(レポ&写真) [パンクラス] 5.18 横文:王者とエース、史上に残る意地の拮抗
パンクラス "Sammy Presents PANCRASE 2003 HYBRID TOUR" 2003年5月18日(日) 神奈川・横浜文化体育館 観衆:6,125人(超満員札止め)
レポート:石動龍(メイン),井田英登(メイン〜第4試合),荷福晶(第3〜1試合) 写真:井田英登 【→大会前のカード紹介記事】 [→掲示板スレッド]
◆放送日程: スカイA・5/25(日)22-24時 サムライ・5/28(水)25-29時 日本テレビ・5/31(土) 26:20-27:20
メインイベント ライトヘビー級タイトルマッチ 5分3R △菊田早苗(パンクラスGRABAKA/王者) △近藤有己(パンクラスism/1位) 判定1-1 (29-30,29-28,29-29) ※菊田が初防衛
試合開始と同時に、ダッシュで王者菊田が前に飛び出す積極性を見せる。組み付いての腰投げでテイクダウンを狙うが、逆に近藤がつぶして上を取る。体を離してパウンドを狙うが、菊田も顔面蹴りを突き上げ、その隙に立ち上がってスタンドに戻す。安易にテイクダウンを許さない近藤の腰の強さに、菊田はこの試合中ずっと手を焼く事になる。コーナに詰めようやく外掛けで倒しても、グラウンドに倒れこむ直前に横に振って、逆に上のポジションをキープするなど、近藤の勝負強さが目立つ。しかし、菊田もさるもの。組み付くことで打撃の間合いを消し、近藤得意の打撃を出すチャンスを与えない。
三度目のトライで菊田は、ようやく外掛けでテイクダウンに成功。自分の得意分野である寝技に持ち込むとハーフ、マウントとあっさりポジションを奪取し、“寝技世界一” の実力を見せ付ける。だが近藤は、打ち下ろされるパンチを冷静にガード。菊田は極めに持ち込むことができないまま1R終了。
2R開始直後は近藤が打撃を狙ってプレッシャーをかけるが、菊田は嫌ってタックルからの外掛けでテイクダウンする。寝技に入ると1Rと同様菊田の独壇場。サイド、マウントと自由にポジションを奪い、パンチを落としていく。近藤もブリッジからの反転で逃れようとするが、菊田はバランスよくつぶして上のポジションをキープ。近藤が足をねばっこい攻防でハーフに捕まえなおすと、菊田がまたポジション奪いに躍起となって、近藤の体の上を舞うという、地味ながら息を呑む攻防が繰り広げられる。
情勢が大きく動いたのは3R。コーナーに詰めた菊田だが、近藤は組み付いた状態から右ストレートをヒットさせ、鋭い膝をボディに突き刺す。一瞬、菊田はがくりと腰を落とす。「あのまま放っておくとまた何かされそうだったんで」という菊田は、とっさに体を沈めてタックルを仕掛ける。がぶってこらえる近藤に、菊田は執拗に片足タックル。一回は尻餅をついたはずの近藤が、またじわじわ立ち上がってくる。ならばとクラッチを切らずに腰に抱きつくと、今度はその場飛びの膝が顔面に飛ぶ。まさに「根性の比べあいだった。あそこで踏ん張られちゃうとは思わなかった。並みの選手じゃない」と菊田が振り返るように、両者の意地と気力が激突した攻防となった。
クラッチを切らずに足にしがみつく菊田を、ついにはがぶりで潰して、四つんばいにさせてしまう近藤。すかさず顔面パンチを飛ばしてくる近藤に、菊田はなんとかガードポジションを取るしかない。「恐れていた展開になった」とセコンドの郷野が言うように、グラバカ勢を次々に破壊してきた近藤の鉄拳がガードを取る菊田の顔面に振り下ろされる。蹴り離そうとする菊田の反撃をかわしてゴンゴンパンチを落としていく近藤。ismの王座奪回のチャンスに、場内は「近藤」コールに埋め尽くされる。
「あれだけ打撃をもらうとは思わなかった。これは効いたというのはなかったけど、アレだけ細かく連打でもらうとね。最終ラウンドだったんで、あったはずのスタミナが無くなっていくのがわかった」という言葉を裏打ちするように、パンチを一発浴びるたびにに菊田の動きが鈍っていく。近藤の逆転KOか、と思われたが王者・菊田もタダでは終わらない。ハーフガードから、足を跳ね上げてのスイープに成功。上を取るとあっさりマウントポジションに移行する。しかし、ここでも近藤が驚異的な力を発揮。2Rまでは全く返せなかった菊田のマウントをリバーサルし、再び上を取る。パンチを落とす近藤に、王者は必死にしがみついて耐えるしかない。大歓声の中で試合終了のゴング。
判定は三者三様という結果に終わり、菊田は薄氷の防衛を果たした。
試合後マイクをとった菊田は「1Rはペースを握れたとおもいますけど、3Rは自分でも納得がいってません。近藤がやる気があれば、次は完全燃焼したいと思います。必ず再戦して決着をつけたいとおもいます」と再戦宣言をぶちあげ、場内を沸かせた。
一方、近藤は「再戦は一年以上は間を置いてやりたい。すぐやっても今日の3Rを繰り返すだけ。お互い実績を積んで、ビッグになってからやりたい」と発言。対する菊田も「それぐらいですかね。すぐやったら死んじゃいますよ。とにかくしつこいっすから(苦笑)。ああ、それにしてもあのタックルがなー…」と、想像以上の神経戦となった気の張る防衛戦の疲労感を口にした。
尾崎允実・パンクラス社長は「王者が菊田で、エースが近藤ですか。結局、トップは決まりませんでしたね」と再戦には前向きな姿勢だが、まずは数日おいて両者の意向を確かめたいという。早ければ8月31日に両国国技館で開催されるパンクラス10周年記念大会がその舞台になるが、この日現在の両者のコメントを聞くかぎり、その可能性はあまり大きくなさそうだ。ただ、近藤はこの試合での出来に自信を深めたようで「他団体のリングに上がりたい気持ちもあります。具体的にはUFCとかPRIDEとか、新日本のアルティメットクラッシュとか年末の猪木祭りにも参戦してみたい」といつになく積極的な発言を残し、“エースの自覚”の芽生えをみせた。
セミファイナル ライトヘビー級 5分2R ○郷野聡寛(パンクラスGRABAKA/5位) ×フラービオ・モウラ(ブラジル/アカデミーア・ブドーカン) 判定2-0 (20-19,20-20,20-19)
常々敬愛を口にするボクサー、ロイ・ジョーンズJrに倣ったという、ノーガードのアウトボクシングを展開した郷野。ムキになって追い回すモウラの必死さも手伝って、華麗な「蝶のように舞い、蜂のように刺す」といった趣の展開が続く。スタンドでアームロックを取ったことで、旨くグラウンドに引きずり込む事に成功したモウラだが、着地が崩れて逆に郷野が上になり、速攻の腕十字を仕掛けられてしまう。これがすっぽ抜けて上になられたものの、結局危ないシーンはなく、試合終了。なぜか終わったあと小川張りにリングを走り回ってアピールするという奇行を見せたモウラだが、判定は傾かず。
第5試合 ミドル級 5分3R ○三崎和雄(パンクラスGRABAKA/3位) ×久松勇二(TIGER PLACE) 3R 2'34" チョークスリーパー
ミドル王座をねらう三崎は、その前に取りこぼした久松戦に決着をつけるべく登場。試合前のグローブタッチを払って見せて久松の感情の導火線に火を放つ。
試合にはいっても、細かい左右のローをモモの内外を打ち分けながら久松を挑発。カウンターに徹して待ちに入っている久松を嘲弄する。左ストレートを顔面に集めて先手をとり、グラウンドでも上のポジションを支配する三崎。乱打戦では結構パンチを当てて、劣勢をカバーした久松だが、気迫、技術ともにこの日は三崎が上回った観がある。三崎はアリ猪木状態をジャンプでパス。マウント〜バックマウント、チョークを決めてほぼ完璧な勝利を飾った。
勝利の勢いに乗ったか、三崎は「久松先生、金はいくらでも払うんで、明日、マッサージの予約たのみます!」と試合後のマイクではあまりお行儀のよくない物言いで久松を嘲弄、前回の鬱憤を晴らした。
第4試合 ライトヘビー級 5分2R ×渋谷修身(パンクラスism/7位) ○エバンゲリスタ・サイボーグ(ブラジル/アカデミア・ブドーカン) 1R 1'20" KO (左フック)
また一人怪物的なパワーを発揮する外人がパンクラスマットに登場した。 エバンゲリスタ・サイボーグは、名門アカデミア・ブドーカン所属のルタ戦士。IVC、メッカVTなどブラジルを地盤にするNHB系大会を中心に活躍してきた“未知の強豪”。全身に施された不気味な刺青に、逆三角形のマッチョボディ、そしてスキンヘッド。PRIDEを席捲するヴァンダレイ・シウバの再来といった風情がある。
序盤の組みあいでは、渋谷に反り投げ風に弾き飛ばされたものの、フロントチョークを取って抱きついてきた渋谷を担ぎ上げて動じない姿は、やはり怪物的なブラジリアン・パワーを感じさせる。ロープ際での打ち合いでは爆発的な膝蹴りから、アゴを打ち抜く強烈な左フック一発で渋谷を轟沈に追い込んだ。さらに崩れ落ちた渋谷を渾身の力で踏みつけようとする野獣ぶりも発揮。
早速勝利のマイクでは「今日のタイトルマッチの勝者と戦いたい」と、成り上がり宣言をぶちかましてみせたが、すばやく反応したのは近藤。「8月の両国ではエヴァンゲリスタ・サイボーグか、ヒカルド・アルメイダとやってみたい」と発言。早くも迎撃体制だ。尾崎社長は「彼に関してはもう一戦見てみたい」と語り、即対戦決定とまでは行かなかったが、今後のライトヘビー級戦線をかき回すダークホースになりそうな予感がする。
第3試合 ウェルター級 5分2R ○大石幸史(パンクラスism/2位) ×花澤大介(総合格闘技道場コブラ会) 判定3-0(20-19,20-19,20-19)
1R、花澤のタックルを切った大石がパンチと膝を出すが、大差はなし。2Rは常に大石の攻勢。猪木アリ状態からパンチを連発する。ブレイクが入りスタンド再開後も右ストレートを当て、倒れた花澤にパンチを入れる。花澤も倒れてからハーフガードで極めさせなかったが、守りの展開が続き、大石が勝利。
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