BoutReview Logo menu shop   Fighting Forum
Report
k1 99.12.5 K-1 GP'99 決勝 東京ド−ム
第7試合 トーナメント準決勝 3分3R 
アーネスト・ホースト
(オランダ/キック)
2R 0'26"
KO(右フック)
ジェロム・レ・バンナ
(フランス/キック)
×

 


逆転!また逆転!優勝街道に魔物あり


試合写真「アーツを倒す」という公約を衝撃の逆転KOで実現し、「一体誰が止められる?」と言わんばかりの強烈な印象を東京ドームの観客に抱かせたジェロム・レ・バンナ。この試合でも入場時のその表情は自信と高揚に満ち溢れ、あるいはバンナ時代がK-1戦線に訪れるか、という気の早い期待すら抱かせるほどのオーラを感じさせた。
 これに対抗するアーネスト・ホーストの表情は、筆者の目にはどちらかというとナーバスなものに映った。過去の戦歴ではホーストとバンナは共にKOで倒し倒されの関係にある。しかし今のバンナが過去の彼とは違うということはホーストも感じていただろう。なにせホースト自身が後日「あの結末を想像していた人間は少なかっただろう」というニュアンスの発言をしているのだから。
 更にダウンがあったとはいえ、第一試合を1R1分余りで勝利しているバンナに対し、ホーストは3Rフルの消耗戦をフグと繰り広げている。余力の点でもバンナに有利と見るのが自然な状況だった。


Round 1
試合写真 ラウンド開始と同時に、全開でホーストにパンチの連打を浴びせるバンナ。ホーストはジョークかどうか判らないが「もうちょっとこちらにリスペクト(敬意を払う)してくると思ってたんだがね。」バンナは「前の試合、ピーターに勝ったっていう興奮がまだ尾を引いていたんだ。」と語る。「トーナメントっていうのは難しい。気分の切り換えが出来てなかった。それにトーナメントだからこそ出来るだけ早いラウンドで勝利したいと焦って先を急ぎすぎた面もあった。」
 それにつけても今のバンナの破壊力は凄まじい。K-1でパンチの爆発力といえば真っ先に名前の上がるのがマイク・ベルナルドだが、この日は彼の姿がリング上に無いこともあって、「パンチの暴走ハリケーン」はまさにバンナの独壇場。あのホーストが殆ど手を出せずに終始ロープを背負って両腕でガードを固めるのに一杯一杯だ。だが、結果を知っているからこそ言えることだが、VTRをよくよく見直すとホーストの右のカウンターは、バンナの攻撃にしばしばタイミングよくヒットしていることに気付く。バンナの巨躯のプレッシャーが大きすぎてその効果が見えにくかったのは確かだが、ホーストのコンピュータは、このラウンド中タイミングを掴まえるという作業に集中していたのかもしれない。

(ホーストvsバンナ:9-10、9-10、9-10)


Round 2
試合写真 「あれだけアグレッシブに最初から出てくれば、スタミナの点できつくなってくる、どこかで攻撃が鈍ってくるだろうと思っていた。」というホーストは、かなり戦略的にこのラウンドを迎えていた。「バンナには左の攻撃を出すときガードが甘くなる癖がある。以前彼と闘ったときもそこを狙ってKOしたんだ。だから、、、」あの左ローに対するカウンターは狙っていた一撃だった。
 しかしたとえ「狙っていた」といっても、相手がいつその左ローを出すかまで判るわけではない。瞬間の判断と反応スピード、やはりホーストの技術と戦略には驚異の念を抱かざるを得ない。しかもホーストは最初の右ストレートでバンナの体勢が崩れるのを見た瞬間、すかさず同じ右ストレートを再度放って完全にバンナの顎を捉えた。トレーニングされた人間の身体は単発の衝撃には瞬間的に筋肉を固めることで我慢が効くが、一度衝撃を受けて緩みかけた瞬間に第二打を受けるとそのダメージは遙かに大きくなる。二発目のパンチでバンナの膝はガクンと沈み、彼の平衡感覚はこの時から大きく崩れた。
 瞬間、ホーストのコンピュータはここを勝負所とはっきりと認識していた。バンナをロープ際に追い込み、怒濤のパンチラッシュ。最後の左右フックが次々とバンナの顔面を捉えた瞬間、両腕のガードを落としたバンナは間違いなく立ったまま失神していた。


試合写真 立ち上がろうともがき、再度崩れるように顔面からマットに沈んだバンナの反対側のコーナーで、ホーストが早くも勝利のホースト・ダンスを舞っている。その自信と気合いに満ちた表情は試合前のナーバスなホーストとは別人のそれであった。衝撃的なKO勝利に歓喜してリングに飛び込んできたヨハン・ボス会長らセコンドも一体になっての勝利の舞は続く。
 K-1においてしばしば訪れる、全身が総毛立つような感覚。大騒ぎの東京ドームの花道を引き上げていくホーストが獣のように両眼をぎらつかせて大声で吼えた。この1年間失いかけていた全てのものを、彼が再び取り戻したことを象徴するような叫びであった。

 そして残る一つ、「取り戻す」のではなく「再び手に入れる」ための闘いに、そのギラギラした瞳は向けられたのだ。

(高田 敏洋)

 

▲ 結果一覧
← 6. グレコ vs フィリポビッチ  8. レコ vs ホーフト →

取材:高田敏洋、中村直子  写真:井田英登

TOP | REPORT | NEWS | CALENDAR | REVIEW | BACKNUMBER | STAFF | SHOP | FORUM


Copyright(c) MuscleBrain's All right reserved
BoutReviewに掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はマッスルブレインズに属します。