K'zのニュー・スター、植松直哉。二度目の北沢大会、メイン登場である。
　先立つ四試合は、全て、時間切れに終わった。必ずしもそれが悪いわけではない。だが、やっぱり、一本勝ちのカタルシスに勝るものはない。この状況を控え室から見ていた植松は、「ここで自分がすっきり勝ったら一人勝ちですね」という話をしていたという。メインイベンターに相応しいキャラクターである。
　エリック・ペインは二度目の参戦。昨年11月の後楽園では、巽に破れはしたものの、スピーディーな寝技の攻防でその実力を印象づけた。

　この二人も思い切り体格が違う。 　無論、ペインの方が高い。180cm。植松は162cmだから、なんと18cmの差である。登場と共ににらみつける植松。ボディ・チェック時に近寄ると、つま先立ちで精一杯背伸びをし、ペインと張り合う。下からの視線が凄い。

　プロである。会場の期待がぐわっと膨らんでいく。

　ゴングがなる。
　パンチに出るペイン。そこに潜り込む植松。
　あっというまにテイクダウン。そのままペインの足首を取る。体を起こして逃げようとするペインだが、放さない。さらに体を返して、ヒールホールドをばりばりっと極めてしまう。
　苦悶の表情でタップするペイン。
　鮮やかな、実に鮮やかな勝利だった。

　「今日は、珍しく、作戦通り。巽さんとのビデオを見て、こちらの左に左に回ることはわかっていましたから。後は速攻で極めてしまおうと思っていました」。鼻血を気にしながら、植松は、そう語った。どうやら、頭からタックルで突っ込んでいった時、鼻をぶつけたらしい。「この鼻血さえなければ満点だったんですけれど」。

　初の国際戦ではあったが「柔道の時も国際試合は多かったし、サンボのパンアメリカンにも参戦していましたから」それは全然どうということはなかったという。寧ろ、気になったのは、K'zの初の主催興行のメインをつとめるということ。だが、そのプレッシャーも、逆に、「ここですっきり勝ったら一人勝ち」とプラスに発想してしまう。そして、もしかしたらプロにはあるまじきことかもしれない、と断りつつ、「自分のことしか考えてませんから」と言い放った。

　お客さんのことを意識するのがプロのスポーツマンの条件ではない。
　そうではなく、逆に、お客さんに、自分のことを「意識させてしまう」ことこそが、プロとして、主役をはっていける才能だ。
　その意味で、植松には、まさにタレントがある。
　これからのライト級は実に面白くなっていきそうだ。

（山名尚志）

［第１試合］戸井田×勝田

［第２試合］西澤×勝村

［第３試合］竹内×鶴巻

［第４試合］秋本×廣野

＜大会総評＞

＜全試合結果＞