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[パンクラス] 菊田早苗・単独インタビュー「寝技狂ラストスタンド」

パンクラス "Sammy Presents PANCRASE 2004 BRAVE TOUR"
2004年4月23日(金) 東京・後楽園ホール  開場/17:30 本戦開始/18:30

  メインイベント 第8試合 ライトヘビー級 5分3R
  菊田早苗(パンクラスGARABAKA/1位) vs. キース・ロッケル(米国/チーム・エリート)

−−去年11月30日の近藤選手とのタイトルマッチが終ってから4ヶ月半、わりと間隔がありましたね?
菊田「うーん、でもあんまり休めななかったですね。12月は大みそかの話がありましたし。1月入って、ゆっくり練習し始めたんですけど、もう2月の頭になったら、だんだん相手候補が決まってきて。ここから緊張感が始まって。で、相手が正式に決まったら猛練習スタートですからね。やっぱ短いっすねぇ」

−−落ち着いて休めなかったと。
菊田「何もしない期間がもっと欲しいんですよ。例えば今度の試合が終ってからだと、5月〜8月は悪い所をリハビリして、イメージトレーニングをして過ごすことができれば、やっと休養になるというか。そして8月の終りぐらいから本格的に練習を始めて、10月の試合に向けて、って感じになれば理想ですけど…」

−−6ヶ月も休みますか(笑)ともかく、休みに入る前に、今度の4月23日・後楽園大会のキース・ロッケル戦をクリアしないといけませんよね。
菊田「こないだ別の取材で『最近、一本勝ちが無いですね』と言われたんですよ。正直、今その余裕が無いんですけど、今回の試合で一本取れないようじゃ…『やっぱり厳しいのかな?』という思いもありますね。まあ、そういう相手っちゃあ、そういう相手なんですよ」

−−ロッケルはまだまだ日本では無名なせいで、一本で勝って当たり前のように思われてますけど、微妙な実力の相手ですよね。UFCにも上がってるけど、無茶苦茶強豪ってわけでもないですし。UFCの試合は見ましたか?
菊田「去年の試合(UFC 45・03年11月のクリス・リゴウリ戦)と、ユージン・ジャクソンとの試合(02年1月・UFC 35)を見ました。ジャクソン戦は9分9厘勝ってたのを最後気を抜いたところでやられて。パンチで負けた試合(03年5月のデニス・カン戦)もあるんですけど、僕にはあんまり参考にならないんで。これまで芽が出そうで出なかった選手かと思います。年も年ですし(ロッケルは38歳)。…この相手で僕がダメだったら、これで最後って訳じゃないですけど、かなり引退には近付くと思いますね」

−−あくまで一本じゃないとダメなんですかね? 周りから言われるから渋々一本狙い… という感じじゃないんですか?
菊田「いや、やっぱり自分の気持ちとしても一本は取りたいですよ。仮にセミまで判定が続いて、自分の試合まで一緒だったら、メインと言う資格もないし。そうなってくるとやってる自分もイヤになってくるんで。」

−−他の選手との違いを見せつけることも課題だと。
菊田「そうですね。」

−−本来は菊田さんは後楽園レベルを越えた選手ですからね。
菊田「あとそれどころかね…、今回ホントに勝てるのかなあ?って不安もありますよね。負けたら即引退ってのは無いですけど、勝てんのかなぁ?って(苦笑)。
 やっぱりね、もう昔と違うと思うんですよ。今はもう若い頃みたいに、ファイトマネーをもらいたいとか、普通に戦ってウップンを晴らしたいってぐらいでは、モチベーションにならないんですよね。アブダビ取って、パンクラスのベルトも取って、ジムもできて、ある程度自分の思い通りになってくるとね、例えば今度年末にホイス・グレイシーや吉田さんとやりますよ、ってぐらいにならないと、エネルギーが出て来ないんですよね。あ、別にホイスや吉田さんとやりたいという意味じゃないですからね」

−−まあホイスや吉田の名前は例えで、要はネームバリューのある選手相手じゃないと気持ちが盛り上がらないということですね。具体的に誰か戦いたい相手がいるというわけじゃなく、自分のバリューに見合う選手と戦いたいと。
菊田「そうです」

−−具体的に誰というのじゃなく、どういうタイプの選手とやりたいとかっていうのはあるんですかね?
菊田「寝技の強い選手とやりたいというのはありますね。打撃でKOで負けても、『いや、打撃だから』って言い訳できちゃうんですよね」

−−それよりも同じ寝技師から腕十字で一本取られたほうが悔しいと。
菊田「そうですね。僕は2001年のアブダビを優勝して、例えばホイスは93年のアルティメットを優勝して、言ってみれば世代が全然違うわけじゃないですか。そういう選手に負けたとしても、ある意味感動モノですよね。『ホイス、凄えなぁ』って。」

−−寝技狂の菊田さんらしい感覚ですよね。気持ちの問題の話に戻しますと、去年は5月11月に近藤選手と対戦し、その2試合にエネルギーを費やしたと思います。それで燃え尽きた面はないですか?
菊田「近藤選手とこれからやるなら気持ちは盛り上がると思うんですけど、マリオ(・スペーヒー)に勝つ前の去年のあの時点では、勝って金星という相手じゃなかったと思うんですよ。前回はモチベーション的に、凄く最高かといったら、そうでも無いままやってしまったなと(苦笑)」

−−それは11月の試合に関してで、5月の試合に対してはモチベーションがあったと?
菊田「いや、あんまり無かったですね、5月も。5月の試合の後は『引き分けたの?』って目線が凄くて、それが悔しいからもう1回、11月にやったわけだから」

−−本当は5月の時点で勝ってステップにしたかったのに、計画が狂っちゃったと。
菊田「そういうことです。『こいつに勝ったら凄い事になる』というモチベーションじゃなく、悔しかったからやっただけという。でも11月の試合も、自分で改革しようとして失敗したわけだし、今回元に戻してやりますけど、結局今回これでダメだったらもうダメだ、ということで」

−−11月の近藤戦に向けては打撃の練習を集中してされてましたけど、その後は打撃にこだわらない練習に戻したと聞いています。具体的に今回どういう練習をしていましたか?
菊田「1週間のうちに寝技のスパーリングが3、4日あるんですけど、そこにどれだけ集中してやれるかということだけを考えてやってたんですよ。ほんと、全てを寝技のために」

−−長さじゃなく、質を上げたと。
菊田「そうです。火曜日にスパーをするんですけど、月曜は無駄なことをあんまりやらずに、完全に“次の日に備えての練習”というか。他の練習をやって疲れて、火曜の朝起きて『キツいなぁ』って思いながら寝技やるんじゃなくて、もう火曜の朝起きた時は試合の時のように万全の体調に。そしてスパーの時間は、集中が切れないように全部乗り切るような感じでやったんですけど、やっぱり全然違いますね。要は毎日ピークの疲れにならないようにしたというだけなんですけど」

−−一個一個の攻防でも、本当に一本を取れるよう、細かい所に気を配って、気持ちを抜かないよう集中してやるようになったと。
菊田「そうです。今まで以上に。月から金まで集中してやったら、次の週に疲れが残りますからね」

−−それは年齢的なもの?
菊田「いや、肉体的よりも、気持ちの問題かもしれないなあ」

−−この前阪神タイガースの井川選手と対談されましたが、そこで勉強になったこともあったんですか?
菊田「キャンプの練習を見てて、細かいことが大事なんだなと思いました。ノックとか、ポッポッポッポッと延々と地味に。あれが逆に、…なんか良かったですね(笑)」

−−やることは違っても応用が効く部分は多いでしょうね。総合格闘技ってまだ歴史が浅いので、まだ練習方法が確立してない面もあるでしょうし。
菊田「でもホントにね、スポーツはどれも大変なんですけどね、総合格闘技は本当にキツいと思いますね。趣味ならいいですけど、これで暮らすってのはね、限界あるなと(シミジミと)」

−−同じ格闘技でもボクシングは基本的に手だけですし、柔道にしてもある程度やることは限られてますよね。
菊田「柔道は投げるだけでキツいのに、これにパンチがあって、寝技、関節技があったら、心臓持たネェだろって、この仕事やる前から想像ついてたんですけどねぇ…」

−−今日はエラくシミジミとする回数が多いですね(笑)。まあ、菊田さんと同じぐらいの長さの戦歴で、今も第一線で活躍してる人も少ないですよね。先輩のモデルケースってのも無いですし。菊田さんは技術面なり精神面なり、師匠にあたるような相談に乗ってくれる人っていないんですか?

菊田「いないですねぇ。海外だとランディ・クートゥアとかモデルになる人はいますけど、日本だといませんね。ボクシングも30越えてやってる人も少ないですし。まあ、来週の試合は、残り僅か、じゃないですけど、そういう感覚もありますんで。とにかく、いい試合できるよう、頑張りますんで」


● ネガティブな言葉の多いインタビューだった。これを読んで、「菊田、大丈夫かよ?」と思ったファンの方が多いかもしれない。だが筆者は逆に、こういうイジイジとした情けない雰囲気の菊田に、本来の魅力を感じるクチだ。
 菊田 vs. 近藤のキャッチフレーズは「王者か、エースか。」だった。去年の菊田は、王者らしさに囚われすぎていたような気がする。そしてついに2度目の近藤戦では、その“らしさ”のプレッシャーに押し潰され、気持ちが空回りしてしまった。
 丸腰になった菊田は今、燃える物を失っている。だが「寝技の強い選手とやりたい」と明言したことに、光明を感じた。そして練習内容について語った時にポロッと出た「全てを寝技のために」という言葉も印象的だった。
 どうということはない。押しつぶされた王者の殻の下から、かつての寝技狂=GRABAKAが再び出てきただけだ。中途半端な打撃の練習は止め、全てを寝技のためにの生活に戻した。そうしたら、イジイジとした菊田までもが戻ってきた。
 だがかつて各種の大会荒らしで名を轟かせた菊田青年も今や33歳。普通に戦うだけでは、モチベーションが上がらない。だが今回パンクラスが用意したのは、普通の試合だ。そして新たなキャッチフレーズ、「寝業師、起つ。」
 菊田の口からは引退の言葉も出てきた。もう先は長くない。ならばあとはやりたいことをやる。俺を寝技狂と呼ぶのなら、もっと狂ってやろうじゃないか? 菊田のイジイジした言葉の一つ一つから、何か最後の開き直りのようなものを感じた。寝業師は今度の金曜日、後楽園ホールのリングに起つ。だがもう2度と寝ることはできない。寝技狂が流浪の旅を続けた末の、ラストスタンドがもうすぐ始まろうとしている。(井原芳徳)

 →パンクラス2004年4月23日(金) 後楽園ホール チケット&概要

Last Update : 04/19

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