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Report

MILLENNIUM COMBINE III 8月23日 大阪府立体育会館

第1試合 リングスルール 1R10分/2R5分
× クリストファー・ヘイズマン
(リングス・オーストラリア)
2R判定

0-3
マット・ヒューズ
(アメリカ/ミレティッチ・マーシャルアーツ・センター)

 OKルールには「見えない拳」がある。
 もちろん、秘密兵器などという話ではない。判定基準の意味だ。
 詳細な基準が発表されていない以上、あくまで憶測になってしまうが、今までの判定を見る限り、テイクダウンとグラウンドでの相手の身体のコントロール、つまりはポジショニングや押さえ込みに優勢点が与えられることは確かなようだ。具体的にいえば、タックルや投げから相手の上をとるムーブをした方が判定有利ということである。
 単なる見ている側の意見として言えば、こうした判定基準には、いささかわかりにくい。やられた側のダメージが伝わってこないからだ。しかし、一つの見方を導入すると、途端に腑に落ちてくるものがある。
 他のNHBルールであったらどうか、ということだ。

 PRIDE、UFC、あるいは今回の対抗戦の相手であるWEF。これらのNHBとKOKの、今となってはほぼ唯一となったルール上の差違は、「グラウンドでの顔面パンチの有無」である。そうして、ここまで言えばわかるように、KOKの判定基準で優位となる「上をとる」というムーブは、まさに、この顔面パンチへのプロローグに他ならない。
 現実のKOKで顔面に拳が振り下ろされることはない。
 しかし、観客は、そしておそらくは他のNHBルールで闘う機会の多い選手にとっても、その脳裏から顔面パンチの可能性が全く消え去るわけではない。
 そうして、KOKでは、可能性が可能性のままでとどまる代償として、判定に優勢点がつく。それは「見えない拳」が打ち込まれた痕である。

 の第一試合の決め手となったのも、「見えない拳」だった。
 それを抜きにしていえば、むしろ、ヘイズマン優位という判定を下すこともできたかもしれない。何せ、開始早々からアームロックを狙い、その後も下からの十字を極めかけ、あるいはアキレス腱固めの体勢にほぼ完全に入り、終盤にはフロントネックロックも狙ったのだから。
 対するヒューズは、グラウンドでは、シュートの体勢に入れていない。
 にも関わらず、判定は、3-0でヒューズに上がった。
 理由はスタンドおよびグラウンドでのレスリングの優勢だ。
 開始早々からヒューズのレスリングが光った。タックルと受け止められても、下がらず、そのまま押し込んでいく。そうして倒した後は、あのヘイズマンのパワーを封じ込め、ともかく押さえ込んでしまう。なんというか「圧力」を感じる力強いレスリングである。
 スタンドでのヘイズマンの投げ、崩しは一度もテイクダウンに結びつかず、また、グラウンドでのスイープも一回しか成功しなかった。そして、倒され、上を制される度に、判定上は「組み、グラウンドでの優勢ポイント」という見えざる拳が次々と打ち込まれていったのである。

 わかりやすさ、ということで言えば、優勢勝ち、それもダメージが目に見えるものではない「上を征する」というポイント判定には問題が残る。かといって、この判定なくしては、NHBというデファクト・スタンダードの流れから疎外されてしまう。
 選手の進化を期待するか。それとも、ルールの変更を考えるか。
 いずれにせよ、レスリング技術の「可視化」は、プロ競技としてのリングスにとって、大きな課題であろう。

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レポート:山名尚志

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