊力と首相撲なら負けないと小石原は言い切る。サウスポー対策に関しても、過去にサウスポー相手で敗れたのは先述の木村戦のみということもあり、特に不安はない。試合が決まってからはサウスポーとの練習量も増やした。

 樫村会長は言う。「慣れないリングで、違うルールで戦うんだから、一回戦がヤマ。エンジンがかからないうちにやられちゃうと一番困る。けどそこでベテランの“味”が活きればね、相手のいいものを封じて勝つことができますよ。山本選手の師匠の藤原敏男会長は日本人で初めてラジャダムナンのチャンピオンになった英雄ですから、そこの選手に『ジャパニーズ・ムエタイ』の小石原が勝つことができたら最高ですね」

 小石原はもうすぐ産まれる2人目の子供にIKUSA GP優勝を捧げたい考え。家庭生活との両立が心配されるが、独立独歩で会社を起こし育てた彼は、「奥さんを説得できないようじゃダメ」とまで言い切る。

 「何事も中途半端にやるのが一番嫌い」

 ありふれた言葉だが、己の持てる“Arts”を多方面で頑固に磨いてきた小石原の口から発せられると一味違う。天の時、地の利、人の和。その3つが揃った今、小石原の“戦いのArts”『ジャパニーズ・ムエタイ』がIKUSA GPのリングで大爆発する。◆◆◆


聞き手:井原芳徳(2005年5月26日(木)、千葉・八千代:習志野ジム近くの樫村会長行きつけの中華料理屋にて)
写真:米山真一(習志野ジム/MA日本キックボクシング連盟公認カメラマン)


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Last Update : 06/15 02:23

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