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Report
pride 2000.1.30 PRIDE-GP 一回戦 東京ドーム
 第7試合 
イゴ−ル・ボブチャンチン
フルタイム
判定3−0
アレクサンダ−大塚
×

行け行けアレク!


 
最近のアレクの表情の冴えは特筆に値する。
迷いというものがまったくない。

PRIDE初参戦となったPRIDE-4の頃は員数合わせに呼ばれたプロレスラーといった風情が強かった。周囲の扱いも、高給をとる海外のビッグネーム格闘家のアンチテーゼとしてのものばかりで、アルバイトのリング設営までやるインディプロレスラーといったエピソードが強調されていたものだ。しかし、そのマルコ・ファスを破って以来、周囲の評価は一転した。今やアレクは恵まれた体格とアマレスの素地をもつ格闘家として、PRIDEでもレギュラーの地位を築いている。

しかし、それでアレク自身のスタンスが格闘技寄りに変わったかといえばさにあらず。むしろ昔以上にプロレスラーとしての肩書きにこだわるようになった感がある。特にその傾向が顕著になったのは、前回PRIDE-8でのヘンゾ・グレイシー戦前の一カ月の彼の行動だろう。通常なら対グレイシーということでナーバスになり、本業のプロレス活動を休んででも、対策を練ろうと考えても無理はない。だが、アレクはあくまでプロレスラーであることにこだわり、徳島では新崎人生との同郷タッグで戦い、また後楽園では”サーベルタイガー”松永光弘とのデスマッチでは額を割られ、大量流血を喫しながら戦った。その生き様は、相手も場所もルールさえも選ばず、どこででも戦うという哲学に貫かれている。ここまで来れば、まことに天晴れとしか言い様がない。

アレクはPRIDEというストレートアヘッドな修羅場をくぐることで、逆にプロレスラーとしての自分を確立したのである。

そして今回もアレクはやってくれた。

今回の対戦を遡ること6時間あまり前、アレクはすでにリングに上がっていた。 もちろん東京ドームのリング設営ではない。 その隣の後楽園ホールで行われたバトラーツの昼興行で、カール・マレンコとのタッグを結成、石川雄己&モハメド・ヨネとのタッグマッチを行っていたのである。試合内容はいつも通りのアレクそのもの、場外のヨネに向かってトペも放てば、場外乱戦も拒まない。まったく手抜きをしない元気なプロレスラーぶりを、ファンに見せ付けた。そして、その会場には、今夜の対戦相手であるボブチャンチンまでが訪れた。武骨なロシア人であるボブチャンチンは、一日に二試合もやってしまうクレイジーな対戦相手に戸惑いを隠すことができないといった風情で、ろくにアレクの試合も観戦せずに後楽園を後にしてしまったのだが。


一方のアレクはそんな周囲の好奇の目もどこ吹く風。

「先に決まってたのはウチの試合ですから。自分の所の試合に出るのは当たり前だし、これから何時間かあとのドームにもごく当たり前に出ますよ」と飄々と語って見せる。しかし、無様に負ければこれまで築いてきたせっかくの実績まで棒に振りかねない。背負ったリスクは並大抵ではない。

しかし、この日2度目のテーマソングに乗って現れたアレクはさわやかそのもの。ダブルヘッダーによる疲れを微塵にも見せず、客席に手を振ってにこやかにリングインしてきた。相手はただでさえ手ごわい、PRIDE一のハードパンチャー、ボブチャンチンだというのに、まったくこの図太さには恐れ入る。ルール外の攻撃であったとはいえ、あのマーク・ケァーを失神KOに陥れたパンチを知らないわけではあるまい。まともにいけばアレクに勝ち目はない。しかし、この余裕ぶりをみていると、なにやら大番狂わせの予感すらしてくるから不思議だ。


開始早々、アレクはボブチャンチンに対して打撃で攻めこんでいく。もちろん、エンセンばりの”ド突きあい”を望んでの特攻ではあるまい。打ち合いになったところでタックルに入り、テイクダウンを狙っているのだ。

しかし、ボブチャンチンも大砲打撃が武器というだけのキックボクサーではない。PRIDE無敗の影には、VTの修羅場をいくつもくぐった技術的な裏打ちがある。グラウンドに持ち込もうとするグラップラーの決死のタックルを、きっちりがぶって潰せる腰の強さが、ボブチャンチンの第二の武器だ。案の定、アレクのタックルはきれいに受け止められ、頭を抱え込まれたままサイドからのパンチを浴びてしまう。


こうなると、スタンドスキルに乏しいアレクは、無手勝流に相手のフィールドであるストライキング勝負に応じざるを得ない。それでもボブチャンチンの超弩級のパンチをかいくぐりながら何度もタックルを仕掛けるアレク。そして、そのことごとくが潰される展開が繰り返される。

万事休すかと見えた10分過ぎ。

思いきりパンチを振り回してきたがボブチャンチンは、バランスを崩して自分から前に倒れ込んできたのだ。これを逃さず、三角締めの体勢で引き込んだアレク。しかし両足のフックが決まらない。ボブチャンチンも両足を突っ張って、極めに持っていかせまいと踏ん張る。ドームはこの千万一隅のチャンスに割れんばかりのアレクコールで沸き上がる。効を焦って、この姿勢のまま空手チョップを浴びせまくったアレクは、逆に首を抜かせる手伝いをしてしまった。

残り時間わずかというところで、またもやチャンスの女神がアレクに微笑を見せた。クロスカウンター気味にパンチが交錯した両者だが、肩口を抜けたパンチが絡まってボブチャンチンがバランスを崩したのだ。このチャンスに河津落としでテイクダウンするアレク。しかし体制が崩れたせいで、ボブチャンチンはそのままマウント。そこからパンチの雨が降ってくる。結局、ボトムから返しもできず、アレクはそのままの状態でゴングを聞くことになった。

判定は一方的な3−0。

しかし、ストライカー相手にひるむことなく立ち技で応じ、一度は決定的なチャンスを作るまでに至った戦いぶりは、決して低い評価を下すべきではあるまい。

「僕のプロレスラーの感性として前に前に出ていく自分を見せて、お客さんにいいものを見せたかった」と語ったアレク。その思いは十分伝わったはずだ。

「皆さんの予想では一発きれいなパンチが入ってノックアウトと思われたでしょうけど、これだけ”きれいな顔”にしていただいて。すっごくおいしい相手でした(笑)」
と傷だらけの顔で不敵に言い放つアレクには、やはり”格闘家”というより”プロレスラー”という称号が似合う。

 行け行けアレク! 誰がなんと言おうと君は間違っていない。

(井田英登)



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取材:藤間敦子・山口龍・横森綾  写真:井田英登

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