つい最近まで、韓国人キックボクシング選手といえば「かませ犬」の代名詞的存在といっても過言ではなかったが、最近はレベルアップが明白で、良質の選手が続々とやってくるようになってきた。立嶋篤史と互角に渡り合った金炳助。伊藤隆に破れはしたが重いワン・ツーであわやの場面を演出したホー・ジョエン。酒井秀信相手に体格差をものともせず華麗な足技で観客を魅了したハン・ヂョンチョル等々。
朴炳圭(=パク・ピョンキュ)もそんな好選手で、新日本ライト級王者石井宏樹と我々の期待をいい意味で裏切る大熱戦を展開した。
両者並んで立つと石井の方が一回り大きい。朴も石井と同じライト級王者のはずなのだが明らかに体格差がある。
1Rは石井のラウンドだった。彼の代名詞とも言える鋭いフック気味の左ジャブから右ローキックのコンビネーション”石井スペシャル”がヒット。さらにパンチの連打でたたみかけ、あわや1RKOの場面すら演出。これに対し朴はワンツーから左フックを返す。これはなかなか重そうに見えたが、あまりの体格差に反撃は難しそうに思えた(この認識は大きな過ちであったことをすぐに思い知らされるのだが)。
2Rにも序盤から石井のロー、ミドルが次々ヒット。フットワークも軽快でコンディションはよさそう。中盤辺りまで石井の楽勝ムードが漂っていたが、突如朴が怒濤の反撃を開始する。左フックのヒットから左右の連打が次々決まる。石井これに反撃しようとするが勢いの差は明らか。見る間に石井の動きが鈍り出す。いきなりのハイテンションな事態の急変に観客が騒然とする中、朴の左右からハイがヒット。石井押されるように前につんのめり、グローブをキャンバスにタッチ。ダウンか?と騒然となるがレフェリーはスリップと判断。客観的に見てもダウンと取られてもおかしくない微妙な判定だったが、とにかくも試合は続行。石井もなんとかパンチを繰り出すが逆に朴のパワフルな右をカウンターで浴びてしまう。いつのまにか石井鼻から出血。このラウンドはあきらかに朴がアドバンテージを得た。
あまりにも意外で一方的な展開に石井のKO負けすら覚悟したが、3R石井が突如として蘇生。スピーディなパンチの3連打からローのコンビーネーション。朴もワンツーを返すがまるでこのラウンドで決めてやるとばかりに顔色を変えた石井、パンチからローのコンビネーションを再三ヒット、左で朴のマウスピースを飛ばしてみせる。その勢いに押されそうな朴、しかしその風貌通りに気の強さを見せ、後半から体格差をものともせず左右フック連打で真っ向から打ち合いに応じてみせる。
以降接近戦から石井のコンビネーションと朴の左右フックがぶつかり合う。最終ラウンド体格差から石井がわずかに前に出てワンツースリーロー有効も、朴も一歩も引くことなく手数で対抗し決定打を許さず。最後まで止まることのない二人の打ち合いに場内も大歓声が止むことはなかった。
判定は三者とも両選手に優劣はないと判断、引き分けの裁定となったがこの熱戦に本部席も急遽ベストファイト賞として二人に賞品を送ることを決定した。
「相手のパンチにムキになりすぎた」と顔をしかめた石井だったが、これまでその技術とスマートな戦いぶりばかりがクローズアップされがちだった彼にとっても、ピンチからの脱出、それに気迫と蹴り足をとって払い倒したりと荒々しい一面をしばしば見せるなどこの試合に収穫は多かったはずだ。次回は10月興行でタイ人選手と対戦予定。さらには12月のラジャ興行が待っている。
試合前に朴を抱える韓国のプロモーターが紹介されたが、次回10月大会ではその韓国の選手が大挙してやってくる。彼らが今日の朴のような技術とパワー、そして根性を持ち合わせた選手ばかりなら、これまでタイ一辺倒だった日本のキック界の勢力も一変しかねないだろう。