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Report
pancrase 2000.1.23 パンクラス 2000 TOUR "TRANS" 後楽園ホール
第6試合 (10分一本勝負) 
近藤有己
判定3-0
30-26,30-25,30-25
山田学
×

敵は内側にあり


 
 グローブ着用の新ルールという、大きな転換期にさしかかったパンクラス。しかし、リング上での戦いにはそれほど違和感は感じなかった。これは、すでに1年以上にわたってパンクラチオンマッチが行われ、グローブでの試合を見慣れていたためだろう。選手もこの日のための準備は万全であるように見えた。

 それでも、メインの二人がグローブをつけて並ぶ所を見ると、新鮮さが感じられる。近藤と山田は、二人ともパンクラチオンマッチを経験していない選手なのだ。2000年の第一弾となる試合で、新ルールによる変化を見せるには、これ以上のカードはないだろう。


 ゴング。近藤の打撃がうなる。速い。鋭い。とてもグローブをつけて初めての試合とは思えないほどスムーズだ。山田も応戦するが、パンチの的確さでは及ばない。やむなく、なんとかグラウンドに持ち込もうとする。しかし、近藤はそれに付き合わずに立ちあがる。再びスタンドの攻防。スタンドで両者が向かい合うと、なんとも言えない緊張感が走る。これこそが”グローブ効果”だろう。どの一撃がKOにつながってもおかしくない。


打撃ではどうしても劣勢となってしまう山田は、グラウンドに活路を見出そうとするが、そこでも近藤のパンチが猛威を振るう。パスガードしサイドを奪った近藤は、躊躇無くパンチを落としていく。たちまち山田の顔面が血に染まる。いままではパンクラチオンマッチでも、パンクラスの選手同士が戦うことはなかった。道場が違うとはいえ、一緒に練習したこともある相手の顔面を殴ることに抵抗があってもおかしくない。しかし、近藤は、「対戦相手が親友であっても全く気にしない」という。普段は仲が良くとも、リングの上では別。むしろ尊敬しているからこそ、思い切り殴ることができると言いきる。

 リング上ですぐ意識を切りかえることができるのが近藤の強さだ。だからこそ、初めてのグローブマッチでも、掌底の時と同じように戦えるのかもしれない。


 試合は終盤となり、近藤の飛び膝蹴りからのパンチラッシュでついにダウンを喫する山田。しかし、ここでスリーパーを狙いにいったことが、結果として山田を逃がすことになる。山田に意地でスリーパーを耐えられ、タイムアップまで持ちこまれてしまったのだ。大差の判定で勝利したものの、一本勝ちを逃したことには悔いが残る。

 11月のタイトルマッチで敗れた近藤だが、今年からスタートする階級制のタイトルには「興味がない」という。試合後には、コロシアム2000でのVT戦を直訴した。

 数年前、近藤にはエクストリームチャレンジに出場という話があった。まだパンクラチオンマッチ自体が存在しない時代のことであり、本来なら高橋に続くノールール挑戦者になる可能性もあったのだ。結局、状況が許さずこのプランは幻と終わった。そして昨年は二度目のタイトル奪取を果たしたために、パンクラチオンマッチに出撃のチャンスを逸した。こうした経緯から近藤には、自分の対応力の限界を問われる”ノールールマッチ”への憧れがあるのかもしれない。また現状のパンクラス内部での戦いにどこかもの足りなさを覚えているという解釈もできる。

 だが不安材料は多い。たとえば今回の試合でも、試合終盤、ダウンした山田に対してスリーパーを仕掛けた事を思い起こしていただきたい。しかし、もしあそこでスリーパーではなく、山田の顔面にパンチを落としていけば、そこで試合は終わったかもしれないのだ。ノールールという戦いは、いわば限界状態に置かれた時の対応力をためす戦いである。一瞬の躊躇や判断の誤りが命取りになる。どんな局面でも考える間もなく体が反応するほどでなければ、勝利はおぼつかない。

 近藤はすでにパンクラスのタイトルを2回も奪取した選手である。団体の看板を背負った選手が、外へ出て戦うということは”チャレンジ”では済まされない。幸い今回採用された新ルールは限りなくノールールに接近した実戦的なものとなった。もし近藤が外に向かうのであれば、まずこのルールで頂点を極めてからでも遅くない。

(慈村弓太・井田英登)



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取材:慈村弓太、石渡知子  写真:横森綾

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