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kick 99・11・22 全日本キックボクシング連盟 "WAVE-XIII" 後楽園ホール

第7試合 全日本キック対世界 5vs5マッチ 副将戦 スーパー・バンタム級契約/5回戦 
WKA世界ムエタイ・バンタム級王者
土屋ジョー
谷山
4R0分10秒
TKO
3R終了後戦意喪失
WPKLヨーロッパ・スーパー・バンタム級王者
アーメッド・レン
フランス/ワッピージム
×

ローで切り開いた逆転劇


 コーナー選手は先に入場することを利用したレンはただものではない。スポットライトを浴びながら、赤い薔薇一輪をくわえて入場してきた。
 御存知の通り赤い薔薇は土屋ジョーのトレードマークであり、これはあからさまなレンの挑発行為。後から入場してきた土屋にレンがこの薔薇を差し出すが、土屋は受け取りを拒否。リング中央でジャッジの注意を聞いている間も土屋は正面からレンを睨み付ける。第1ラウンドのゴング前から既に闘いはスタートしていた。
 ちょうど1年前、土屋を地獄に叩き落としたランバー・ソムデートM16と、レンは96年にフルラウンド闘い抜いている(結果は判定負け)。そういった意味でも、土屋にとっては負けられない相手だ。


Round 1
 開始後しばらくは両者探るような静かな立ち上がりだった。どちらかといえば、徐々にプレッシャーを強めながらいつもの調子で前に出ていたのは土屋の方。だが前進する土屋のポジショニングは、手足の長いレンが左のパンチをヒットさせるのにドンピシャの距離になってしまった。
 踏み込む土屋に合わせてレンの繰り出すカウンターの左フックがヒット。バランスを崩した土屋の顔面にレンの追い込みのワン・ツーがさらにヒットして、土屋このラウンド最初のダウン。
 すぐさま立ち上がってファイティング・ポーズを取った土屋からは、さほどダメージは受けていないように見えた。が、果たしてファイトが再開されるとどうにもバランスがおかしい。おそらく本人にも自覚のないまま、軽い脳震盪のダメージを引きずっていたのではないだろうか。踏み込もうとするところに先ほど同様のカウンターの左を再三に渡って貰ってしまう。
 レンはここを極め時と判断したか、非常に大振りのパンチを左右振り回して土屋をロープ際まで追い込む。反射神経が万全ならかわすなりブロックするなり出来そうな、モーションの大きいラフな攻撃だが、ダメージを残すと共に少なからず精神的に焦っている土屋はこれらの攻撃を支えきれず、レンのパンチ連打の後に出てきたコンビネーションの右ミドルを脇腹に直撃されて2度目のダウン。
 立ち上がった土屋の脚は、今度はハッキリともつれていた。更に追い打ちのレンのワン・ツーが顔面にクリーンヒットして、吹っ飛んだ土屋の身体がロープ上でバウンドする。万事休すか!と思われたが、それと同時にラウンド終了のゴングが響き、土屋は九死に一生を得た。


Round 2
 辛うじて生き延びたとはいえ、土屋が絶体絶命のピンチに立っていることは疑いない。この時点で観客の脳裏には、あのランバー戦の悪夢の再来がよぎったのではないか。
 なんとか挽回を図ろうとラウンド開始と同時に自分から前に出ていった土屋だったが、その脚さばきには1Rのダメージの余韻がハッキリと現れている。この状態で攻めようとすればR1からタイミングの合っているレンの左カウンターを貰ってしまうことは避けられない。1度、2度と左フックが顔面を捉え、ラウンド開始1分のところでこの試合3度目のダウン。
 表情に焦りを滲ませながら、ファイティング・ポーズのまま何度も首を傾げる土屋。もしここでレンが一気に極めに来ていたら試合はこのラウンドで終わってしまったかもしれない。
 だが突進力を失った土屋に対し、レンは自分の方から仕留めに来るような動きを見せなかった。レンのパンチは柔らかい上体を大きく回転させながら、その回転力をパンチに集中させて一発毎に打ち抜くような重量感のあるタイプ。出身、ルックスが似ていることもあって、ボクシングのナジーム・ハメドをちょっと連想させる。しかしハメドと違ってレンは瞬間的に飛び込んで一撃で相手の顔面を吹き飛ばすような瞬発力には恵まれていない。これが土屋には幸いしたと言えるだろう。


Round 3
 土屋サイドは、このラウンドに入って戦法を変えた。レンのパンチを警戒して両腕で顔面のガードを固め、これまでよりやや遠目の距離からローキックに絞って攻撃を出す。試合前からレンの太股が非常に細いのは気になっていたが、キャリアのある選手だけにそれなりのローキックに対する耐性は持っているのかと思われた。
 だが土屋のローによって急激に動きが鈍っていくレンを見ていると、やはりその弱点は脚にあったと考えて間違いなさそうだ。土屋もこのレンの弱点に気付き、そこからは執拗なローによる下半身の痛めつけに標的を絞る。
 レンのパンチ対土屋のロー。打ち勝ったのは土屋のほうだ。コーナーに追い込んで土屋の右のローが3つ、4つ、と立て続けにレンの太股にヒットする。


 苦し紛れに左フックを振り回し、バランスを失って倒れ込むレン。レフェリーはこれをローによるダメージと判断して、レンにダウンを宣告する。この日の全日本選手サイドに座り続ける勝利の女神が、またしても微笑んだ瞬間。
 すでにこの最初のダウンの時点で、脚へのダメージの蓄積はレンの試合への集中力を途切れさせてしまっていた。自らコーナーまで下がって、コーナーポストに背中を預けるようにして諦めの表情を浮かべる。追い込みに来た土屋がバランスを崩して倒れると、そこに蹴りを入れようとするラフな動きも見える。最後に再び土屋の右ローの連打が爆発したところで、ラウンド終了のゴングが鳴る。


Round 4
 ラウンド開始のゴング前、セコンドの肩に足を乗せて柔軟体操しやる気満々の土屋に対して、レンはゴングが鳴ってもコーナーの椅子から立ち上がろうとしない。レフェリーが座ったままのレンに対してダウン・カウントを取り、そのままカウント・アウト。この日三度目の大逆転勝利が決定した瞬間であった。

 


 
「今日はいっぱい倒れちゃったすけど、とりあえず5ラウンドまでやってけばローで絶対KO出来たんで・・・今日は勝てました! 勝てたので嬉しいです!!」

 さすがに試合直後のマイクパフォーマンスでは土屋自身興奮を隠しきれない様子。屈託のない彼本来のキャラクターに戻っていた。
 ここしばらく「強い奴とやりたいです」と語り続けていた土屋だが、実際その強い奴と当たって、あわやのピンチにも晒された。しかし嬉しい結果を残して良い形で一年を締め括れた心境を反映して、その挨拶の声は非常に大きかった。

(高田 敏洋)


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レポート:高田敏洋 カメラ:薮本直美 バックステージ:石渡知子

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