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Report

MILLENNIUM COMBINE III 8月23日 大阪府立体育会館

大会総評

「興行と実力の狭間」

山名尚志


 会終了後、田村がまた爆弾を落とした。
 「刺激がないんですよね」。
 今すぐリングスを離脱するとかそういう話ではないことを確認しつつ、田村は「他の日本人選手が上がって来ないのなら自分の道を進ませてもらう」と言い切った。
 この言葉を上っ面だけで捉える、つまりは単なる他の選手への檄としてだけ受け止めるのは難しい。リングスと袂をわかって「自分の道を進む」とまで言うことと、他の日本人選手のふがいなさを嘆くということの間には、あまりにもギャップがありすぎる。
 田村は何を訴えたかったのか。

 リングス大阪大会の4日後、西武球場でPRIDE10が開かれた。
 桜庭、ヘンゾ・グレーシーにレフェリー・ストップ勝ち。そのニュースは翌日のスポーツ新聞の一面を飾った。一方、田村の発言は東スポの格闘技面に、それなりに大きな扱いではあったが、白黒で掲載されたのみである。
 片や対グレーシー三連覇。片や、実力は折り紙付きであるとは言え、知名度的には大分劣る相手に対しての判定勝ち。ある意味、扱いの差は当然ではあった。
 しかし、これはやっている側からしたら堪らない話かもしれない。
 まして、田村は、ヘンゾ・グレーシーに勝った最初の日本人なのだから。

 直、KOKが開始されて以来、リングスのマッチメイクは非常によくなっている。UFC、WEF、アブダビ・コンバットで実力が証明された選手が多数登場し、その当然の結果として、NHBのトップクラスの技術が見られるマットに、リングスは、なってきていると言っていいだろう。
 だが、である。
 だが、そういった体制の充実の割に、トーナメント終了以来、リングスの興業は盛り上がりにかけたままである。客入り、マスコミの扱い、そして「一般」社会へのインパクト。これはどうしたことだろうか。「要するにいい選手を集めた方が勝ち」と前田代表はことあるごとに言ってきた。いい選手が出場し、いいマッチメイクが行われ、いい試合が提供される。
 それができるプロモーションが最後に残るのだ、と。
 にも関わらず、現実はそうした方向にむいていっていない。

 題は「いい」という言葉の内容だ。
 格闘技関係者、本当にコアなファンにとっては、「いい」選手とは、コンディションがよく、運動能力や戦術に優れ、技術の高い選手ということになるだろう。だが、そんな目で「いい」「悪い」を考えて会場にいく、あるいは、紙面やテレビを見る人がどの程度いるだろうか。
 いいか悪いかはともかく、そんな人は少数派だ。さらにいえば、それでは一般の人はついてくることができない。
 煎じ詰めれば、こと興行ということに限っていえば、「いい」とはイコール「有名」ということである。もちろん、本来の意味、実力のあるということでの「いい」選手は、会場でいい試合、記憶に残る試合をすることによって、「有名」になっていく。これが本筋であり、王道であろう。
 しかし正論だけでは世の中動かない。
 特に興行の世界はそうだ。
 田村の危機感も、そうしたところと関係があるのではないか。

 レーシー一族の最強神話、93年末以来、一般マスコミまで巻き込んでさんざんに喧伝されたその物語を踏み台にして、PRIDEは、高い知名度を獲得していった。そうして、次には、その神話を食いつぶしていきながら、桜庭という一人の選手をスターダムにのしあげた。
 ある意味、これはまさにスキャンダリズムである。
 だが、スキャンダルがなければ、人は興味を引かれないということもまた確かだ。
 マット・ヒューズも、パット・ミレティッチも、ジェレミー・ホーンも、ヒカルド・アローナも、本大会に出場した選手は実に魅力的な選手ばかりだ。しかし、残念ながら、そのよさは、会場にいった人、それもある程度総合の「見方」がわかっている人にしか通じない。
 簡単にいえばわかりにくいのだ。
 このわかりにくさが、リングスの大会に、妙に淡々とした雰囲気を与えている。確かに一流のものが提供されているらしい。それはわかる。大会コンセプトはリングスvsWEF(ワールド・エクストリーム・ファイティング)の対抗戦ということのようだ。WEFは、UFCと並ぶアメリカのNHBの大手プロモーションと紹介されている。なるほど、それは大変なことなのだろうな。会場にきてパンフを読み、あるいは、WOWOWで熊久保氏の解説を聞けば、頭の中では理解はできる。とは言っても、それだけで感動も熱狂ができるわけでもない。WEFは、グレーシーと違って、最強神話の担い手であったわけではないし、名だたる日本人プロレスラー、格闘家を次々となぎ倒してきたわけでもない。 名前としては知っているが、感情がかき立てられない。
 スキャンダルと言っても、ドラマと言ってもいいが、何かしらの猥雑物がなければ、人の業は刺激されないのだ。

 い返してみれば、こうしたスキャンダリズムがリングスにもっとも濃厚に立ちこめていたのは、やはり、田村の初登場時だろう。
 Uインターのコスチュームを身にまとい、馴れ合いを拒み、そうして一人一人リングス・ジャパンの選手を「潰し」ていく。前田日明という特大のスキャンダルをのぞけば、リングスがリングスとして作りあげることができた最大の物語は、この、「外敵」田村によるリングスの占拠だったのではないか。
 そうして、どうやら田村も、このドラマの再演を願っているように思える。それがあるが故の他の日本人選手への檄であり、そうしたスキャンダルがない現在のリングスに対する危機意識がアピールの背景にあるというのは考えすぎであろうか。

 エースの懊悩。
 それは団体を引っ張る者としての苦悩である。■■■

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レポート:山名尚志

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