BoutReview: 99.12.5 K-1 GP'99 決勝東京ド－ム --- 6. サム・グレコ vs フィリポビッチ

99.12.5 K-1 GP'99 決勝東京ド－ム

第6試合　トーナメント準決勝 3分3R　

サム・グレコ
（オーストラリア／空手）

2R 2'50"

KO (2ノックダウン)

ミルコ"クロコップ"
フィリポビッチ
（クロアチア／ボクシング）

○

“拳獣”暴発

　レイ・セフォーとの肉弾戦を本来のパワーと確かな技術で勝利し、勢いに乗って「今年こそ決勝へ」の意気込みの見えるサム・グレコと、見た目より遙かに攻撃的な様相を顕わにしてラフな試合展開の内に武蔵を沈めて勝ち上がってきた「K-1第２世代」の申し子、ミルコ・フィリポビッチの対戦。

　プレッシャーを掛けながら前に出ていくのはグレコの方だが、フィリポビッチのコンビネーションは一撃で相手を仕留める鋭さがあるため、グレコが警戒を怠っていないことはその両腕のガードが高くガッチリと固められていることからも見て取れる。
　フィリポビッチの攻撃がいつにもましてアグレッシブなのは、今の彼が置かれた立場とも関係しているのだろう。「警官という職業を離れるつもりはない」とは言うものの、今の彼は母国クロアチアではスターとして遇されるまでの著名人であり、ファイターとしてのトレーニングに専念することを警察からも許されるほどになっているという。そうした背負うものの大きさが、彼により一層激しい闘争心を沸き立たせる要因になっていると考えられる。
　しかし闘争心ではグレコとて誰に対しても引けを取る男ではない。フィリポビッチのパンチと蹴りを織り交ぜた激しいラッシュをガッチリとガードしきった後は、「今度は俺の番だ」とでも言うように、肩を揺すりながらズンズン前に出てフィリポビッチにプレッシャーを掛ける。「前の武蔵戦で左の肋骨にヒビが入っていたのが、この試合のグレコの攻撃で完全に折れてしまった。」というフィリポビッチ。
　しかしフィリポビッチの表情には、微塵もそのことによる痛みや躊躇は浮かばない。さすがは「ターミネーター」と言ったところか。

（グレコvsフィリポビッチ：10-10、10-10、10-9）

　白熱した打撃戦が続くかと思われたラウンド開始早々、両者の攻撃が交錯し、フィリポビッチの内股を右ローで蹴り込んだグレコが顔をしかめてリング上で右脚を引きずる。「セフォー戦で多少ダメージがあった右くるぶしを、完全にやってしまった。」グレコの凄まじい攻撃力は彼自身にとっても諸刃の剣であり、グレコはしばしばアクシデントによる故障で不本意な試合結果を導いてしまうことがある。K-1の過激なトーナメント戦はまたしても彼に冷酷な運命をもたらすことになった。
　グレコの負傷に気付いたフィリポビッチが一気にラッシュをかける。しかしグレコは痛みに表情を歪めながらも決してフィリポビッチに決定打は許さなかった。それどころか痛めた右脚でミドルを蹴り返し、自ら前に出て逆転のパンチを狙うほどの踏ん張りを見せる。
　だがクリンチやブレークの度に痛みに顔を歪ませるほどのダメージで、もはや満足に歩くこともできなくなってしまったグレコが沈むのは時間の問題だった。フィリポビッチの左ローを膝を上げてカットしながら、その衝撃に耐えることさえ出来ず崩れるように二度のダウンを喫してのTKO負け。
　こうしてまたしてもグレコのK-1制覇の夢は、彼の掌の中からこぼれ落ちていった。

　試合後のグレコはいつもの軽妙洒脱な表情を取り戻し、「いつもトーナメントではアクシデントに見舞われてしまいますね」という記者からの言葉には、「俺にどうしろってんだよぉ？」とジョークっぽい口調で問い返すシーンも。しかし重ねて「貴方にとって今日の敵はミルコ、それとも怪我ですか？」と問われて、「両方だね」と答えた口調には、今回も実力を活かしきれずに終わってしまった悔しさを滲ませた。「何とか立ち上がろうと悪戦苦闘してみたんだけどね。来年はレフェリーにゆ～っくりカウントを取る練習をしといて欲しいね。」
　一方一気にK-1の勝利街道を駆け昇り、王冠に手をかけたフィリポビッチもまた、肋骨を骨折し、ドレッシング・ルームに戻る際には僅かに脚を引きずるような様子も見え、満身創痍の身体となっていた。
　一方の自滅という形で決着したこの一戦は、考えようによっては勝者無き闘いであったのかもしれない。

（高田敏洋）
　

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取材：高田敏洋、中村直子　　写真：井田英登