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k-1K-1 WORLD GP 2000 in 名古屋
7月30日(日)名古屋市総合体育館 レインボーホール

第4試合 トーナメント一回戦 
ジェロム・レ・バンナ
(仏/ボーアボエル&トサ・ジム)
3R判定 3-0

28-30,29-30,29-30
マーク・ハント
(NZ/トニー・ムンダイ・ボクシングジム)
×

「バンナ、不倒サモアンに慎重スタート」

Text By 高田 敏洋 & 井田英登

今、“K-1で最も危険な男”といえば、ジェロム・レ・バンナ以外にあるまい。

4月の「K-1 MILLENIUM」では極真世界王者に輝いたフランシスコ・フィリョの復帰戦を、これ以上ない豪快なKO劇で黒星に染め、満天下に傲岸不遜な暴走マシンぶりを見せ付けたばかり。その対戦相手に抜擢されたのがサモア出身の新鋭マーク・ハント。今のバンナは日本初お目見えの選手の対戦相手には荷が勝ちすぎる存在である。

だが、ハントという選手はどこか飄々とした印象のある選手で、相手の怖さなどまるで感じている風には見えない。サモアといえば、大相撲の曙や武蔵丸など、非常に頑丈で基礎体力のあるタイプが多いというイメージをお持ちの読者も多いだろうが、良く言えばタフ、悪く言えば茫洋とした感じである。無論、このハントの実力は素晴らしい。あのレイ・セフォーの実弟レニーを準決勝で敗ってオセアニア地区予選を制しただけに、その未知なる実力には期待が高い。これまでKO負けの経験が無いというこのタフ・ガイを倒すのは、バンナとてもたやすいことではないだろう。

しかし、試合前日行われた記者会見で、バンナの決勝進出を半ば既定の事実として語る報道陣に対して、釘を刺したのは石井館長だった。「格闘技の試合ですからね、絶対ということはありませんよ。バンナがマーク・ハントに負けることだって僕は十分ありえると思っています」と。


に仕掛けたのはハントの方だった。

遠い間合いから踏み込んでのボディへの右ストレート。そして同じく遠間からの左ロー。しかしどちらかというと、自分からアグレッシブに責めて出ているというより、バンナが全身から放つプレッシャーを押し戻したい一心で“手を出さされている”といった印象もないではない。

「ナーバスになってたところはある。誰だってあのバンナのパンチを貰いたくはないからね」とハントが語るのも無理はない。体重差こそ6kg程度だが、バンナより12cm低いハントにアウトボクシングは不利だ。なんとか、沈み込むような体勢からバンナのインサイドに入り込もうと試みる。このハントの狙いそのものは悪くない。離れるか、それともいっそ内懐に飛び込むか。どちらにしてもバンナのパンチが最も活きる圏内にポジションしないように気を使っているのが判る。


が、一旦バンナが怒濤のような攻撃を見せるとハントも堪らない。ラウンド後半になるとしばしばコーナーに追い込まれ、パンチとローの乱れ打ちを受けて防戦一方に。

しかし、そのピンチを凌ぎきったのは、ハントが見せた意外なまでのテクニシャンぶりゆえであった。ボクシング出身者らしく、ディフェンス一辺倒に追い込まれた状態でも上体のウイービング、ダッキングを繰り返し、決定的なパンチを貰わない。それでもいくつかのパンチは顔面にヒットしていたように見えたが、それも持ち前のタフさゆえか、決定的なダメージにまで至らない。相手がバンナであることを考えれば、このボディ・ワークの巧さとタフさは、やはりこの不敵なサモアンの潜在能力が並々ならぬものであることを示していたと思える。

(ハント-バンナ 9-10、9-10、9-10)


の試合では、バンナはローキックを多用した。

「普段の練習はやっぱりパンチが中心だがね。(左ストレートはかなり研究されてきているから)新しい技も開発しないと」というように、このローキックがまた重くて速い。ハントはこのローをかなり嫌がっていた印象があったが、このラウンド以降のバンナはいつになく慎重で、一気に持っていこうとするいつもの強引さを見せない。

試合後のインタビュウでも頭一つ低い相手との対戦はやりにくかったか?という質問に対して「そういうアホな質問は辞めてくれ。これはK-1なんだ。トーナメントなんだ。一試合一試合慎重に行ったところはあったが、『やりにくかったんじゃないか』とか、そんなことは言われたくない。」と噛みついたあたり、逆にフィニッシュに持ち込めなかった自分の試合展開がもどかしかった証拠であるとも取れるだろう。
(ハント-バンナ 9-10、10-10、10-10)


分でも慎重だったと認めるとおり、決定的なシーンの見られなかったこの試合だが、バンナはこのラウンド、強引な追撃は掛けなかった。

ここまででポイントを既に得ていると計算したのだとしたら、やはりバンナも一筋縄ではいかない役者である。これまで、さんざん“暴走サイボーク”だの“ブレーキの壊れたブルドーザー”だのと揶揄され、その一直線ぶりを指摘されてきたバンナだが、ここに至って自分なりのトーナメント対策を固めてきた証拠だからだ。そのワン・マッチでの強さは誰もが認めるものだが、その集中力過剰ゆえに去年のGPでホーストに苦杯舐めさせられた経験が試合に臨む考え方に影響を与えたのだろうか?

判定はアグレッシブに攻め続けた1、2Rを評価しバンナの勝利を認めたが、“バンナ相手に倒されなかった”ハントの実力も疑うことは出来ないだろう。相手の攻撃をかいくぐる天性の勘はどこかレイ・セフォーを彷彿させるところがあったし、またその右パンチ(ストレート、アッパー)は、一発当たればバンナといえどもあわやと思わせるモノを持っていた。

(ハント-バンナ 10-10、10-10、10-10)



想外の慎重さで着実に一回戦を勝ち上がったバンナ。この戦略をもって“暴走サイボーグ”に新たなコンピューターが搭載されたと見るか、それとも単にミサイルを撃ちあぐんだと見るかは、正直なところ現段階では結論が出せない。しかしこの試合の後の第2試合では、その爆発的攻撃がこれまで以上に暴発していた事をみれば、バンナの怪物性は否定できない。やはり、“K-1で最も危険な男”の称号はこの男のためにあるといっていい。


一方のハントは敗れたとはいえ、初の大一番をまたもやKO無しで乗りきり、最長不倒距離をのばす事に成功した。試合でも見せたその飄々としたキャラは捨てがたい。実際、今回はK-1という大舞台での初試合、あるいはバンナというネームバリューに少々気圧されていた側面があり、実力全開とはいかなかったようだが、経験を重ね、自信を付けてくれば、その潜在力はあなどりがたい。

それに、何よりあの人を食った“西郷どん”チックな風貌が生み出す巧まぬユーモアは、K-1の新キャラクタとして、なかなか期待を寄せたくなるではないか! これまでロイド・ヴァンダムやマット・スケルトン、そして我らがノブ・ハヤシらによって脈々と受け継がれてきた“K-1アンコ型ファイターズ”の系譜に新たなる1ページが刻まれたのか知れない・・・・ったら知れないのである(笑)。

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写真:井田英登

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