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Report
 
k1 99.10.3 K-1 GP'99 開幕戦 大阪ド−ム
 
第1試合 K1 ル−ル3分5R 
× マイク・ベルナルド
1R 1'20"
KO
(3KO:パンチ連打)
ミルコ・クロコップ・
フィリポビッチ


“Kの魔物”再来襲!


 
  ルナルドの剛腕は、これまで幾多の衝撃的なKOシーンを生み出してきた。デビューの年に早くもアンディ・フグを粉砕したのも、帝王アーツを2度に渡って失神KOに葬ったのも、K-1参戦以来一度もマットに這いつくばったことのなかったフランシスコ・フィリョを完膚無きまでに叩きのめしたのも彼だった。言ってみればこれまでずっと、ベルナルドの拳はKのリングに巣喰う魔物を呼び出すためのもっとも優れた召還具であったのだ。
 しかし、やはり魔は魔であった。それは今回ついに、当のベルナルドの首筋に噛み付いたのだ。

 サウスポーに構えたフィリポビッチが、左ストレート、右ジャブ、そして左ハイへと繋ぐコンビネーション。それは対戦する両者を通じて、この試合で初めて見られた攻撃らしい攻撃だった。そしてそのハイキック一発で、事実上この試合は終わってしまったのだ。フィリポビッチのハイキックはピーター・アーツのハイ同様に、正面に構えた相手の横から大きく回り込んでくる非常に見えにくい蹴りだ。それは顎をガードしていたベルナルドの腕の外側、側頭部から後頭部に巻き付くようにヒットする。瞬間ベルナルドの頭部がガクンと大きく揺れ、一瞬にして平衡感覚は奪われてしまった。ロープにしがみつきながら立ち上がったものの、フィリポビッチは詰めを誤ることなくパンチ・ラッシュを畳み込んで立て続けにベルナルドをリングに這わせた。あっという間の3ノックダウン。
 こうして今大会最初の1試合目で、早くも優勝候補の一角が僅か1分20秒の間に消えていった。


  果論ではあるが、この衝撃の布石はさかのぼること1月余り、K-1 Japanでのベルナルドvsロニー・セフォー戦に見いだすことが出来る。このころからベルナルドは、「試合後半に入ると集中力を失って前半の破壊力が衰える」という歓迎できない自身への評価を払拭すべく、「相手をよく見て、5ラウンドを通じて試合を組み立てる」闘い方を意識するようになっていた。だがそれぞれ選手には個人にあったスタイルというものが存在する。筆者はこの対セフォー戦で、ベルナルドに欠けているのは戦略性というよりむしろもっと本質的な意味での「狡さ」なのではないかと感じたが、そうした計算高いスタイルがファイターの性格や人間性に由来するものであるとすれば、やはりベルナルドの持ち味はそのようなある種の姑息さなぞ根こそぎ吹き飛ばしてしまう、暴風のようなラッシュにあったということだろう。ベルナルド本人も試合後、あまりにも相手を見過ぎたのは自分の過ちであったと述べている。

 こうして今年もベルナルドのGP制覇の悲願は果たされることなく潰えていった。そしてそれと裏腹に、K-1戦略図には大きな書き換えが起こった。「多分今日の自分は、日本中で一番幸せな男だろう。」福岡の予選で期待されながら本戦への出場権を得ることに失敗し、欠場選手のリザーバーとしてギリギリのチャンスを手にしてリングに上がった男、正直これまではまだK-1地図の周辺領域に置かれていたに過ぎなかった若者が、自らの力で中央への道を切り開いたのだ。
 ミルコ・"クロコップ"・フィリポビッチの名前は、全てのK-1ファンの脳裏にしっかりと焼き付けられた。


次の試合:2.レイ・セフォーvsサミール・ベナゾーズ
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レポート:高田敏洋 カメラ:井田英登