6月大会で一階級下の元ラジャフェザー級王者のムァンファーレッグ・ギャットウィチャンにKO負けした鷹山真吾。絶対の自信を持つはずのパンチの打ち合いの末の敗北という衝撃の事実に、アイデンティティを失いかねないショックを受けた。それ以来タイ人に対し並々ならぬ敵意と復讐の炎を燃やす事になった彼は7月大会のマサル戦で早々復帰、ダウンを奪った末に判定勝利を収めた。この日、入場時には「泰人上等」の刺繍を施した特攻服を纏って登場、「打倒ムエタイ」の決意を知らしめていた。
対するはピニット・ソーチタラダー。昨年J-NETのリングで五十嵐ヨシユキと対戦し、トリッキーというより悪ふざけとしか思えない動きで翻弄。しかしその見かけによらない鋭いハイキックやテンカオで五十嵐を痛めつけたあげく肘で額を切り裂きTKO勝ちしている。今回も頬にピンク色の丸のペイントを施して入場、リング下でひとしきりゆらゆらとダンスを踊った後、ひらりとロープを飛び越えて入場しようとするが足が引っかけドタリと落下してみせる。早速パフォーマンスで観客の笑いを誘った。
一方の鷹山は横浜銀蠅のテーマ曲に載って白い特攻服で登場。もちろん背中には「泰人上等」の文句が踊っている。
ゴング。ワイクーでも観客の笑いを取ることに成功したピニット、鷹山のローを受けると大げさに痛がるふりをしてみせると直後に鋭いミドル。それまでのギャップに観客はどよめくが、鷹山おかまいなしに大振りのパンチで前進。彼のパンチは一見無茶苦茶なようでいて急所をとらえるツボを心得ている。タイで試合をした時にはそのパンチが現地でも評判になったと聞く。ロープに詰めた鷹山が大きな右スィングを放つとピニットの鼻先をかすめ、おちゃらけたタイ人の顔色が一瞬変わる。
ピニットはムァンファーレグと違いパンチはあまり得意な方ではない。鷹山のパンチに対しモハメド・アリばりにロープをうまく使ってかわし、左右のミドルを返していく。
序盤はガンガン前進して喧嘩ファイトをしかける鷹山と時折観客のウケ狙いの仕草を織り交ぜつつ、のらりくらりとミドルでかわすピニットのペース争いが続いた。鷹山の右フックがヒットする場面も見られたが、ピニットそのたびミドルやローで鷹山の前進を止め、連打を許さない。しかしブランクからくるスタミナ難のためか単発止まりになってしまう。
3R、ピニットがワンツーからミドルをヒットさせる。がここで、鷹山はおどけた仕草で効いていないとアピール。
こういう行動はピニットにまかせればいいのではなかったか?これまで自分のフィールドに相手を引きずり込む戦いしかしてこなかった鷹山がたとえ無意識にでも、相手のフィールドに踏み込んでしまった瞬間だ。
この直後からペースがピニットに傾き始める。
ピニットがミドルやハイでじりじりと前に出始める。鷹山はきっちりとガードしてヒットは許さない。だが、自らの攻撃が出せない。”らしくない”フットワークを使ってローを出す程度だ。リズムが狂う、というのはこういうことなのか。
4R、流れを引き戻すべく鷹山はパンチでラッシュをかける。これに対してピニットはロープまで下がりカウンターを返していく。そして危なくなると首相撲から膝蹴りで投げ捨てる。このあたりは「泰人」の老獪さだ。
ますます焦る鷹山のパンチが大振りになったところにピニットの肘がすかさず割り込む。これで鷹山の眉間を割られてしまう。が、傷は浅く、試合は続行された。
最終ラウンド。腰を振って余裕を見せるピニット。鷹山のパンチに下がりつつもローを入れていく。さらにパンチにも応じこの回は乱打戦となった。
コーナーに下がりつつも決定打は許さず、要所要所でロー、ハイをヒットさせる。ラスト30秒、鷹山のパンチをダッキングして避け、カウンターの右。前進を止めない鷹山に、さらにテンカオ、ハイキックを当てガッツポーズ。
結局判定は僅差ながらも二人のジャッジ支持を得たピニットの勝利となった。
鷹山はこれで対タイ人二連敗。前回は現役バリバリの前王者ということもあり、格の違いは否めなかったが今回の相手は半リタイアの選手にしかも得意なパンチの打ち合いを仕掛けた上で敗れてしまった。どん底まで落ちたプライドを回復する機会は訪れるだろうか?
鷹山の意地に期待したい。
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