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(写真) [Dynamite!!] 12.31 大阪:KID“神の鉄槌”で王座へ。所、ホイスに肉薄

FEG "FieLDS K-1 PREMIUM 2005 Dynamite!!"
2005年12月31日(土) 大阪・大阪ドーム
観衆 53,025人(超満員札止め)

レポート:山口龍(K-1ルール)井田英登(HERO'Sルール)
写真:矢野誠治

【→カード紹介記事】
  [掲示板:K-1ヘビー/MAX/HERO'S]

第11試合 HERO'Sミドル級(70kg)世界最強王者決定トーナメント決勝戦 5分3R(マスト判定)
×須藤元気(日本/ビバリーヒルズ柔術クラブ)
○山本“KID”徳郁(日本/KILLER BEE)
1R 4'39" K.O.










第10試合 HERO'S特別ルール 10分2R
△ホイス・グレイシー(ブラジル/チーム・ホイス・グレイシー柔術)
△所 英男(日本/リバーサルジム)
2R 時間切れドロー






第9試合 HERO'Sルール 5分3R
×曙(日本/チーム・ヨコヅナ)
○ボビー・オロゴン(ナイジェリア/フリー)
3R 判定0-3(平29-29:オロゴン 礒野29-29:オロゴン 松本29-30:オロゴン)








第8試合 K-1ルール 3分3R(延長1R)
○セーム・シュルト(オランダ/正道会館/K-1ワールドGP '05 世界王者)
×アーネスト・ホースト(オランダ/ボスジム)
2R 0'41" T.K.O.(ドクターストップ)






第7試合 K-1ルール 72kg契約 3分3R(延長1R)
○魔裟斗(日本/シルバーウルフ)
×大東 旭(日本/チーム・クラウド)
2R 1'58" T.K.O.(3D:右ローキック)


K1 MAXの代名詞でもある03年王者、魔裟斗、挑むは元全日本ボクシング王者大東。ボクシング時代を通じても、これだけ世間の注目をあびたことはあるまい。それほどに今の魔裟斗の立つポジションは世間的にも高い位置にある。ただし、その背景には、徹底した自己研鑽と、成功への希求が隠されている事は言うまでもない。一度は格闘者としての道を断った大東は今や35才。K-1ルーキーであるという言い訳は通用しない。いくつかの僥倖が重なって舞い降りたこのチャンスは、彼にとって“最初で最後”となっても、何の不思議も無い。

事実、魔裟斗は戦前からお祭りムードに流される事を拒否しており「相手はK-1を舐めてると思うんで、思い知らせてやる。一月一日になって、やらなきゃ良かったって後悔させてやります」と戦闘モードの発言に終始している。彼が渇望し、具現化してきた“K-1王座”という頂点は、他ならぬ彼自身が身を削りハードルを高くして、今の位置にまで押し上げて来たものだ。一度現役を終えたようなロートルボクサーに容易く手が届く物ではあってはならない。緊急参戦という華々しい話題にではなく、そんな鬼気迫る発言の数々にこそ、魔裟斗の「K-1愛」が感じられた。

1R大東が1,2のパンチコンビネーションで魔裟斗を攻めるが、いささか大振りに過ぎる。バックステップで躱して行く魔裟斗のコントロールで標的が捉えられないのだ。ボクサーにはあるまじき、精度を欠いたブンブンスイングこそ、魔裟斗がゲームの主導権を握っている証左なのだ。


一方、遮二無二飛び出して行くと、左右の切れのあるローが大東の足を止めてしまう。骨折した左はまるで平気だとばかりに、初弾でこそ左を出した魔裟斗だったが、その後のは右ばかり。やはりまだ完全な治癒状態とは言えないのだろう。

だが、度を失って大振りなスィングに終始する大東に対しては、それで十分。魔娑斗は軽やかなステップで大東の突進を躱し、まるで闘牛のようにゲームを進めて行く。完全に魔裟斗のキックの間合いだ。大東のパンチはいずれもグローブ一個分、魔裟斗に届かない。ローのダメージより、自分が翻弄され続けているという実感を植え付けられる方が、大東には屈辱であったのではないか。それほど、魔裟斗の試合運びは圧倒的だった。ラウンド終了間際には、右ハイからの右ローキックでダウンを奪い、試合を完全に自分色に染め上げてしまう。

2Rも大東は悪夢の中でもがくように大振りのパンチで攻めるが、魔裟斗は大東のパンチ攻撃をことごとく見切り、逆にストレート、右ハイをヒットさせ、得意の右ローでダウンを奪う。大東はなんとかカウント8で立ち上がるが、ローのダメージの蓄積が大きい。ほとんど、もうフィニッシュ間際の闘牛という感じで、サウスポーに構えなんとかダメージを軽減しようとする大東を、容赦なく魔娑斗のローが切り刻みダウン奪取。結果はTKO。

魔裟斗はまたもや、自らの手でMAXの、そしてK-1の権威を守り切った。ルックス本意のヤワなヒーローではない事を、魔娑斗はこうやって一個一個の勝利で刻んで行く。その大いなる成果を横取りしようとするには、大東はあまりに修練の足りない挑戦者でしかなかった。


第6試合 K-1ルール 3分3R(延長1R)
○武蔵 (日本/正道会館)
×ボブ・サップ(アメリカ/チーム・ビースト)
判定 3-0(御座岡28-26 川上28-26 岡林28-26)

※2R 0:46 サップの後頭部攻撃の反則で3分間試合中断。サップに減点2。

二年連続K1準優勝と今や“世界の”トップフアイターとなった、武蔵。パワーと向上心は人一倍とはいえ、既にファイターとしては粗が出尽くした感のあるサップが相手となれば、勝利自体より、勝ち方を問われる部分が出てくる。万が一遅れを取るようなことがあれば、“K-1ファイナリスト”の肩書き自体が疑われる。

チャレンジャーであるサップは、デビュー時を彷彿させる怒涛のラッシュでスタート。武蔵をコーナに追い詰め、ボデイブロー。しかし武蔵自慢の高速フットワークでこれを躱し、鋭いワンツーでサップの出鼻をくじく。サップのプレッシャーは続くが、武蔵の足は止まらない。パンチのフエイントをいれながら回る武蔵。2Rにもなると“想定通り”サップはガス欠の症状を覗かせ始める。武蔵はサウスポーからのワンツーストレート、距離を取り左の前蹴り、サップが下がり始めるとすかさず左ミドル、とほぼ戦略通りに試合を組立てて行く。

だが、本人自身も「相手がサップなんで、どうせ何かが起こるやろうと予想はしてました」と語る通り、そこまでのお膳立てをひっくり返すような“悪夢”が待っていた。パンチラッシュで武蔵をコーナーに押し込むことに成功したサップだが、武蔵は逃げ場を失って背を向ける形に。せっかくの好機に“掛け逃げ”的に攻撃を疎外してしまった武蔵にキレたのか、いきなり後頭部に振り落とすような左右のオーバーブローを落とし始めるサップ。当然、これは反則攻撃であり、武蔵は抗する術も無く、崩れ落ちるかのようにダウンしてしまう。

大の字に伸びた武蔵の姿に、第三試合の光景が蘇る。あわや試合続行は不可能かと思われたが、ここで武蔵は男を見せる。なんと回復5分のインターバルに対して、武蔵は3分間で十分とアピールしたのだ。その姿は、むしろ昨年、この舞台で金的攻撃を喰らいながら、試合続行でDynamite!!全体のピンチを救った、KIDの勇姿に重なる。客席からも武蔵に、熱い拍手と声援が飛ぶ。

試合再開後、ダメージの残る武蔵に千載一遇のチャンスとサップがラッシュを仕掛ける。このサップのストレートで武蔵はダウン。奇跡の復活劇もあったが、勝負はここまでかと思われたが、なんと武蔵はカウント8で立ち上がる。むしろこの日の彼の気力には、“空手家”と呼びたくなる精神力が感じられた。2000年前後の、ここぞと言うシーンに弱々しくダウンを喫してファンの期待を裏切りつづけてきた、“あの武蔵”とは全くの別人ではないか。

最終ラウンドは、ダメージの回復した武蔵のワンサイドゲームと言っても良い展開となる。サップは起死回生に、闇雲なラッシュを仕掛けてくるが、足を使い距離をキープ。サウスポーからのワンツー、ストレート、右ボディと面白いように攻撃がツボにハマって行く。スタミナの切れたサップに、左ミドルをぶち込み、前蹴りでダウンを奪う。これで判定には十分すぎるほどの攻勢だったが、武蔵は攻め手を緩めず、左ロー、ミドルとザップを追いつめる。

まさに絵に書いたような逆転劇であり、窮地に陥ったヒーローが、悪漢の反則攻撃に耐えて最後の逆転で勝利を飾る。リアルファイトの形容詞としては不適切かもしれないが、“非常によく出来たプロレス”のような試合であった。この日、客席でこの試合を見たファンは、非常にこの試合を堪能できたのではないだろうか。谷川プロデューサーに「MVPは武蔵」と絶賛していたが、これはまずまず妥当な評価といえるのではあるまいか。こういう試合を巧まずに実現できた武蔵は、プロとしての“代表作”を手に入れたのかもしれない。

第5試合 K-1ルール 3分3R(延長1R)
○レミー・ボンヤスキー(オランダ/メジロジム)
×ザ・プレデター(アメリカ/UPW)
判定 2-1(御座岡30-29 岡林28-29 大成30-29)


チャンピオンと格闘技的に何の実績もないマイナープロレスラーの対戦。通常なら、王者の圧倒的ワンサイドゲーム= “鉄板の消化試合”がここまで場内を湧かせる試合になろうとは。

プレデターはプロレスラー本来の持ち味を発揮、ずんずん前に出てレミーの攻撃を押しつぶす。この圧力を止めるべくレミーが放ったミドルは、脇でキャッチ。そのカウンターでストレートを放つが、パンチが手打ちのためダメージを与えるまでには至らない。だが、一連の応戦で、“簡単に食える雑魚”ではないと察したか、リングを回りながら、得意のキックで試合のペースを握りたいレミー。そんな戸惑いを意に解した様子も無くプレデターは、前へ前へプレッシャーをかけ続ける。パンチのラッシュは、レミーの鉄壁のガードでダメージを残せなかったようだが、手数/積極性ではプレデターがゲームの主導権を握り続けた。


後半戦に入って、ようやくレミーサイドの有効打が決まり始め、攻撃にリズムが見え始めたが、プレデターの突進を止めることはできないままだ。

最終ラウンドにもつれ込んだ乱戦の末、レミーのローキックがようやく浮沈艦にも見えたプレデターの足にダメージを刻み込みはじめる。だが、それでも前に出て左右のパンチを放ち続けるプレデター。ガードを固めたレミーはミドルでこれを返すが、いかんせんこの日のレミーの攻撃は単発で終わってしまい、プレデターの化け物じみた突進力を止めることはできないまま、ゴングを聞く事になってしまった。判定は最終ラウンドの攻勢を取って二者がレミーに軍配を上げたが、岡林ジャッジはプレデターを支持。3Rを終えてどこか疲れの滲む表情を浮かべていたレミーに対し、ファンの歓声を浴びながら花道を全力疾走する余力をのこしていたプレデター。両者の試合後の表情の違いが、この一戦の全てを物語っていたのかもしれない。

何より気になったのはレミーの動きに、好調時のキレが感じられなかった事。試合後のコメントでは「12月のグランプリでの左足の負傷がまだ癒えておらず、思うように蹴れなかった」と語っているが、今回セコンドに付く事のなかった師匠のアンドレ・マナートとの不和説もある。「次回以降、ジムを離れる可能性もある」と語ったレミー。三連覇を逃したK-1新世代の旗手に早くもメンタル的な危機が忍び寄りつつあるのかもしれない。

第4試合 HERO'Sルール 75kg契約 5分2R(延長1R)
○永田克彦(日本/チームKings・新日本プロレス)
×レミギウス・モリカビュチス(リトアニア/リングス・リトアニア)
判定3-0 (平20-18:永田 松本20-18:永田 礒野20-18:永田)


オリンピック銀メダリストにして、新日本プロレスのトップレスラー永田裕志の実弟である永田のプロデビューは、今回のDynamite!!の目玉の一つであった。当初、対戦相手に選ばれたのは、ZSTにレギュラー参戦してきた所英夫。

コマネズミのように動き回る所を、如何に永田がレスリング技術で押さえ込むかが試合の焦点になるはずだった。だが、大会二週間前にホイス・グレイシーの対戦相手が秋山成勲の欠場により所にシフトされたため、永田の対戦相手は、同じZSTのファイター・レミギウス・モリカビュチスにチェンジされた。

この交代劇によって、このカードの見所は180度ひっくり返ってしまった。ストライカーであるレミギウスが、永田を追いかけ回す構図になったからである。だが、正直言って、この戦いの方が、永田にとっては“美味しい”展開になったのではないか。

確かに一発を浴びてしまう危険はあるにせよ、見せ場は組み付いて相手をテイクダウンするまでの異種格闘技戦的流れに集中する。レミギウスとてグラウンドテクニック皆無と言う訳ではないが、ありとあらゆる角度からサブミッションアタックを繰り広げる所と比べれば、いささかグラウンドでは与し易いはず。観客がすっきりした永田の持ち味を受け入れるのには、絶好の相手だと僕は感じた。


事実試合は、ほぼ「打撃をかいくぐって組み付く→テイクダウン→ブレイクまで押さえ込む」というゲーム的プロセスに終始した。途中レミギウスが意地を見せて下からの腕十字にチャレンジするなど、適度なスリルも盛り込まれつつ、試合自体は、レミギウスのファーストアタックをかいくぐり、豪快なテイクダウンで自分の領域に引き込む、永田の見事なプロモーションマッチに終わった。

力みの見える永田は2R後半から若干スタミナのロスを見せており、対するレミギウスは打撃にアッパーを組み込んでヒットさせるなど、攻略の糸口を見せ始めていただけに、本来の勝負は通常ルールであれば存在したはずの3Rこそ見物と言う所だったが、この試合は当初から2Rオールの設定。

いわば「大物格闘家のプロ転向」のお披露目として設定されたこのルールが、お思惑通り永田を光らせたことになる。かつて吉田秀彦が打撃無しルールで“ガード”されながら、次第に通常のPRIDEルールで闘うようになったように、ここでもスター優遇の弊は感じられたが、あえてそれは問うまい。今日は2Rで十分永田の潜在能力の高さと、夏からの短い時間で準備して来た要素は伝わったからだ。

今後彼がプロとしてどんな戦いを見せて行くかで、今日の戦いの評価は決まる。

第3試合 HERO'Sルール 5分3R
○中尾芳広(日本/フリー)
×ヒース・ヒーリング(アメリカ/ゴールデン・グローリー)
反則負け(ヒーリング)※試合開始前の加撃


中尾は、この試合で格闘技史上に残るとんでもない大恥をかいた。

試合開始前に時折ヒートアップした選手同士が、顔を寄せ合って“メンチの切り合い”を演じるのは、よくある光景。
だが、中尾はやりすぎた。
そこで至近距離に近づいて来たヒーリングの顔に、軽くキスをしたのだ。
やりようによってはユーモア漂う光景かもしれないが、相手が保守的な風土のテキサス男である事を、彼はどこまで計算していたものか。そこでムッとした表情になったヒーリングは、ノーモーションの右フックを中尾のアゴに打ち込んだのである。

決してフルスイングの一発ではなく、中尾の侮辱行為に対する彼なりの抗議であったのだろう。仮にも格闘家ともあろうものが、無防備にそのパンチを浴びてしまう事もあるまい、そんな予断もあったのかもしれないが。

だが、中尾はバカ正直にその一発を浴びて、マットにダウンしてしまったのである。瞬間、ヒーリングも信じられないと言った表情を浮かべ、続いて写真で見せているように、天を仰ぐようなポーズを見せた。

中尾はそのまま失神状態に陥り、試合開始は不可能となった。
ヒーリングの反則負けは致し方ないとして、試合前の侮辱行為で相手の怒りを買った中尾にも罰則が与えられたとのこと。谷川Pも「あれは中尾君が悪いと思います」と、大会総評の際に語っている。ならば主催者として、中尾に対して安易なリベンジマッチのチャンスを与えたりしないようにお願いしたい。

これがオリンピックなら、出場停止処分に処せられてもおかしくない非紳士的行為であり、プロだから多少の逸脱は構うまいと言う安易な思い込みが、観客から一つ試合観戦のチャンスを奪ってしまったのである。それに準ずるペナルティを受け入れるのも、プロの責任というものではあるまいか。


第2試合 HERO'Sルール 5分3R
○ジェロム・レ・バンナ(フランス/レ・バンナ・Xトリーム・チーム)
×アラン・カラエフ(ロシア/マルプロジム)
2R 1'14" K.O.(左ミドル)


序盤、“K-1の喧嘩番長”を相手に威勢の良い突進を見せてパンチを振り回したカラエフ。組み付いたバンナを押しつぶしてマウントを奪ったあたりまでは、そこそこ健闘が期待されたが、上になってからの押えも甘く、総合キャリアの浅いバンナに上下を入れ替えられたのは問題外。要は喧嘩慣れと言うか、修羅場の違いなのかもしれない。

マウントを奪いながらも、腰を浮かせてしまいパンチの距離を優先したバンナだが、その気迫が体重に変わってカラエフを押える役割を果たしていたような気もする。バックマウントを抜け出して、なんとかスタンドポジションに戻ったカラエフだが、パンチ数発を浴びて既にこの段階でガス欠っぽい荒い息を吐いている。

そこに乗じてか、意表を突いてタックルを見せて来たバンナだが、これはさすがにアマレス上がりのカラエフには通じず、カンヌキ風におさえこまれてアームロックを狙われるバンナ。なんとかこの危機はゴングに救われる。

2Rはさすがに自分の領域で闘う事にしたのか、バンナの容赦ないローとミドルがカラエフの巨体を傾がせるシーンが連続する。次第にファイティングポーズもママならなくなったカラエフは、身をよじるようにしてリングに棒立ちになる。面白いように打撃をぶち込むバンナの、止めのミドルがついにカラエフの身体を二つに折る。半ば戦意喪失のようにくずおれたカラエフは、ドームからベッドのまま搬出されて行った。

戦前から「愛娘に恥じない試合を見せたい」と日本に娘を伴ったバンナの美談が伝えられていたこの一戦。勝ち名乗りの後、娘のビクトリアを呼び上げたが、マイクアピールも無く、あまり観客にこのドラマは伝わっていなかったようだ。

主催者側も、2000年の猪木祭で安田忠雄が演じた親子愛がドラマの再演を狙ったのだろうが、特に莫大な借金があるわけでもなく、またキャラ的に暴れん坊のイメージが浸透している彼が、俄に親子愛ストーリーを語っても、イマイチファンの共感を呼ぶ事が出来なかったようだ。

やはりバンナには、ウェットなヒューマンストーリーより、カラッとしたブッ倒し合いが似合う。

第1試合 HERO'Sルール 5分3R
×ピーター・アーツ(オランダ/チーム・アーツ)
○大山峻護(日本/フリー)
1R 0'30" ヒールホールド


オープニングマッチは、PRIDE参戦時代から勝ち負けを度外視した突貫ファイトを繰り広げ、網膜剥離の重傷を負いながら、現役への執着を見せ続けて来た大山峻護。年齢も今年で30を越え、すっかり苦労人キャラが板に付いてしまった感もあるが、元は全日本学生準優勝、オリンピックも狙えるポジションに居た(※当初記事にありました“元強化選手”という記述は事実誤認でした。訂正してお詫びします。)気鋭の柔道家としてのキャリアを捨てて総合に身を投じたエリート選手。奇しくも兄と慕った吉田が、さいたまのリングで小川との柔道対決を行うこの日に別のリングに上がる事は、彼の胸にも何らかの決意をもたらせたに違いない。

ゴングと同時に奇襲の胴回し蹴りを放った時には、“また突貫戦法か?”と内心目を瞑りたくなったが、アーツにつけ込む隙を与えず再度胴タックルを仕掛けていく大山。この突飛な仕掛け自体、ダメージ狙いではなく、アーツの打撃を一発も浴びずに懐に入るための作戦だったようだ。

一回の仕掛けでは結局テイクダウンに至らず、アーツの細かいパンチを浴びてしまうが、なんとか組み付いて引き込みに成功。そのまま足を取ってタップを奪う。30秒の秒殺劇に、アーツは「何をしにきたのか判らない。失望した」と弱々しいコメントを残したのみだった。

総合に不慣れなアーツを相手に、打撃戦を挑まなかったことを、マイナスに評価をする向きも多かろう。しかし、毎回引退の危機と背中合わせで闘い続けた彼の“無鉄砲な二十代”の彼を見守って来た立場から言えば、前々回のオーフレイム戦でも垣間みられた、極め重視の方向性はプラスに評価したい。

勝ち誇る彼の姿に共感できなかった観客も多いだろう。所詮、PRIDEでは勝てなかった選手の自己満足と誹る声も、まだまだ高いにちがいない。実際、今日の戦いだけで、大晦日の観客の心に突き刺さる物は多くはなかったはずだ。

だが、そんな罵声を投げつける人々の心をも奪う戦いは、やはりかつての“特攻勝負”の中には無い。まずは今日の秒殺劇に、さらなるプロとして説得力あるキレと迫力を与える事だ。その事で、後々今日のアーツ戦の勝利は、大きく光を放ち始めるにちがいない。

「来年は僕の階級のトーナメントも企画されているらしいので、それに向けて頑張りたいと思います」と言い残した大山。彼がそのルーツである柔道の“柔よく剛を制す”の精神を踏まえ、吉田にも負けない大輪の花を咲かせる事を祈って止まない。

Last Update : 01/01 03:24

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