ネーム入りのスパッツを着て入場してきた後藤。かつて次回の対戦を控え、「緒形!待っとるで!」と叫んだ日から1年近く経とうとしている。その直後の試合で欠場に追いこまれた緒形健一の復帰戦の日に、追いこんだ相手であるエバンスと対戦。単なるセミファイナルではなく、現在の3人の構図を計る意味合いもある試合だ。
柔道のベースを持つ後藤は、昨年からシュートボクシングでも活動してきた。キック、空手を含めあらゆるルールの試合に出場する後藤はこの大会のタイトルである”立技バーリトゥード”を体現している。エバンスもDRAKAの王者であるだけに、投げの攻防は熟知している筈。そして緒形を欠場に追いこんだパンチ。両者がこの試合で見せるのは”打ち合い”か、”投げ”か。
1R開始直後、エバンスはいきなりタックルを仕掛ける。これを首投げに持っていこうとする後藤。エバンスはこれを潰し、両者が倒れる。ブレイクがかかり、スタンドで再開となる。この攻防が何度か繰り返される。エバンスは後藤の打撃を警戒してか、執拗にタックルに入ってくる。後藤が放ったミドルをキャッチ、そのまま足を抱えて倒すなど、今日のエバンスは”投げモード”かと思いきや、このあと突進して大ぶりのフックを繰り出していく。しかし後藤もこれをくぐり密着し、潰す。投げと打撃が局面ごとに現れる。ここまでの「打ち合いの中の一瞬に投げが入りこむ」展開とはまったく違う試合だ。
中盤、後藤が首投げに入ろうとするところでエバンスは胴を抱え込み、後方へ投げようとする。しかしこの形を後藤が崩し、両者はキャンバスに倒れる。このとき後藤の下敷きになり一瞬顔をゆがめるエバンス。
このあと、またしてもエバンスのタックルを首投げに取る後藤。しかしここからバックに回り込みながら投げを放とうとするが、ここから意外な展開となった。
後藤はスタンドのまま、関節技を仕掛けたのだ。腕がらみに近い形で後藤がエバンスの腕を極めにかかる。エバンスに苦悶の表情が浮かぶ。
突然の「立技関節」のシーンに騒然となる場内。エバンスがグローブで身体を叩き、タップした。
レフェリーが手を振る。試合終了のゴングが鳴った。
無理もない。関節技が出るなどとは誰も予想していなかったのだから。終了後もざわめく場内にアナウンスが流れる。「タップによる決着である」と。
正確には、ギブアップの表明を受けてのレフェリーストップ、ということになる。しかし実質一本勝ちといっても差し支えないだろう。
確かにシュートボクシングのルールには「ギブアップによる決着」が明記されている。そして反則項目には「関節技」は、ない。このルールをエバンスは理解しきれていなかったのだろう。ゆえに、ディフェンスの術をまったく講じられぬまま、エバンスはタップすることになった。「なぜレフェリーが(関節技という反則を)止めないのだ」とエバンスは訴えた。だが裁定が覆ることはなかった。
この攻撃について後藤は、「大ぶりのフックかタックルばっかりだったんで、どうしても僕の距離ができなかったんですよ。途中から、タックルに膝合わすよりも、手だなと思ったんですよ」と語った。後藤は、ルールを理解しつくしていた。
”打ち合い”でも”投げ”でもなく、”極め”のシュートボクシング。
立技バーリトゥードの新たな側面が、後藤の勝利をもって示された。
そして、勝利後リングで「緒形さんを応援してあげてください」と観客に向かって言った後藤は、もう緒形のライバルには見えなかった。
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