99･5･29 (株)sustain 主催 "修斗 the Renaxis 1999 10years Anniversary" 横浜文化体育館大会

第８試合（ウェルター戦王座決定戦3R）

× 佐藤ルミナ ３Ｒ４分02秒 スリーパーホールド ○ 宇野　薫 K'z FACTORY 和術慧舟會

今の修斗ブームの立て役者がルミナであることに異論を唱える人は少ないだろう。 　94年のバーリ・トゥード・ジャパン・オープンに始まる修斗のＶＴ路線。しかし、当初の戦績は決して誉められたものではなかった。「日本最弱」。格通は表紙にそんな扇情的なコピーを載せた。 　その流れを覆したのが、ルミナの、ヒカルド・ボテーリョに対する鮮やかな勝利だった。ここから修斗は流れを掴む。勿論、エンセンもいたし、マッハもいた。だが、やはり中心はルミナだった。スピーディーな打撃で相手を翻弄し、狼が喉笛に食いつくが如く、十字で、ヒールで、一瞬のうちに仕留めてしまう。デビュー以来、10試合連続一本勝ち。ジョエル・ギャルソンにまさかの星を落とすも、公式戦では、その後は再び秒殺街道をひた走る（ＶＴＪ98ではＫＯ負け）。 　カリスマ、と言っていいだろう。 　金髪、鋭い眼光、無精ひげ。孤高を感じさせずにはいられない。 　 そのルミナが、空位になっていたウェルター級の王座に挑む。相手は慧舟会の宇野薫だ。 　実に対照的である。 　バーリ・トゥード・アクセス以前の修斗のトレーニング、木口道場での過酷な「極めっこ」を土台とするルミナ。彼の極めの鋭さはその時代に培われたものだ。一方の宇野は、高校時代にアマチュア・レスリングで実績を上げ、慧舟会に入ってからも、「上から攻める」という会の教えを体現すべく努力を続ける。極めとポジショニング。トリッキーな攻めとシュアな押さえ込み。 　だが、何より違うのは、その醸し出す雰囲気だ。 　昂然と頭を上げるルミナ。その周囲には人を寄せ付けないオーラが漂う。一方の宇野は、実績を積み、雑誌のグラビアに取り上げられるようになった今でも、人なつっこい笑みを絶やさない。真面目な、今の時代には全く珍しい、爽やかなスポーツ少年である。 　カリスマとして立つ佐藤ルミナと、そのルミナに憧れ、修斗の階段を昇ってきた宇野薫。10周年記念大会のメイン・イベントはこの二人がつとめることになった。 　１ラウンド、ルミナが爆発する。 　切れのある打撃合戦。ルミナのスピードに宇野がついていく。しかし、組んでから横に回り、すかさずテイクダウンに成功したのはルミナだ。そのままバックから胴絞めスリーパーに入る。キャッチ・コール。 　秒殺か？ 　会場に緊張と期待が走る。しかし宇野は極めさせない。顎を引き、ルミナの腕を掴んで、絶対絶命の中、絞めをこらえ続ける。１分、２分と時間が経っていく。逃げようとする宇野を引き戻して再び体勢を作り直すルミナだが、それでも極まらない。 　遂に宇野が体を返す。 　そのまま上にのる。パンチを落とす。パスに入り、サイドから上四方にいく。 　ここでラウンド終了。 　２ラウンドに入る。 　またもやルミナの打撃についていく宇野。きっちりとガードし、パンチを打ち返す。予想外にスタンドでの実力に差がない。 　組み付いてバックに回ろうとするルミナ。だが、二度はやらせない。逆にテイクダウンし、上にのる宇野。ガードを取られていても、上体を起こし、きっちりバランスを取ることができるのが宇野の強みだ。トップ・ポジションからパンチを落としていく。 　ルミナ、突き放して立つが、再びテイクダウンされ、トップからボディと顔面を打ち分けられてしまう。パスしてサイドに回る宇野。その隙をついて立ち上がるルミナ。ハイキックを繰り出す宇野。かいくぐってバックに回るが、しかし、コーナー際で宇野に逆に倒されてしまう。 　宇野のペースだ。 　会場が新しいヒーローの出現に呼応しはじめる。 　最終ラウンド。 　先手をとってタックルでルミナを倒す宇野。バックをとるが、ルミナ、そのまま立ち上がり、後ろからおぶさってくる宇野を前に投げ落とす。顔面から落ちる宇野。頬から出血する。試合が一時中断され、ドクター・チェックが行われる。 　再開。 　タックルで再び倒す宇野。パンチにいく。足で突き放すルミナ。 　流れを変えようと引き込みにいくルミナだが、かわされてしまう。突き放し、猪木・アリ状態になるルミナ。上から飛び込みパンチを落とそうとする宇野。必死で突き放し、スタンドに戻るルミナ。 　わき起こる宇野コール。 　しかし、立ち上がったルミナの弱々しい動きに、今度は悲鳴のようなルミナ・コールが会場を埋め尽くす。「あの」ルミナが負けようとしている。スタンドで宇野のパンチを食らう。もはや動きに切れが全くない。タックル、というより、しがみつくように宇野の足を取り、倒しにいく。 　エネルギーが切れたようなルミナの動き。まともに倒すことなどできようはずもない。右足首を取られた宇野だが、全くあわてることなく、倒れ込んでくるルミナの背中に回り、そのままスリーパーに入る。するすると宇野の腕がルミナの首に巻き付いていく。 　ルミナ、タップ。 　第四代ウェルター級のチャンピオンベルトは、カリスマ・ルミナの手を素通りして、宇野薫の腰に巻かれることとなった。 「天国にいるお父さん。いつも見守ってくれていてありがとう。やっと一番になれました！」 　何と言うのだろう。 　幾分「べた」な、だがそれだけに普遍的なスポーツ・ドラマ。ＶＴＪに象徴される危険なまでに張りつめた、先端、というか「前衛」という表現すら相応しく思えるここ数年の修斗のイメージとは明らかに異なる。 　メジャーな、といったらいいのだろうか。 （山名尚志） ［1］高山義幸×阿部裕幸　 ［2］竹内 出×アーメット・ラジジ　 ［3］デニス・ホールマン×デイブ・メネー　 ［4］郷野聡寛×マット・ヒューズ　 ［5］加藤鉄史×中尾受太郎　 ［6］カーロス・ニュートン×川口健二　 ［7］桜井速人×マセロ・アグア　 ＜大会総評＞ ＜全試合結果＞

取材：山名尚志・原田容子　カメラ：井田英登 HTML編集：井原芳徳