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Report
k1 99.12.5 K-1 GP'99 決勝 東京ド−ム
第2試合 トーナメント準々決勝 3分3R 
× レイ・セフォー
(ニュージーランド/キック)
判定
0-3
サム・グレコ
(オーストラリア/空手)

野獣対決? 否、超高度の技術戦


試合写真 年連続で東京ドームに歩を進め、またアグレッシブなファイティング・スピリットとノーガードを初めとするトリッキーな動きですっかりK-1の「顔」の一人となった「南海の黒豹」レイ・セフォー。しかしその知名度が上がる一方で、対アンディ・フグ戦の連敗のイメージはセフォーの評価にはかばかしくない影を落としている。特に2戦目は急所に攻撃を受けてそのダメージを圧しての闘いであったから、その試合を見ていた観客はむしろセフォーのスピリットに心打たれたのだが、勝負の世界の厳しさで、戦歴に刻み込まれた黒星は拭いようのないイメージとなってしまう。
 キックボクサーとしてのセフォーの実力に疑う余地はない。しかしヘビー級打撃格闘技としてK-1のレベルは世界的に見回しても他に類を見ないほど高いところまで到達している。この中でより一層の存在感をアピールするために、今のセフォーに最も求められているのは「大物食い」のインパクトである。

 その標的として、サム・グレコは申し分のない相手だ。
 グレコは相手を根こそぎブチ壊すような爆発力のある攻撃を身上とする、「ビースト(拳獣)」のキャッチフレーズを持つ選手である。だがその一方で、F・フィリョの一撃でKO負けを喫するなど、決して打たれ強い選手ではない。セフォーの得意とするブーメラン・フックやアッパーがグレコの顎を捉えれば、「大物食い」が実現する可能性は多分にあった。
 しかし、グレコもまた海千山千のK-1界を生き延びる間に長足の進歩を遂げた選手である。フグ戦、ベルナルド戦、アーツ戦と、ここ最近のグレコを見ていれば、そのファイト・スタイルがかつてのグレコとは別人の域に達していることは明らかだ。以前の「一発屋」的色彩は薄らぎ、おそらく自身の体質まで頭に入れた上で、試合全体を通じて戦略的な闘い方を選択する、トータル・ファイターへと変貌を遂げているのだ。それでいて一発一発の破壊力、コンビネーションの多彩さや回転力はより一層磨き上げられている。
 「負けにくく」それでいて「倒せる技術とパワーを兼ね備えた」対戦相手にとっては非常に怖い選手、それが今のグレコなのだ。

 そして今の両者には勝って得るものこそあれ、負けて失うものは少ない。対戦カードの抽選方式により、運に恵まれたのも衆目の一致するところ。今年の両者はマジで「狙って」きていた。


Round 1
試合写真 両者共に非常にコンディションの良さが伺える。特にセフォーは入場の時から笑顔でリズムに乗って身体を揺すりながらの入場。更にラウンド開始早々から得意のノーガードを見せ、昨年アンディ・フグとの闘いの際に「なぜか自分に火が付かなかった」と語ったのとは明らかにやる気が違う。
 しかし、試合展開そのものはセフォーが戦前に予想していたものとは異なるものになっていったという。「サム・グレコって選手は、アグレッシブにガンガン前に出てくるファイティング・スタイルだと思ってた。だから自分としては得意のカウンターを取るような闘い方をイメージしてたんだが、今日のグレコはこちらが一歩下がっていなそうと思ったらそこにもう一歩踏み込んで仕掛けてきたり、逆にあっちがカウンターを取ってきたりと、非常にクレバーな闘い方をしてたと思う。」

 「セフォーとは初対戦だからね。最初は様子を見るような闘い方をしてたんだ。」おそらくセフォーは、最近のグレコの試合をあまり見ていなかったのではないか。もしここ1年ほどの間のグレコの変貌を知っていれば、既に彼が単なるラッシング・ファイトの突貫選手でないことは、勘のいいセフォーには見抜けていたはずである。

 お互い当たれば一発で決まりそうな鋭い攻撃による、カウンターの奪い合い。これは野獣じみた大男の力任せの殴り合いでは断じてない。鍛え上げられた肉体が弛まぬトレーニングによって培った超ハイレベルな技術の、火の出るようなぶつかり合いである。

(セフォーvsグレコ:10-9、10-10、9-10)


Round 2
試合写真 セフォーというのは、とにかく目の良い選手だという印象がある。あのノーガードにしても、瞬間的に相手の攻撃を「見切る」能力があるから可能なことで、実際筆者は対戦相手が誰であれ、セフォーが顔面に何らかの攻撃をクリーンヒットされるシーンというのを見た記憶がない。一見クリーンヒットしたかに見える攻撃でも、セフォーはインパクトの瞬間自ら顔を振ってダメージを逸らしてしまう。(しかもセフォーはその高度なディフェンス技術をナチュラルな運動神経でやっているように見える。)グレコの左右のハイキックが2度3度とセフォーの頭部を捉えるシーンもあった。最初の左ハイに至っては、ノーガードの頭部に綺麗にヒットしているのだ。しかしそれでもセフォーはニヤリと笑って、「ここだここだ」というふうに自分の頭部をグローブで叩いてグレコを挑発してのける。

 しかしこうした目の良い選手に対して、「セフォーは下半身に弱点がある」というのがグレコ側の読みであった。米国のデンバーでパンチ技術を中心にトレーニングを積んでいるセフォーに対し、その踏み込みのパンチにローキックでカウンターを合わせる戦法が効を奏し始める。グレコのローで僅かずつだがセフォーのバランスが崩れるシーンが増えてきた。

(セフォー-グレコ:9-10、10-10、9-10)


Round 3
試合写真 セフォーのパンチから右ローに繋げるコンビネーションは破壊力、スピード共に素晴らしいが、攻撃技術と共にディフェンス技術にも長足の進歩を遂げたグレコはガッチリとガードを固める。空手時代のグレコは、何もしなくても肉体のパワーだけで相手を圧倒できるような攻撃的色彩の濃い選手であった。しかし日常の彼はジョークを飛ばして周囲を和ませるセンシティブな人物である。「単に力任せでは勝てない」と悟って以降の変身ぶりには、こうしたグレコの人間性も影響しているに違いない。

 このラウンドに入ると、攻撃面でもパンチとキックの間断無いコンビネーションという点で、グレコがセフォーを上回った。特に蹴りは左右上下と多彩に打ち分け、あれだけバリエーションがあると対戦相手はディフェンスのポイントを絞ることが出来ない。それでも動体視力の優れたセフォーは上体へのクリーンヒットを許さず、ガードの上からの攻撃に対していつものように「もっと打ってこい」と笑いながらジェスチャーを繰り返すが、しかしあのグレコの攻撃である。たとえガードの上からでも連発で貰っていればダメージの蓄積は避けようがない。まして下半身への攻撃はブロックしていても徐々に貯まってくるのは格闘技ファンにも周知のとおり。
 高地トレーニングで心肺機能を高めたとはいえ、あのマット・スケルトンを5Rフルに叩き続けたグレコとエンジン全開で正面からぶつかり続けたのは厳しかったか、ややスタミナ的に苦しくなってきている印象のセフォー。対してグレコの手数はこのラウンドに入ってもまったく減る気配がない。生来のタフネスだけではない。グレコはこの日に向けて、非常に内容の濃いトレーニングを積み重ねてきたに違いない。

 グレコのローでセフォーがバランスを崩してマットに手を突くシーンが増えてきた。「ローのダメージはこれといってなかった。グレコは膝の裏側のふくらはぎの部分を蹴ってきてたから。ただあの蹴りでバランスを崩された。ジャッジの印象を考えても、やはり今日のグレコはクレバーだったと思う。」

(セフォー-グレコ:9-10、9-10、9-10)

 

 
 ファイターは誇り高い人々である。試合で敗北した後も、彼らは決して他人に弱みを見せることはしない。この日のセフォーも「負けた気はしない。」と開口一番に述べた。
 だが、あと一歩、何が足りないのだろう。セフォーの天分とも言える闘いのセンス、トリッキーな動きでファンを沸かせるプロとしての輝き、ジム・ミューレンやサミール・ベナゾーズをアッという間に沈めたその鋭い攻撃力は充分に認めるとしても、彼がフグやグレコと競り合いを演じた末に敗北した姿からファンが感じるのは、もう一つ、何か決定的なブレイク・スルーが欲しいという印象、というのが正直なところではなかろうか。
 セフォーにはその「何か」を掴まえられるだけのセンスがきっとある、そう感じられるからこそ余計に、サム・グレコの変身に匹敵するようなもう一回り大きくなったレイ・セフォーの姿を、ファンは夢想する。
 「今年はニュージーランドからデンバーへ引っ越したりで、色々周囲には変化もあった。でもこの変化を前向きに捉えて、来年はもっと強くなって戻ってくるよ。僕はK-1選手として、まだまだ自分には伸びる余地が残されてると思ってるからね。」

(高田 敏洋)


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取材:高田敏洋、中村直子  写真:井田英登

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