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[File 0005] 木村允「亡き友との戦い、モチベーションとの戦い」

 
◆日本最強より大事なこと

ーー3/13 MAキック後楽園大会での、J-NETWORK西山誠人選手とのライト級王者対決が決まりました。
木村「(土浦ジムの)山本会長に西山戦と言うわけじゃなく、強い選手と例えばタイ人とか色々やらせてくれって話していたら、そんな中決まりました。西山選手も実際強いんで…(しばし沈黙)嬉しいって言ったら嬉しいですけどね」

ーー西山戦と言うより強い相手とやりたかった?
木村「そうですね。日本人でもいいんです。強けりゃ。西山選手強いからちょうどいいんじゃないですか。自分の中ではタイ人に目がいってしまいますけどタイ人じゃなくても強いやつなんていっぱいいますからね」

ーー西山選手をご覧になったことは?
木村「ないですね。ビデオでもないです。会長から聞いている限りでは何でも出来る選手って印象ですよね。対策とか考えてもね。そこまで器用じゃないですからね。自分が」

ーー真の日本一になりたいとかは考えないのですか?
木村「色々あったんでね。あれですけど、どうなんでしょ。一個人として言ってもね、団体のしがらみとかあるから実際、新日本とかは無理だし、一応MAのチャンピオンなんでね。まあオファーがあってMAも出てもいいよと言ってくれれば、どこの団体でも出たいですけどね。もちろんMAの試合もあるので、日程が合えばですけど」

ーーチャンピオンと言うよりはワンマッチで他団体の王者対決を希望しますか?
木村「それはありますよね。やっぱりどうせならベルト持っているヤツと」

ーー昨年は全日本の山本元気戦が直前で流れてしまいましたけど。
木村「彼は強いんでしょうけどフェザー級のチャンピオンなんでね。どうせなら同じ階級の選手とやりたいですよね」

ーーライト級のトップを目指すってことですか?
木村「トップ!?うーん…、そうですかね。日本人だけとは思ってないんですよ。やっぱりタイ人に目が向いちゃうんですよ。実際、やられてるのはタイ人ばっかりなんでね」

ーー真の日本一というこだわりは
木村「うーん…、強いやつとやれればいいんですけど、オレの中ではその強いヤツがタイ人っていうだけで、例えば今回、西山選手とやってみて『あれ、日本人も案外捨てたものじゃないぞ』ってなれば、他の日本のチャンピオンとやってみたいとかも思うかも知れませんし。今までの経験上、強い日本人とやってない、って言ったら今までやった選手に失礼ですけど、実際日本人には通用した技がタイ人には通用しなかったのが多すぎて、そうすると打倒ムエタイってなってしまうんですよね」

ーー昨年のテーワリットノーイとの試合なんかはそうでしたか?
木村「そうですね。全部封じられてしまったというか。タイ人は打ち合わないからあれだとか、うまく逃げられちゃうとか言いますよね。封じられるってことは自分の技がまだまだ未熟で、封じることも一つの技だと思いますから、封じられたままでは終われないんですよね」

ーータイ人にそういう考えを持つようになったのはいつ頃からですか?
木村グライガンワーンとやった時からですよね(※01年3月、8勝1敗で迎えたこの試合で木村は初黒星)。素人から見たらわからないかもしれないけど、細かいところが違うんですよね。例えば前のラウンドでストレートが当たりました。しかし次のラウンドからはそのタイミングじゃ当たらない。5ラウンドの戦い方というか、常に次のラウンドでは修正して対応できちゃう。セコンドの指示もそうだし、選手もそれを聞く力があって対応出来る技術がある。その辺が『気合いと根性』の日本とは差がありますよね。7mのリングを支配する力が凄いと言うか、見る人が見たら『打ち合わないで逃げてる』って思うかもしれないけど、でも実際それもありじゃないですか。実際それで試合は勝てるしポイントだけとったら自分は無傷で終われるし、それを一つの勝ちと取られたら、それでやられるのは悔しいと思いますよ。ホントは打ち合って勝つのが見ている人も一番面白くてシンプルじゃないですか。でも打ち合わないで勝つやり方もあって、それに徹して勝つ強さってのは身に沁みましたね」


◆ピーター・アーツよりも、オレの方が強いと思ってた

ーーそれに対抗するにはご自分の中で何が足りないか見えてきましたか?
木村「何をしたら…、うーん…、今までと同じことをしてたんじゃ勝てないと思います」

ーー練習法を変えたりとかは?
木村「特にやってないですね。わりとぶきっちょのほうなんで。コンビネーションを増やしたりとか、そこまで器用じゃないんで。うーん…、こういう環境でやっているんで(何かやるにしても)難しいところあるんですけど、なんでしょうね。どうしようとかが見えてこないですね」

ーー会長から指示を受けたりは?
木村「前から口は出さないようになりましたね。ある程度、基礎を教えちゃったらあとは応用なんで、人から教わった応用なんてたかが知れてますよね。自分で考えて自分の実績から覚えたことを工夫して作る。逆に基本をね、もっと『蹴るなら蹴る』『走るなら走る』でもいいし基礎をみっちりやろうとは思ってますね。いろいろ出来ないからもあるんですけど」

ーー同門で同じ階級のKING選手と今日もスパーリングをしていましたが。
木村「さっきみたいに右構えにしてみたり(木村は普段左構え)ジャブだけで攻めてみたり色々試してみたりですね」

ーーTURBΦ選手とはお互いに出稽古してスパーリングしているみたいですが。
木村「やっぱり同じレベルとやるとね。(プレッシャーの違いとか)そういうのはありますよね。ホントはそういうのがほしいんですけど、自分から向こうに行ったりしないと…、時間的な余裕もないから」

ーー桜井洋平選手とかも
木村「そう。本当はもっとやりたいですけどね」

ーー前回の南雲戦では『若くないんで』と発言してましたが、先のこととか考えたりしてるんですか?
木村「7年もやってますからね。結婚もしてるし色々言われるわけですよ。『早く辞めなさい』とかね。でもやっぱりまだ納得いかないから続けているわけで、まだいつまでとかは考えてないですね」」

ーー納得いかないって所は?
木村「全部ですよ、全部。自分なんてまだまだハナクソみたいな存在ですからね」

ーーチャンピオンと言う肩書きもありますが…。
木村「逆に恥ずかしいですよね」

ーーキックを始めた理由は?
木村「(ファイティング)前沢の兄貴に誘われて。誘われてというよりは強制的だったかな(笑)。弟が同級生だったんですよ。家も近いですし、500mくらいかな。兄貴は僕の大先輩なんですが『お前も来い』って言われたら後輩だから断れないじゃないですか。断ったら大変なことになるぞって、それで初めて行ったんです」

ーー辞めたいとかは思わなかったのですか?
木村「最初は高校の時だったのですが、すぐバックれて行かなくなって、そして社会人になってから暇だったんでね。また誘われて行くようになって段々面白くなったんですよね。アマチュアの大会で優勝して本格的に始めて…。でもこんなにやるなんて思わなかったですよ(笑)」

ーーそれからデビューして連勝を続けましたよね?
木村「デビュー戦から壁を感じましたよ。あの時の感じがなかったらオレやってないです。一応KOで勝ったんですが何か違うんですよ。相手はスタンディングダウンだったので立ったままだし、やる前は一番強いと思っていたんですよ。『私が世界一誰よりも強い』と思ってたんです。『ピーター・アーツよりもオレの方が強い』って(笑)。もうデビュー戦のときなんか相手見て『楽勝。お前なんか2秒あれば十分』なんて思ってたら予想を遥かに超えたきつさでしょ。ビックリしましたね。もうホントにショックをうけました。それからですね」

ーー実際変わりました?
木村「変わりましたよー。練習で倒れる寸前まで蹴ったり山とか走るようになったり300ヤードの階段をダッシュで上ったりとか、毎日歩けなくなるまで練習しましたね」

ーー強くなっていく自分を感じたりしました?
木村「それが全然感じないんですよ。もっと出来るはずだなんて思ってはいないんですけど、こんなんじゃダメだって思ってやってきて今も現在進行中って感じです」

ーー連勝が止まった時は?
木村「逆に嬉しかったんですよね。なんで勝っているのか自分でもわけわからなくて、自分は全然ダメなのに試合は勝っちゃうギャップが耐えられなくて。勝っちゃいけないのに勝っちゃってるみたいな感じでしたから。もちろん頑張って出した結果だから素直に喜べばいいんでしょうけど、でも自分では納得してなかったから、初めて負けた時に『やっぱり負けた』と逆に納得しましたね。だから勝った試合で憶えているのがないんです。グライガンワーンに負けた時、逆に気持ちよかったですね」


◆亡き友との戦い、モチベーションとの戦い

ーー木村選手のライバルは事故で亡くなった高校の同級生だとお聞きしたのですが…、
木村「人間として尊敬していました。かっこよくて憧れだったんですかね。悪いことばかりやっているヤツだったんですけどね(笑)。ガキ大将タイプのヤツだったんですけど、自分にないものをもっているやつって憧れるじゃないですか。何がどうってわけじゃないんですけど、全部がかっこよかったですよね。だから自分のキックボクシングだけ強いって言うんじゃ嫌なんです。俺もお前に負けないよって言うのもあるし、それがあるから頑張っているよって言うのもあるし、こうやって今生きている以上、半端はしたくないんです。その彼に勝つために、たまたま自分が選んだのがキックボクシングだった。まだキックの奥深さとか覚えたいこと沢山あって、こうして続けているし、ずっと続けたいって思っています」

ーーその彼の墓前でいつも誓っていることがあると聞いたのですが
木村「毎年言ってるんですが、『今年のオレは違う』って(笑)。違わなかったらマズイですよね。ちょっとしたターニングポイントになると思うんですよ。(今度の西山戦で)勝つにしろ負けるにしろね」

ーーというのは?
木村「最近、試合をやってて気持ちがいまいち乗らないんですよ。自分でもなんでこうなってしまったのかよくわからない。フアサイとやった時だったかな(昨年3月)。自分の中で燃えるものを感じたのは。他はああいう気持ちになれないんです」

ーーそれでは次の試合はまずいんじゃないですか?
木村「いや、それに慣れちゃったから特にやばいとかは感じないんですけど。ただ周りに『やる気がないなら辞めちまえ』とはいつも言われるんですけどね」

ーーフアサイの時は特別だったということですか?
木村「フアサイの時は普通でした。『じゃあ試合行こうかな』って感じで。普段はなんかため息がでちゃうんですよね」

ーーかったるさみたいなものですか?
木村「うーん…、かったるさ。はっきり言えばそうですね。『あー試合かよ』みたいな。いつからかそんなんなっちゃって、いつも試合始まってもボケーとしてますからね。それで初めて危ないのもらって火がつくみたいな」

ーーそれは待遇面の不安ですか?
木村「なんて言えばいいんだろ。相手がどうとか元々言いたくないんですけど、格下だからとかね。でも気分的に防衛戦とか嫌ですね。(お金とか)違うならまた変わるかもしれないんですけど、やっぱりなかなか自分より強いやつとやるって言うのが思うように今まで出来てないからだと思うんですよね。相手が誰であれ本当はモチベーションの波って言うのを無くさないといけないとは思うんですけど。それも精神的な弱さだと思うから、今後はそういうのを克服してやっていくしかないですね」◆◆◆


  聞き手:永田遼太郎(2005年2月、茨城・土浦ジムにて)
  写真:井原芳徳

  ◆関連記事:西山誠人インタビュー「今の自分に絶対足りないのは、殺気と気迫」
  
  ◆MA日本キックボクシング連盟・公式ホームページ http://www.arts-ma.com/

Last Update : 03/10 22:56

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