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Report
 
k1 99.10.3 K-1 GP'99 開幕戦 大阪ド−ム
 
第3試合 K1 ル−ル3分5R 
ジェロム・レ・バンナ
1R 1'59"
KO
(右フック)
マット・スケルトン
×

出戻りバンナ、初制覇へエンジン全開


 
  ェロム・レ・バンナが帰ってきた。もう一回り大きくなった筋肉の鎧と、もう一段切れ味を増したパンチを備えて。
 ドン・キング傘下のボクシング選手となったため、約2年間K-1から離れざるを得なかったバンナだが、その間決して試合チャンスに恵まれていたわけではない。だが復帰してきた彼を見る限り、このブランクは彼の試合勘を鈍らせるどころか、バンナという優れた素材をより一層磨き上げるトレーニング期間の役割を果たしたと言えそうだ。

 対戦相手はイギリスの不沈艦と唱われるマット・スケルトンだ。圧倒的なボディ・パワーでどんどん前進し、まるで戦車が障害物を片っ端から踏み潰していくような粉砕劇を演出するラッシング・タイプの選手。福岡のK-1予選ではロイド・ヴァン・ダムに判定負けして本戦へのチケットをゲットし損ねたが、欠場選手のリザーバーとして帰ってくるというツキにも見込まれた。生半可なテクニックは全く通用しない選手だけに、復帰してくるバンナの力量を測るにはもってこいの対戦相手と思われたのだが...。


  直バンナのファイトに震撼した。
 前日計量でバンナの体重は121kgと、対戦相手のスケルトン115.5kgを更に6kg近く上回った。もちろんこの日の参加選手中最重量である。しかもその121kgの中に、無駄な脂肪の蓄積は微塵もない。紛うことなき121kgの筋肉の固まり。そしてそれは見た目のこけおどしではない、圧倒的なパワーを充満させていた。首相撲の度に、あのスケルトンが振り回されリングに尻餅を付く。敢えてもう一度言う。あのスケルトンが、パワー負けしているのだ。
 スケルトン自身はこの日の敗因をパワー負けではなく、ジャブを突いてサイドに回れ、というセコンドの指示を守れなかったからだと語っているが、対戦相手にとって怖いのはクレバーなスケルトンでなく、怒濤のように迫ってくるスケルトンであるのは間違いない。実際この日も距離を保っている時より前進して打ち合いに行った時の方が出来が良かったように見える。


  かし、スケルトンの最大の武器であるパワーで相手を上回ったバンナに危険を感じさせるようなシーンは結局一度も現れなかった。パンチ一発一発の切れ、そのコンビネーションの多彩さ、相手の攻撃に対するカウンターの的確さ、言ってみれば全ての点においてこの日のバンナはスケルトンの一枚上を行く選手という印象だった。その破壊力と切れを兼ね備えた拳が、次々とスケルトンの顔面を打ち抜く。
 あのスケルトンが、マットに大の字に横たわって10カウントを聴く。忘れてはならない、スケルトンはサム・グレコと5ラウンド・フルの消耗戦を繰り広げ、ピーター・アーツが仕留めるまでに4Rを要した(しかもその間スケルトンはダウンすることがなかった)「怪物」の異名を持つ選手なのだ。

 現在バンナのトレーナー・スタッフには、あのイベンダー・ホリフィールドのトレーナーだったドン・タナーやロバート・リーが付いているという。なるほど、あの肉体改造の成果はそれを反映したものだったか。パンチの技術にしても、(試合時間が短かったので断言はできないが)ことによると本当にヘビー級ボクシングのベルトを狙えるくらいの実力を持っているかも知れない。この日の3日後に行われた決勝大会の組み合わせ抽選会で、バンナの相手はピーター・アーツに決定した。「アーツとやりたかったので嬉しい」と語るバンナに対して、「俺と当たって喜ぶのはコイツぐらいなもんだよ」と冗談を飛ばしたアーツだったが、その後の個別インタビューで「やっかいな相手が来ちゃったな、と思ってませんか?」というプレスの質問に対し、敢えて否定しようとはしなかった。
 帝王アーツをしても強敵と認めさせる男。他のK-1ファイター達にしてみれば、エライ奴が戻ってきたものである。


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レポート:高田敏洋 カメラ:井田英登