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Report
k1 99.12.5 K-1 GP'99 決勝 東京ド−ム
 
第3試合 トーナメント準々決勝 3分3R 
× 武蔵
(日本/空手)
2R 1'13"
KO
(2ノックダウン)
ミルコ"クロコップ"フィリポビッチ
(クロアチア/ボクシング)

武蔵またもラフ・ファイトの辛酸を舐める


 阪で全ての日本人K-1ファイターにとっての壁と言われる佐竹越えを果たし、本戦に歩みを進めた武蔵だったが、そのファイトが後の佐竹のK-1からの独立劇を産むいわく付きの判定勝利だったことは、既に皆さん御存知の通り。闘った武蔵には何の責任もないこととはいえ、一連の経過は少なからず武蔵への評価にも影響している。事前の予想でも武蔵に対する評価はマスコミから一般のファン層まで、一様に非常に厳しいものとなっていた。
 こうした負の評価を担ってリングに上がる選手は、普段以上に「勝てば天国負ければ地獄」という両極端な運命を背負うことになる。何よりこれは96年以来久々のK-1本戦への出場。対外的な注目度という意味から見れば、この試合は武蔵にとってキャリア中最大の試金石となるべき試合だったと言えよう。

 一方フィリポビッチは、1年あまりのブランクを置いてK-1に復帰したジェロム・レ・バンナを別とすれば、今年のK-1で最も台頭してきた選手である。フィリポビッチもかつて武蔵と同じく96年のK-1トーナメントに出場したことはあったが、今の彼は印象薄かった当時の「ミルコ・タイガー」とは既に別人の域に達している。
 大阪で大物越えを果たしてドームに駒を進めたという点では武蔵と同じであるが、マサカリのような一撃ハイキックでマイク・ベルナルドを沈めたそのファイト内容から、試合後の評価は武蔵と明暗を分けた。
 だがその一方で、フィリポビッチにはプロとしての「顔」が見えにくいという欠点がある。あまりに真面目すぎてファンの感情移入を呼びにくいのだ。こうした点は「職業警官」といった彼のパーソナリティが徐々にマスコミを通じて流布することで解消されていくだろうが、今の時点で(少なくとも日本では)ファン心理を刺激するという意味でフィリポビッチは他のK-1ファイターからは後れをとっている。

 如何に印象に残る試合をするか、これは今の両者にとって共通の「プロ」としての命題なのだ。


Round 1
試合写真 ウスポーのフィリポビッチに対し、自分もサウスポーに構えた武蔵。元々武蔵は右構え、左構えのどちらでも闘える「二刀流」であるが、先日の対佐竹戦といい、最近はサウスポーに構えたときの動きが良い印象を受ける。この日も試合開始時点での武蔵の動きは悪くなかった。前になった右脚を使った速いロー、ミドルが踏み込み際のフィリポビッチに幾度かクリーン・ヒットし、試合後のフィリポビッチの談によるとこの試合のかなり早い時期にフィリポビッチは武蔵の攻撃で左肋骨にヒビが入ってしまったそうだ。

 だが、こうした内容のある打撃戦が展開されていた真っ最中、試合開始後1:30が経過したあたりで、パンチラッシュで踏み込もうとしたフィリポビッチの頭部が武蔵の右目周辺に直撃する。更にこれをきっかけにややラフに展開し始めた流れの中で、クリンチする武蔵をフィリポビッチが強引に首投げに行き、武蔵が倒れた際にバランスを崩したフィリポビッチの右膝が武蔵の右顔面に再びヒットし、武蔵はリング上で仰向けに倒れ込んでしまう。
 正直、この時筆者の心中には「またか」という思いがよぎった。バッティング、場外への転落、金的への攻撃、ラフな投げによるダメージ、、、なぜ武蔵はこれほどまでに反則による被害を被ることが多いのだろう。
 「クリンチを振りほどこうとして」出してしまったフィリポビッチの投げは、確かにK-1ルールでは反則である。しかしかつてゲーリー・グッドリッジ戦で金的攻撃を受けて倒れた武蔵に、石井館長は「これはゲームじゃない、格闘技なんだから」とインターバル後に再試合を行わせようとしたことがある。おそらくこの時に石井館長が見せた苛立ちこそ、武蔵の試合に欠けている「何か」を象徴していたのではないか。
(それを「根性」とか「精神力」といった安直な言葉で語ることはしたくない。世界最強の立ち技格闘技者達の中に入って、一つ間違えれば命も落としかねないギリギリのところで実際に闘っている人間に対して、安易に周囲がこうした言葉を投げることはあまりに不遜である。)

 武蔵はある種「天才肌」の選手である。デビュー当時90kgそこそこの体重でスピードとタイミングを武器に海外のパワーファイター達と互してきた時代、左右の構えを自在に入れ替える器用さ、相手のカウンターを捉える勘所の良さ、こうした武蔵の特性は、なかなか常人が真似しようとしても出来る種類のものではない。
 しかしそれと裏腹な脆さを武蔵が見せてしまう瞬間も、また同様に彼の負の資産として今日に至るまでしばしば観客は目にしている。これは一体何なのだろう、なぜ武蔵にはこうしたアクシデントが付きまとい、そのたびに我々は武蔵の悲痛な、あるいは憔悴した、あるいは憮然とした表情を見なければならないのだろうか...。ある種の屈折したファン心理が、武蔵に対するファンのイメージに影を落としていることは間違いあるまい。

(武蔵-フィリポビッチ:10-10、10-9、10-10)


Round 2
試合写真 蔵の攻撃そのものは、このラウンドも健在だったように見える。先手で出していく右のミドル、ローキックや、踏み込んでくるフィリポビッチにカウンターで合わせるスピーディな右膝は効果的に見えた。だが、、、

 フィリポビッチのR1のラフ・ファイトのダメージで、武蔵は右目が見えにくくなっていたという。そのためか、フィリポビッチの左の攻撃がしばしば武蔵の顔面を掠める。そして、左のアッパーからフィリポビッチ特有のガードの上から脛を落とし込んでくるような左のハイが武蔵の側頭部を捉えた。
 体勢を崩した武蔵にフィリポビッチが詰め寄り、クリンチしようとした武蔵をロープまで突き飛ばす。バランスを崩してリング上に膝を付いた武蔵の顔面にフィリポビッチの左アッパーが入った。ここでレフェリーからダウン宣告。「何であれがダウンやねん?」試合後の武蔵は憮然とした表情で語る。確かにVTRを見直せば、リングに膝を付いたのはバランスを崩したためだし、アッパーはその後で入ったもので、流れの中で出たとはいえむしろどちらかといえば反則に近い。武蔵の言うようにあれをダウンと取ったレフェリーの判断が正しかったかどうかは疑問も残る。
 ただ敢えて言えば、武蔵に周囲が感じる「線の細さ」、そのイメージがレフェリーの、武蔵の状況に対する判断にも影響していたと考えるのは穿ち過ぎだろうか。2度目のダウン宣告、一方的に打たれて両腕でガードしたままフィリポビッチに背中を向けるような恰好になってしまった武蔵に対して、すかさず割って入ったレフェリーの判断もまた、そのことの延長線で見ることが出来ないだろうか。

 


 
「取りあえず練習してきた技は、ローも入ったしボディブローも入ったし、結構向こうは動揺してたと思う。だから、自分ではいい感じな出だしだったんで、悔しいですね...。」バッティングとか反則の投げで気持ちが萎えたような部分は?「いや、それは無かったです。セコンドは『嫌がってるからああいうことするんや』って言ってたんで、ああ、じゃあ嫌がってんやな、て思ったんですけど。実際そういうことして向こうは流れを掴もうと思ったんやないですかね。」
 常に氷嚢を右目の上に当てたまま、武蔵は重い口調で敗戦の弁を語った。「敗因はどこだと思いますか?」という質問には、しばし考えたあと「...分かんないです。敗因については分かんないです。」「今後何をしたら勝てると思いますか?」「取りあえず反則を貰わないようにするってことじゃないですか。」悔しさが言わせた何気ない言葉だったのかも知れない。しかし武蔵の勝ちのポイントは、まさしくそこにあると周囲は感じている。
 内容がどうであれ、この結果は武蔵にこれからますます厳しいファンの評価を突きつけてくることになるだろう。そうした周囲の不愉快な雑音をはね除ける頑強な武蔵像を期待してやまない。

(高田 敏洋)


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