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Report
 
k1 99.10.3 K-1 GP'99 開幕戦 大阪ド−ム
 
第5試合 K1 ル−ル3分5R 
サム・グレコ
3R 2'35"
判定
(3-0)
ステファン・レコ
×

ロ−ブロ−が水を差した白熱の打撃戦


 
  わゆるK-1新世代といわれる選手層の中でも、これまで最も実力を評価されてきたのがレイ・セフォーとステファン・レコである。派手な動きの多いセフォーに比べるとレコの技術は極めてオーソドックスなキック・スタイルで、そのため今一ファンにその実力が伝わりにくい部分もあるようだ。だがその力はいつでもK-1本戦に進む8人の中に名を連ねるだけのレベルを備えている。この日の対戦相手は拳獣サム・グレコだが、おそらく距離感やカウンターといったテクニック面ではレコの方がグレコを若干上回っているのではないか。一方突進力、破壊力といった攻撃面ではグレコの方が上だろう。だがグレコが前に踏み込んだ瞬間レコの得意の右ストレートがカウンターでヒットすれば、グレコはこれまでも一発のパンチで宇宙遊泳してしまうシーンを何度か見せているだけに、結果がどう出るか判らない。


round1
  初から仕掛けて倒しに行く、という作戦のグレコに対し、レコはこのラウンド前半は相手の動きを見ることに集中した。堅いガードで柔らかくステップを使いながら相手との距離感を測る、いつものレコのスタイルだ。試合が進むに連れて徐々に両者の攻撃が激しくなってくるが、さすがにその攻防は超ハイレベル。グレコが左ジャブから距離を詰めようとすれば、レコはすかさずその前脚へのローをカウンターで叩き込み、逆にレコが右ストレートを伸ばせば今度は空いた脇腹にグレコの左ミドルがクリーン・ヒットする。レコのバックハンドや後回し蹴りといったトリッキーな技にも、グレコは的確に反応してきっちりとブロック。一方レコの方もグレコのラッシュをステップワークで苦もなく捌いて、全く気後れする気配もない。
 このラウンドは有効打や攻勢点などいずれを取っても両者まったくの互角。

(グレコ-レコ:10-10、10-10、10-10)


round2
  容的にはR1後半の両者のファイトがそのまま継続されたような展開となった。若干ではあるが、前に出て先に先に攻撃を仕掛けていたグレコの攻勢がレコを上回っていた印象もあったが、ジャッジはポイントの差になるほどの明確な開きを両者の間に認めなかった。
 ところでこのポイントに関する試合後のレコのコメントが実に面白い。レコは試合がストップした時点で、ポイントは自分の方が5〜6ポイント上回っていたのではないか、というのだ。筆者はレコのインタビューの間は他の試合を観戦中であったため、直接レコのこのコメントを耳にしているわけではない。しかしもし間違いなくレコがそういう数字を口にしたとすれば、この男、とんでもないほどの自信家である。1〜2ポイントならともかく、5〜6ポイントといえば全てのラウンドに於いて相手を圧倒していた、と考えなければあり得ない数字だ。レコの主戦場がヨーロッパで、欧州式の採点法は必ずどちらかの選手にポイントを振り分けるシステムであるとはいえ、この試合、一方的にレコがポイントをゲットするほど両者の間に開きがあったと判定を下す者が果たしてどれくらい場内にいただろう。

(グレコ-レコ:10-10、10-10、10-10)


round3
  ウンド開始から約30秒。グレコが左ミドルを放ったのに合わせに行ったレコの右内股ローが、グレコの股間にクリーン・ヒット。グレコはレコの右を警戒して、この試合中常にレコの右攻撃には左ミドルを合わせる戦法をとっていたが、この時はこれが徒になった。K-1ならではの運営進行の如才なさで、アクシデントの直後にワイド・スクリーンに問題の瞬間が複数角度からスロー再生され、場内からどよめきが起こる。まさに直撃。グレコの回復を待って1:30秒のインターバルが設けられ、レコに注意1が与えられて試合が再開されたが、再開直後にグレコが見せた険しい形相からは、まだ相当ダメージの尾を引いているように見受けられた。

 ところが試合再開の1分後、左ミドルを蹴りにいったグレコの股間に右ローを合わせたレコの足先が再びヒット。まるで前回と同じシチュエーションだが、今回は足先の(空手で言う背足の)部分がグレコの股間を後から蹴り上げる形。これでグレコはリング上で悶絶。ドクターチェックの挙げ句、「一試合インターバールを設けた上で、選手のダメージが回復したらこのラウンドの続きから再開」という、空手の試合に於いてしばしば見られる裁定で、両者一旦ドレッシング・ルームまで引き上げる。
 だが結局グレコは回復どころかダメージで胃痛や手の震え、悪寒まで訴えるほどで、とても試合再開できる状態でなく、第6試合のフグ-天田戦の終了後、審判団がリング上に集結して協議の末、レコに警告1を与えてここまでの採点で勝敗を決するという苦しい判断を下すことになった。
 ここまでの両者のポイントはほぼ互角だったと思っていい。となれば勝敗を振り分けなければならない必然がある以上、ジャッジはレコへの警告を判断材料にするしかない。(本来K-1ルールでは警告までは直接ポイントの優劣に結びつかない。警告された反則を更に繰り返した際にレフェリーから「減点」の宣告を受け、それではじめてポイント差になるというのが通常の形態。)
結局レコはわざわざ負け宣告を受けるために一人でリングに引っ張り上げられた格好になったわけで、このことが人一倍プライドの高い彼の自尊心を傷付けたのではないか。

(グレコ-レコ:10-9、10-10、10-9)


 何せあのワイド・スクリーンで満員の場内がどよめいた紛う事なきローブローに対してさえ「サムは脚へのダメージを誤魔化すのにローブローを利用したんじゃないのか」という問題発言まで繰り出す始末。先の5〜6ポイント優勢発言にしてもとても冷静な判断から出た発言とは考えにくい。やはりこの試合結果はグレコの肉体同様に、レコの精神にとって苦痛に満ちたものだったのに違いない。レコの勝ちに対する執念、ハートの強さはつとに有名だ。名古屋での予選トーナメントでも初戦で左脚に激しい裂傷を負い、その後の試合では蹴りを出すたびにグルグル巻きにしたテーピングの下から血を溢れさせながら、結局優勝戦までポーカーフェースで闘い続けた男である。「このジャッジングには公式に抗議する形を取る」と息巻くレコだが、こちらはだからといってK-1撤退ということは考えていないようで、「また日本に来て、今度はもっとフェアな形で日本のファンに見て貰いたい。」と語っているから、この点は一安心。
 一方全試合が終了してから「多少落ち着いてきたよ」とインタビューブースに現れたグレコは、「ともかく東京の決勝大会に行くことが肝心だったから、まあ、ちょっとケチが付いたと思う人もいるかもしれないけど、気にしないよ。」
 意外なところで意外な形で生まれてしまったこの遺恨試合、両者いずれ何らかの形で決着を付けなければならない日が来るだろう。


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レポート:高田敏洋 カメラ:井田英登