BoutReview Logo menu shop   Fighting Forum
Report
kick 99・11・22 全日本キックボクシング連盟 "WAVE-XIII" 後楽園ホール

第8試合 全日本キック対世界 5vs5マッチ 大将戦 67kg契約/5回戦 
全日本ウェルター級王者
魔裟斗
判定3-0
50-47
50-49
50-48
WAKO-PRO世界ウェルター級王者
“イーヴィル”エヴァル・デントン
イギリス・トロージャンジム
×

魔裟斗イギリス王者に冷静なる判定勝ち


  体戦の大将として登場した魔裟斗。
 ここまでの4戦はどの試合を取っても非常に好試合が続き、しかも結果は日本選手の全勝。それだけにメインに登場する魔裟斗が最後の最後で敗れてしまっては「全日本キックvs世界」というこの日の興行全体の後味にまで尾を引く。
 しかも魔裟斗はキック界や格闘技界の外からも注目を集める正に看板選手。非常にプレッシャーが大きいかと思われたが、リング上の魔裟斗から緊張や気負いは全く感じられない。対戦相手や周囲の状況に左右されずリング上で実力を出せる、プロ向きな性格を感じさせる非常に良い面構えである。


Round 1
  最近は左の蹴りをよく練習しているという魔裟斗だが、その練習の成果を即実戦で発揮できる能力は大したもの。瞬間的なスイッチングから左のミドル、ハイをデントンに見舞っていく。リードブローとして左の蹴りを出す場合の基本に忠実なフォームだ。勿論右の蹴りも良く出ており、それだけ攻撃の幅が多彩になっている印象。
 一方キャリア50戦を越す老獪なデントンは、このラウンドは自分からはあまり仕掛けず、魔裟斗の実力を測るような静かな立ち上がりを見せた。だが時折デントンがカウンター気味に繰り出すパンチ、特に右のストレートは、黒人選手特有のスピードと切れを併せ持った非常に危険な攻撃で、どちらかというと受けて立つ仕草を見せたこのラウンドでも、実は非常に攻撃的な選手なのでは、という気配を漂わせていた。
 しかしそうしたデントンのプレッシャーにも何ら臆することなく、先に先に仕掛けていくのは魔裟斗の方。このリズミカルな攻撃が試合全体の流れを魔裟斗の側に持ってくるのに終始役立っていたように思える。ラウンド終盤魔裟斗の蹴りをブロックしたデントンが、「よし、来い!」とばかりに何度か頷いて魔裟斗に相対したが、こうしたデントンの仕草もそれだけ魔裟斗の攻撃が有効に働いていた証と言える。


Round 2
  R1で魔裟斗の動きを見ておいてR2以降でじっくり料理、というのがデントンが試合前に考えていた作戦だったのだろうが、そうしてデントンが見ている間に既にR1の後半あたりから魔裟斗は自分のリズムを掴んでしまった。デントンが前に出ようとしても、先手先手で魔裟斗の攻撃が飛び出してくる。それも左右のミドル、ハイ、ロー、距離が詰まればパンチのコンビネーションと、非常に多彩でスピーディー。
 得てしてルックスや元ワルといったキャラクターが先行しがちな魔裟斗だが、リング上でのそのファイトを見ていれば、実は日々のトレーニングでは非常に真面目に豊富な練習量をこなしていることがハッキリ感じられる。
 特に向かい合った瞬間先に自分の方から仕掛けられるというのは、トレーニングの反復によって瞬間的なタイミングの取り方を身体が覚えているからで、しかもこうした感覚は練習をさぼったり不摂生で体調を崩したりすれば、途端に歯車が狂ってしまうものなのだ。
 そういった意味でもこの日の魔裟斗は心身共に充実していることを感じさせた。


Round 3
  このままではジリ貧のデントンがラウンド開始と同時に積極的に前に出ようとするが、それを制する魔裟斗のコンビネーションの手数がデントンの攻勢を許さない。
 総じて魔裟斗にはデントンの攻撃がよく見えていたようで、デントンの速い右ストレートが出る瞬間を前蹴りでストッピングしたり、パンチが飛んできてもしっかりしたガードの隙間から相手を見据えており、危なげなところがほとんど無い。
 一方攻撃のスピード、回転力はますます上がり、どうしてこれだけの攻撃が出来る選手が11勝4KOというKO率なのかと感じさせるほどだが、ラウンドを見ていておそらく攻撃がストレート過ぎるためではないかという気がした。

 確かに魔裟斗の攻撃は回転が速く、一発一発の攻撃もスピードと破壊力を兼ね備えている。しかし攻撃のリズムそのものは常に一定している。リズムの変化のない攻撃は、たとえスピードがあっても対戦相手は試合が進むに連れて身体が馴染んでくるものだ。
 例えば軽く緩いパンチの後にコンビネーションで重いパンチが飛んでくると、人間の身体は最初のパンチに弱いディフェンス力で対応するため一瞬筋肉が緩む。そこに重いフィニッシュブローを貰うと、ディフェンスが緩んだ分通常以上にダメージが大きくなる。
 よく「攻撃に緩急、強弱を付けろ」と言われるのは、こうした理由による。魔裟斗の攻撃には殆ど「捨て」がなく全てが全力だが、キャリアのあるデントンがその殆どをガード、ブロックしおおせているのはこうした理由もあったろう。


Round 4
  いくらカットしているとはいえ、これだけ攻撃を貰い続ければ徐々にダメージは蓄積する。特に魔裟斗のローキックによってデントンの両脚はかなり重くなっている様子が伺えるが、筋肉の質が良いのだろう、デントンは決して死に体にはならず、魔裟斗の攻撃に力強く頷きながら闘志を満面に見せて前進しようとする。それに対して次々と繰り出される魔裟斗の攻撃。
 KOを期待するムードは場内から漂ってくるが、この展開を見ているとどうやら難しいか、という気もしてきた。試合全体のリズムが固まってしまったのだ。そしてそのリズムを引っ張っているのが魔裟斗である以上、KO決着を望むなら固まったリズムをほぐす危険を冒さなければならないのも魔裟斗の方ということになる。

「パンチで打ち合えば倒せるかな、とも思ったけど、そうするとこっちも貰ってしまうリスクが大きくなるから...」

 魔裟斗のこの試合後のコメントからは、「負けちゃ何にもなりませんから」という実は繊細でクレバーなその性格の一端が垣間見える。

 リズムを崩す以外の方法で一発KOを狙うなら相手を呼び込んでカウンターを狙う戦法だろうが、少なくとも今の魔裟斗はまだカウンター・アタッカーではない。試合全体を自分の流れに染めて、その土俵の上で闘うタイプ。
 だからといって試合全体がだれたわけでは決してない。魔裟斗のテンポアップした攻撃はこのラウンドも終始引き続き、これに呼応して気合いの入った表情で受けて立つデントン、という展開は、見ていてこの試合そのものに非常に小気味良い印象を抱かせた。


Round 5
  最終ラウンドもヒートアップした両者のぶつかり合いが続く。
 魔裟斗の攻撃の回転でロープ際まで再三下がらされるデントンだが、そこで両腕をダラリと下げて上半身をクネクネと踊らせて「効いてないよ」と魔裟斗を挑発、鋭いパンチで魔裟斗の顔面を脅かすシーンすらあった。だが魔裟斗はこうしたデントンの幻惑には乗ることなく、このラウンドも自分のリズムでデントンを圧倒。何度か接近戦での肘打ちも狙っていったが、これはガードの堅いデントンに阻まれてヒットせず。後半に入ると首相撲からの膝蹴りでもデントンを押し込む場面を見せた。

 判定は50-48、50-49、50-47と問題無く魔裟斗。ボクシング式の強制振り分け採点なら間違いなく50-45のフルマークだろうが、ダメージの有無を取るキック式の採点ならガードが堅く終始効いた様子を見せなかったデントンの踏ん張りでこの採点は妥当なところ。
 ここまで敢えて魔裟斗にやや厳しい書き方をしたが、キャリア13戦の選手がWAKOの世界王者相手にワンサイド・マッチを演じたわけで、その能力の高さは疑う余地はない。むしろカウンター技術やリズムの緩急といったテクニックはこれから覚えていく段階であり、まだまだ進歩する余地を大きく残した選手であると考えると、その将来性には大きく期待できる。


 「試合毎に相手の選手がどんどん強くなってきてるのは感じますね。でもまだ対戦していて、勝てない、と思った選手というのは居ないです。僕はまだムエタイの選手とやったことがないので、来年は噂に聞くムエタイの強さっていうのを体験してみたい。特にやってみたいのは、ヂョームホード(・ギアアディサッグ)ですけど、今やったら?まだ勝てないでしょうね。でもそんなに早く頂点に立ってしまったら、その後何を目標にしたらいいのか判らなくなってしまいますから...。」

 メインの重責を果たしながら冷静に自分の課題を見つけ、長期展望まで口にする。
 魔裟斗の“実力”は意外とこんなところに現れている。


(高田 敏洋)


▲ 結果一覧
← 7. 土屋ジョー vs アーメッド・レン  2. 蔵満誠 vs 大宮司進 →

レポート:高田敏洋 カメラ:薮本直美 インタビュー:石渡知子

TOP | REPORT | NEWS | CALENDAR | REVIEW | BACKNUMBER | STAFF | SHOP | FORUM


Copyright(c) MuscleBrain's All right reserved
BoutReviewに掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はマッスルブレインズに属します。