五輪出場資格獲得
川合達夫インタビュー


(5)練習は量より質


量より質の練習を心がける川合 −−レスリング、そこまで好きになれるようになったのはいつぐらいからですか?

「自分もう、大学を卒業したときに辞めようと思ったんですよ。でも世界見ましたよね。ああいう世界を見ちゃったら、憧れちゃいますよね。テリー・ブランズ(Terry Brands米国、93,94,95年フリー57kg級世界選手権1位)とか、ハデム(Ras ul Khadem Azghadiイラン、90kg級で94,95年世界選手権1位、アトランタ五輪金メダル)とか。イランとかでも負けたときに、試合やってるとこもかっこいいですけど、負けたりとかしたときに、こうやって(実演)『ああっ』て座り込むんですよ。それがまたかっこいいんですよ。で、勝つとコーチに向かって投げキッスとかしてますよね。それがかっこいいですよね。そういうふうになりたいなあ、て思います。ブランズとかだったらパワーのあるアメリカのレスリングで自分では出来ないと思いますけど、イランのああいう、きったなぁい、たとえば1点迎えてとって、1点とられたけども、ずーっと守ってて、パッシブ、1−1で入ってて、相手がローリング入ったらぱっととって、ぱっと返ってその2だけで勝つとか、そういうのだったらできるかなあ、と。出来るかなあじゃなくて、自分の力を出し尽くした試合、ていうのに憧れますよね。それは選手として魅力のあるところですね。ああいう世界見ちゃうと、辞められなくなっちゃいますね。自分もああいうふうになりたい、て憧れになっちゃう。

 だから、たとえばメダルとって、日本帰ってきて、ああ、俺メダルとったんだ、て、そういうのじゃなくて、やっぱり太田先輩(アトランタ五輪フリー76kg級銅メダル、太田拓弥)とか男らしいのは、メダルとったこととかじゃなくて優しいんですよね。ああいうの見るとやっぱり男だなあ、て。そういうのに惹かれますよね。そういうところに魅力を感じますよね。試合して勝って、とかじゃなくて。試合終わったあとのリアクションとかガッツポーズとか、先輩とかの私生活とか。
 精神面でやっぱり強くならないと、レスリングはダメですよね。戦うときの勇気ですからね。外人に対して臆病になっちゃうとダメですよね。自分は太田先輩とスパーリングやっててもすごい強いとか思わないんですけど、よく勝っちゃうんですけど、太田先輩はビビんないですよね。どんどん行きますからね。あと、筋持久力がありますから。」

−−世界選手権見てて、日本の選手て別に技術がホントにないわけでも、スタミナがないわけでもないけど、その先がないよなあ、て思いながら見てたんですよね。

「あとパワーですよね。自分たちが負けてる、ていうのは走ったりとかスパーリングとかしたりする、そういうスタミナ的な動き的な力ではなくて最大筋力ですよね。筋力と筋持久力ですよね。それがあれば。」

−−ポン!と出るようなパワーが足りないかなあ、と思って見てたんですけどね。

「韓国とかそういうの頭よくて、力で来ますよね、ガチーン!と、バーン!と来ますからね。ああいうの日本とかも取り入れないとダメですよね。ちょっとスパーリングとか重視しすぎですかね。自分はそういうんじゃなくて、体力、もっとウェイトとかやってですね。走ってきたあとの懸垂とかですね。もっと、腕立てをやるにしても50回、100回とか出来ても、それは動かしてる、続ける、という意味であって、最大筋力を上げるためには、それだけ出来ちゃうと逆にダメなんですよね。

どんな練習にも創意工夫を忘れない川合  量ができなかったりすると日本人とか怒りますよね。量とかじゃなくて、やっぱりそこまで一回一回追い込んで、出来なくなっても、出来なくなるまで追い込んだというのが大切ですよね。だから、筋力をアップするんであれば、6回か7回やっと出来るかどうかの負荷で、バーベルに重石つけてやっと10回出来るかできないかくらいのですね、10回できないくらい、8回が限界だ、ていうくらいでスクワットでもやってかないとダメだと思います。腹筋でも室伏(陸上ハンマー投げ、室伏広治)とかは2,30kgつけて腹筋やってますからね。単に『腹筋だ』ていってみんなで腹筋やってるようなことではなくて、重しつけてやってかないと。それやったらその次の日はできなくなりますよね。そこで怒るんじゃなくて、ホントの練習しないといけない。次の日には、サッカーでもいいわけです。サッカーでも一つの目的があるんですよ。サッカーでだらだら走るのが悪い練習かというとそうじゃなくて、長い時間サッカーとか遊びながらでもジョギングとかでも脂肪を燃やす、カロリーを消費する、てそういうような効果がありますよね。レスリングというのはやっぱりウェイトの関係がありますから。一つ一つこれはこういう練習の効果だ、じゃあその次はこうだ、それをやる効果だ、とかいうのを。

 スパーリングでももっと考えてですね、例えば、タックルぴーっと入ってですね、タックルクラッチした瞬間から20秒間の攻防でとるかとられるかで、それが終わったらまた20秒間でとるかとられるか。また次の人にかえて、とるかとられるか、てやって、それで10分間、連続20秒ずつやる。それを最初は5分間、次は6分間できるようにして、また次には7分、10分と増やしていって。そのあと、30分バンと空いてもいいと思うんですよ。試合ていうのは実際そうじゃないですか。実際、やり始めて最初の5分で力出し切れなければ試合終わっちゃうんですよ。だから筋トレとかでも10分休まずにやって、その10分間最大筋力の重しつけてやって、あと30分休んでてもいいと思うんですよね。そのような練習に日本も変えていけるといいなと思いますけどね。だけど、これだとやっぱり、倒れちゃいますから、次の日だらだらサッカーとか、バスケットとかでも軽い動きやってていいと思うんですよ。クロスカントリーとか水泳とか。

 昔は日本の国内に5人くらい世界とれるような、世界で勝つより日本で勝つ方が難しいていう中でいましたからね。自分より強いヤツと今みたいな練習するのであれば効果があると思うんです。ただ、今の全日本は、トップがずば抜けちゃって下ついてこないですから。自分より弱いヤツとやりますからね。どうしても弱いヤツとやると攻め癖がついちゃいますからね。バーンと簡単に行ってとれちゃいますから、試合でもバッといくと相手が向こうの奴らだったら、アメリカからロシアからトルコから、アルメニアだウクライナだモンゴルだ、よく知ってますよね。柔道の古賀稔彦とか、吉田秀彦とか、井上康生とかそんなもんですよね。なかなか攻めてきませんよね。じとーっとしてばーんと行って、またとーっとしてちょこっといって、ホントちょこっとやって。分かってやってますよね。日本の国内でやるように、最初ばーっと5,6点やってというような試合展開にはならない、て知ってやってますよね。

 日本は世界から離されていますから、それをもって行くにはやっぱり、韓国のように筋トレから入っていく、ていうそういうのが大切じゃないのかな、て思うんですけど。
 韓国もロサンゼルスまではすごく弱くてカモで、ロサンゼルスぐらいから強くなって、ソウル、バルセロナとだんだん強くなってきてますから。やっぱり、向こうが何をやっているのか見るのも必要だと思うんですよ。
 韓国行って見ましたけど、向こうのスパーリングていうのは試合形式なんですよ、本当にレフェリーがいて、ていうスパーリングで。技術練習が日本で言うスパーリングに限りなく近い。入ってから、下からパーンで始めて、そっからいろんな変化するんですよ。トゥーホールドいったりとか、そのまま切ったりとか、上げたりとか、肩入れたり、あたま中入れたりとか。一概にスパーリングやってないから、ていってそういうんじゃない、て思いますけど。
 ボールとか使った球技とかの練習、取り入れてるとかありますよね。さっきも自分、ちょっと言いましたけど、飽きてきてますからね。韓国とかもよく、飽きてきちゃうので、週に二回くらいしかレスリングのこういった練習はやらずに、あとはほとんど球技だとか。日本のアップするくらいの練習しかやってないですよ。マット練習、長くて1時間20分くらい。スパーリングだって3本くらいしかやってなくて、集中して、試合みたいなのを3本やって終わりとかですね。あとは、打ち込みとか軽くだらだら流してやってる、ていうのが毎日ですね。走るにしても日本は平地の上を走りますけど、アップダウンを使ったりとかでやってる。日本の選手綱登りするんですけど、韓国の選手に綱のぼり、ていうと全然できないですけど、逆に、足腰の肝心なところはむちゃくちゃ強い。」


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