BoutReview Logo menu shop   Fighting Forum
Report

k-1K-1 WORLD GP 2000 in 名古屋
7月30日(日)名古屋市総合体育館 レインボーホール

第3試合 トーナメント一回戦 
ニコラス・ペタス
(デンマーク/極真会館)
1R 1'27"

KO
リッキー・ニッケルソン
(英/バックレイKBジム)
×

「若獅子、再デビュー」

Text By 高田 敏洋 & 井田英登

こかレトロで、古ぼけた印象のあるピアノ伴奏が名古屋レインボーホールに響き渡った。軽快なロックやリズミカルなテクノサウンドのテーマソングに慣れた我々にとって、これは意表を突かれた。古色蒼然としながらどこか凛とした雰囲気があるその曲に、一種独特のムードが場内に満ちた。

「極真若獅子寮歌」である。

その曲に乗って入場して来たのは、極真の胴着に身を包んだニコラス・ペタスだ。流暢な日本語を操る、青い目の極真戦士。大山総帥最後の内弟子。

「あのテープは、もう2〜30年前のかな。若獅子寮で使ってたテープをそのまま持って来たんで、声、揺れてましたね。テープがもう延び延びなんで(笑)」このテーマを使った事に対して照れ笑い混じりに答えたペタスだが、この曲に込めた思いと決意は、端で見る我々には思いも寄らぬほど深いに違いない。


初、同じ極真出身のサム・グレコとの空手家対決が予定されたが、グレコは四月のホースト戦で負った怪我が癒えず欠場。急遽、対戦相手がリッキー・(ザ・タンク)・ニッケルソンに変更された。ニッケルソンは昨年6月の福岡での予選トーナメントで、1Rミルコ・フィリポビッチにKO負けした選手。今年はK-1イギリス予選で準優勝しリザーバーの権利を獲得。ニッケルソンにすれば、降って沸いたようなチャンスが転がり込んできた格好だが、マッチメイク的には極真新旧対決というテーマが消えて、いささか気の抜けたカードになった感が否めない。


が、チャンスを物にできるタイプの選手とできない選手の間には明確な一線がある。たとえば、ついさきごろのK-1 JAPAN GP 仙台大会で、アーツのワンマッチの相手に抜擢されたシリル・アビディは、まさに前者。シドニーオリンピックの代表決定戦に向けて、きちんと体調を作っていた彼が、帝王アーツをKOに葬って、一気にスターダムに躍り出てからまだ1ヶ月が経過していない。

一方、ニッケルソンはリザーバーという、本来刀を磨いていつでも抜ける状態にしておかねばならない立場にもかかわらずと「2日前の金曜日、空港にいるときに出場が決まって、その時点で体調は70%くらいだった」などと言っており、幸運の女神に微笑まれる資格にはちと準備が足りなかったようだ。ニッケルソンは6月のスイス大会にも参戦、ステファン・レコと対戦しているが、その時「左膝の2〜3年来の古傷を痛めてしまっていた」という。

その左膝にいきなりペタスの挨拶代わりの右ローを打ち込まれたのも、この試合で幸運の女神がどちらを向いていたかを如実に物語る。「ああ、これが効いたなって。焦っちゃってたんですよ(ニッケルソンの)顔が。(ペタス)」


かし、ペタスは変わった。ヒゲを蓄えたこともあるのだろうが、それまでどこか線の細さが残っていた面持ちに重みが加わり、その瞳になにか説得力のある視線の力のようなものが宿るようになった、といえば言い過ぎだろうか?たかが容貌と侮るなかれ。「面魂」という言葉もあるように、人の魂は往々にしてその顔つきや表情に宿るとされる。二年前の名古屋ドームに参戦した時には感じられなかった、強い意志のオーラがこの日のペタスには間違えなく宿っていたのである。

二年ぶりのK-1。しかもその二年前は顔面攻撃に関する技術を殆ど持たない状態でステファン・レコと対戦し、一方的に打たれてのKO負けを喫したその試合。その屈辱を忘れなかった男の魂が、彼のたくましく、そして精悍になった表情にはしかと刻まれていた。

の2年、極真のトレーニングと併行してペタスがグローブ・テクニックを磨くために様々なトレーニングを重ねていたことはつとに有名で、昨年は新空手の大会にも参加し優勝をさらっている。

在の彼のパンチ技術は2年前とは別人の域に達している。この試合でも相手のパンチをしっかりとグローブ・ガードで凌いだ後、上、中、下と空手家らしい多彩な蹴りを繰り出す非常に落ち着いた試合ぶりを見せた。試合そのものも、前述のペタスの最初のロー一発で決まっていたというべきで、既にニッケルソンは立っているのがやっとという状態になっていた。自分の繰り出した蹴りでありながら、カットされてスリップ・ダウンし苦悶の表情を見せる。最後は右ストレートを狙って飛び込んだニッケルソンの左膝の爆弾に、再びペタスの右ローがヒットして万事休す。

「一流選手とはちょっとランクが違うから、自分の方が上だっていうことを、ハッキリと証明したかった。(試合開始当初)ちょっと堅かったんですよ動きが。だから早く決めたかったというよりは、3ラウンドやりたかったんですけど」とは言いながらも、K-1のリングで初白星を上げた試合終了直後のペタスは、非常に気合いの入った表情でリング上をアピールして演った。まさに再デビューにふさわしいインパクトのある勝ちっぷりで勢いのついたペタスは、次に控える“極真の宿敵”ジェロム・レ・バンナとの一戦へと突き進んで行くことになる。

結果一覧に戻る
← 前の試合  / 次の試合 →

写真:井田英登

TOP | REPORT | NEWS | CALENDAR | REVIEW | BACKNUMBER | STAFF | SHOP | FORUM


Copyright(c) MuscleBrain's All right reserved
BoutReviewに掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はマッスルブレインズに属します。