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Report
pancrase 2000.1.23 パンクラス 2000 TOUR "TRANS" 後楽園ホール
第5試合 (10分一本勝負) 
KEI山宮
判定3-0
29-28,30-28,30-28
クリス・ライトル
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”判定王”の苦悩


 
山宮の戦績をたどると、ある恐るべき事実が浮かび上がってくる。

97年のデビュー以来パンクラス公式戦34戦を消化しているが、その内判定で決着した試合がなんと23戦もあるのだ。全戦績の実に7割近くの内容が判定試合ということになる。

このデータは山宮というファイターが、最終的に”試合を終わらせる手段”に乏しいかという事実を浮き彫りにしている。しかし、これはこと山宮個人に限ったことではない、近年パンクラスマットはこの”判定病”が深くまん延し、マット全体の活力までもそいでしまっている。山宮の戦績はその顕著な例なのだ。

そもそも山宮の格闘技的バックボーンにある技術は、国士舘大学時代に培ったアマレスである。この技術を持っていたことで彼は、入門以来たったの10カ月という早さでデビューにこぎ着けている。入門テストでは一期先輩にあたる長谷川悟史(故人)同期デビューとなった事や、半年先にデビューした、國奥麒樹馬が実は藤原組入門から数えて4年という長い練習生生活を送っていたことを考え合わせても、如何に山宮がスピード出世したかがうかがえる。事実、デビューの舞台となったネオブラッドトーナメントから、ちょうど一年で山宮はこの新人登竜門戦を制し、パンクラス生え抜き勢のなかでも頭一つ出たポジションを得ている。

しかし、その後、山宮は嘘のように鳴りを潜めてしまった。ランキングこそ4位とトップコンテンダーの位置につけているが、彼がタイトルに挑戦したことは一度もない。先に書いた戦績のとおり、そこそこの試合展開で倒しも倒されもしない無難な試合をやる中堅選手というポジションに安住してしまっているのだ。本来であれば、生え抜きパンクラシストとして、現在パンクラスマットの先頭を走る近藤や國奥を脅かす存在にならねばならない位置に居るにもかかわらず、だ。


はっきり言って、これは停滞以外のなにものでもない。

無論、本人には危機意識があるはずだ。
その証拠に、山宮は現状を打破すべく、昨年3試合のノールールマッチに打って出た。パンクラチオンマッチの先陣を切ったジェレミー・ホーン戦、流血の壮絶な戦いとなった佐野友飛(現:なおき)戦と印象にのこる2試合をこなし、秋にはついにUFC-Jにも進出した。

そもそも山宮はデビュー直後の97年初頭、UFCに参戦した高橋義生のスパーリングパートナーに抜てきされ、みっちりとノールールファイトの基礎をたたき込まれた過去を持つ。このとき高橋は、自らのルーツであるタックルからテイクダウンというスタイルを封印し、とにかく倒されずにスタンド勝負という戦法を自らの体に刻み込んだ。相手がグラウンドに長けたグレイシー門下生のイズマイウだったからだ。それまでレスリング時代の貯金でファイトスタイルを組み立ててきていた感のあった山宮が、スタンドファイトにこだわる基礎をつくった時期であろう。ノールール戦が続いた去年は山宮にとって、いわば、その原点にもどり、もう一度自分のなかの牙を研ぎ直す作業を行ってきたわけである。

そして、そうした山宮の自己再構築作業に期を同じくして、パンクラス自体もオープンフィンガーグローブの正式採用に踏み切った。このルール改正で得をするのは、スタンドでKOが取れる選手と、グラウンドでの打撃に迷いの無い選手ということになるだろう。逆に、これまでの山宮のように”判定病”に陥っている選手は取り残されることになる。いわば、この流れに乗れるかどうかが、山宮という選手の生き残りを賭けた戦いにもなるというわけである。



試合は山宮の先制の右パンチから始まった。その勢いで一気にライトルをコーナーに押しやる。コーナーで組み合い、膝蹴りをいれる。ここでブレイクがかかる。山宮の左腕から出血がある。もみ合った際にこすったせいかもしれない。ドクターチェックが入る。

試合再開、山宮の左フックがライトルの顔面を捉える。ライトルが一瞬ぐらつく。ここでラッシュをかければ、一発で勝負は終わる。しかし、そこでラッシュがかけられない。この躊躇が山宮を”判定王”にしている最大の原因に違いない。本人は試合後のインタビュウで「狙って打ったというのと違うんで、あたった感じでフックかもしれない。」と述懐しているが、ラッキーパンチでもなんでも、チャンスに畳み込めないのでは仕方がない。ワンダウンで勝負のつく新しいパンクラスルールでは、この躊躇は命取りだ。ライトルは逆にこのピンチに目ざとく、タックルでダウンを免れ、そのままグラウンドの攻防となる。

山宮は上のポジションになるが、ライトルのガードからのパンチを浴び、逆に顔を腫らされてしまう。パスガードせずに立ち上がるも、今度はライトルも蹴りで応酬。山宮は再びパンチのワンツーで打撃戦に入る。ここで、ライトルの蹴りが誤って山宮の金的に入りイエローカード。

その後のスタンドでも目覚ましい展開はなく、またもや試合は判定に終わった。すっきり勝てない相手ではなかったことは山宮もわかっているだろう。

「自分が練習してきたことが出なかった。だからこんな試合になった気がします見てるほうはじれったい試合だったと思うんですが。ほんと申し訳ないって言う試合でした。勝ちゃ良いってもんじゃない。」と試合を振り返り「これからはほんとに船木さんとか高橋さんとかに教えてもらうんじゃなくて自分で考えます。そうしないと何も変わらないと思うんで」という言葉には、焦りのような感覚も感じられる。

これまでパンクラス生え抜きとして育った山宮にとって、船木・高橋の影響は非常に大きいだろう。しかし、彼らの技術は学べても、そのアレンジ、そしてスピリットは結局自分で身に付けるしかない。これまで優れた技術を持ちながら”判定病”に陥っていたのは、まさにテクニックだけが先行していたからにほかならない。

パンクラチオンマッチ〜新ルール採用という流れの中で、菊田、美濃輪、須藤といった外様組が頭角を現し始めた現在のパンクラスマットで、生え抜きの山宮が生き残れるかどうかは、今後のパンクラスの行方に大きく影響を及ぼすだろう。このまま”判定王”として中堅にあまんじつづけるのか、それとも一機に殻を割ってトップに躍り出るかのか?

今、山宮はその分岐点に立っている。

(井田英登・石渡知子)


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取材:慈村弓太、石渡知子  写真:横森綾

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