五輪出場資格獲得
川合達夫インタビュー


(3)知られざる教員採用試験での出来事


−−話を戻しますが、高校から日体大へ進学すると決めたのはなぜですか?

「普通、高校生ていうのは練習がきついような大学行にきたがらないですよね。国士、日体、日大とかビビっちゃっていかないですね。この三つ、その当時三強だったと思うんですけど、自分の高校から行ったヤツ一人もいないですね。大学入って、学生チャンピオンも2位はいるんですけど、優勝者は西邑楽高校から出てるのいませんから。高校二冠王とか三冠王とかの先輩いたんですけど、みんな練習が比較的楽なところへ行くんですよね。それで高校生のとき思ったのは、金子先生が熱心に教えてくれて、それで寂しいじゃないか、ていうことです。だからせめて、自分じゃインカレすら勝てないと思ったんですけど、せめて勝てなくてもとりあえずやる気のあるところだけ見せよう。それと、自分たち全国2位ですから優勝してないんですよね。西邑楽高校、自分たちのときは団体で全国2位まで行ってるんですよ。霞ヶ浦に勝てなかっただけで、関東も2位で全国も、選抜もインターハイも2位なんですよ。大学へ行ったら一番の学校に入りたいと思ったんですよね。それで一番の学校ココでしたから日体大を選んだんです。
 それとあともう一つ理由があるのが、僕、友達いないんです。」

−−高校生のときも尾を引いちゃってたんですか?中学のときにいじめられていたのが。

「そうですね、それがやっぱり、いまでも、……(まじめな口調で)そういうのしちゃいけないことですよね。そういうの社会性みたいのが、失われちゃいますから。
 高校のときも友達いないですね。大学入ってきてからも、友達と遊びに行った、ていうのが一回くらいしか記憶にないですね。先輩にはよくかわいがられて飲みに連れて行ってもらったりするんですけど。孤独ですよ。今でも友達いないですけど、もちろん、彼女とかもいないですよ。自分、まだこう見えても一回もまだデートとかも行ったことないですよ。
 それで、あんまり練習が楽な大学とか行っちゃうと、レスリングとかじゃなくて、しゃべりの巧いヤツとかが人気者になりますよね。それじゃ面白くないと思ったんですよ。だから、友達いないですから、どうせだったら練習きついところの方が(疲れた顔をしてみせる)それどころじゃない、友達関係とかどうだっていい、ていうことになりますよね。その二つですね。」

−−じゃあ、大学に入って、レスリングを辞めようなんて思ったことは一回もない?

「練習行きたくないなあ、とか練習嫌だなあとかきついなあ、とかは思ったんですけど、辞めたいなあ、と思うんですけど、本当に辞める、ていうような決心は付かなかったですね。だって辞めると、やっぱり高校の先生の推薦とかも来てますから、まずいですよね。レスリングで大学来てますから、自分はレスリング辞めて大学だけ行く、ていうのも、まずいですからね。」

−−教員の免許は最初からとろうと思ってたんですか?

「いや、それはですね、まったく知らなくてですね、日体というのは体育の先生を作るための学校だとわかったのも三年生の冬ぐらい、1月か2月くらいになってから。もう、レスリングのことしか見てなかったので。日体はレスリングが強い、だから日体に行こう、だから選んだだけで。全然、大学のカリキュラムを見ずに行ったので、先輩に言われるがままに履修して。教職もたまたま、一応とっておいた方がいいよ、ていわれたのでつけといたんで、卒業してみたら教職の免許とってたんですけど。」

−−教員採用試験では随分優秀だった、て聞きましたよ。(2000年4月から群馬県の高校教員に採用内定)

「そうなんですよね。結構、押してもらって入れてもらったのかと思ったんですけど、国体行ったときに、体育協会の偉いさんとかに『君、よく受かったね。あれなかなか受からないんだよね』て言われて、あれ?押してくれてたんじゃないのかな?て。でもやっぱり、レスリングの方とかの指導あるから入ったんじゃないかと思いますけど。」

この真剣な顔を見よ。何事にも手を抜かないこの姿勢で教員生活も送るのだ。

−−面接なんかすごくてトップだった、て聞きましたが。

「ほんとですか?(本気で驚いているらしい)ホントですか?面接ですね、自信あったんです。一回だけ自己ピーアールして下さい、て言われて。それ以外まったく出来なかったんですよ。そこが悪かっただけで。

 最初、ノックして入りなさい、ていわれたんですけど、その時点から違うんですよ。バッとドアを開いて『はい、入って。座って。』それから『はい、川合君ね。レスリングやって、日本体育大学で、今助手やってて』て向こうから言っちゃうんですよ。『オリンピック行ったときどんな感じだった?』て言っちゃうんですよ。散々聞いといて『はい、自己紹介して下さい』て言うんですよ。名前から年から全部言われちゃってますからね。それでも、20分くらいメチャクチャになんでも話したんですけど。
 みんな自分は喋らないと思ってますよね。でも、なんで面接のときめちゃくちゃにでも話したかというと、その前に、夏の合宿やる草津で焼き肉やったんですよ。そのとき、自衛隊の佐川コーチが隣にいたんです。『実際あんな面接とかでは、本当の人間性ていうのは分かりませんよね。みんなで焼き肉食ったりとか、一緒に生活したりとか競技で練習したり、試合してみなければ、本当の人間性というのは分かりませんよね。』て話したんです。それが結構頭にあったので、何でもかんでもむちゃくちゃ喋ったんですよ。喋らないと伝わらないですからね。なんでもいいから喋ろうと思って。結構マトモに、ちゃんと出来たと思います。いっぱい喋ったので。

 集団討論も結構喋れたんですよ。小論文、かなり自信ありましたね。受ける前は一番自信なかったんですけど。絶対書けないから練習しようと思って、自分で小論文の題決めて書いてみようと思ったら、全然筆がすすまないんです。最初の3行か4行くらいで書けなくなっちゃって。漢字もあんまり書けないんですよ。でも本番になったらですね、バーンバン巧く書けちゃって、漢字も全部書けちゃって、かなりいい文章書けたんですよ。今までの自分の先生に対して『先生が熱心に指導してくれば生徒がついてくる』とか、『先生の高校の頃の指導があって、僕は今こうやって毎日、充実した生活を送っている。だから僕もそうなりたいんだ。』とかいい文章が書けたんですよ。自分でもう感動して、ちょっと泣いちゃいました。これはいい文だ、て感激して。しかもですね、普通そこに800字で収まらないといけないじゃないですか。僕はそこで一行余したんですよ。余分に出ちゃったんです。普通はそうしたらまずいですよね。でも、とりあえずこれは気持ちが伝わればいいんだ、と思って、もう受かんなくたっていいじゃない、と思ってそれでやったんですよ。でも書いてあったってくっついてれば読みますからね。自分は納得できたんで、そう書いてどーんと出してきたんですけどね。」


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