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Report

k-1K-1 WORLD GP 2000 in 名古屋
7月30日(日)名古屋市総合体育館 レインボーホール

第9試合 トーナメント決勝 
× アーネスト・ホースト
(蘭/ボス・ジム)
1R 終了

TKO(タオル投入)
ジェロム・レ・バンナ
(仏/ボーアボエル&トサ・ジム)

「持ち越された結末」

Text By 高田 敏洋 & 井田英登

ーストvsバンナ。

この対戦カードについて、今更くどくどとした説明は不要だろう。だがこの試合は、様々な点で今年のK-1World GPトーナメント予選全体に対する問題提起を投げ掛けた1戦といえるだろう。


年の東京ドームでのホースト戦は、バンナにとって悔やんでも悔やみきれないものとなった。アーツ轟沈の勢いを駆ってR1から怒濤のように責め立てたバンナだが、それが逆にホーストのカウンターを呼び込み、手痛いKO敗北を喫した。

「相手の危険さを考えずに猪突猛進するのは危険だ、ということをあれで彼は学んだんじゃないかな。だから今日のバンナは非常に慎重だった。(ホースト)」


かし、ホーストの方もトーナメントの魔に魅入られたと言う点では変わらない。

第一試合で負った右膝の故障は、既にリングに上がるのをセコンドから反対されるような状態。それでも決勝を棄権しなかったのは、チャンピオンとしての責任感と勝負師ゆえの勝利への執着があったからであった。

「良いファイターは、その時その時の与えられたコンディションの中でベストを尽くす方法を知っているものだし、どんな状態であってもリングの上ではそれがどんな結果に繋がるかは判らない」


が、実際そのリングで「右脚を全く使わなければ、相手に故障を悟られてしまう」から、敢えて痛めた右脚で何発か蹴りを出したホーストではあったが、やはり彼の右ヒザは限界を超えていた。R1を終了した時点でホースト側のセコンドは試合放棄を決意せざるを得なかった。「どうやっても駄目だ、という状況下では、撤退することもまた勇気のある選択だと思う。(ホースト)」

「暑いんで、インタビューは手短に終わらせてくれないかな?」

ブースに入ってくるなり、優勝者バンナはあからさまに不機嫌な様子を見せた。一瞬椅子に腰掛けたが、すぐに立ち上がってその場で足踏みを始める。

「両脚に薬を塗ってて、しみるんだ。」

「(脚のダメージは誰との試合で?)全部の試合の蓄積だ」

「(自分自身のキックの破壊力のせいということは?)ああ、そうかもしれないね。」

矢継ぎ早の質問に対して、苛立ったように非常に短いコメントを返すバンナ。その風情はとてもトーナメント優勝を決めたチャンピオンのものとは思えない。


そらくその不機嫌の最大の理由は第2回戦のペタス戦で悪役の側に立たされたことによるのだろうが、そうした不機嫌の解放をすべく昇ったリベンジ・マッチのリングが、またもや不本意な形で取り上げられてしまったことも影響していたに違いない。KO勝利を求めるのは、観客だけではない。それによって、カタルシスを得るのは選手もまた同じなのだ。ましてバンナという男は、リング上で目の前にいる敵をブッ倒すことにこだわる選手である。その溜まりに溜まった火山性のパワーに目の前でフタをされたのだから、その吹き上がりはいかばかりか。

年から始まったWorld GPの予選トーナメントは、選手が2回勝ち上がった時点でドームへの切符を手にすることが出来るようになっている。そのシステムで、もっとも懸念されたのがこの点であった。

既に本戦への出場権を獲得した2人(それは必然的に実力の拮抗した、互いに危険な相手となる)が、一つ間違えば大怪我でその出場権そのものをふいにするような危険な大バトルを、果たして(たとえ優勝賞金6万ドルがあったとしても)行えるものだろうか。

うした懸念は、もちろん石井館長も考慮済みであろう。スポーツライクに徹するなら、ドーム行き二名が決まった時点で大事にそれらの選手を雛壇の上に祭り上げ、めでたしめでたしで興行を終えることも不可能ではないだろう。

だがその重要な二人を、その場で直接ぶつけてしまうという思い切りの良さがK-1の本質であり、プロデューサー石井和義という人の世界観でもある。勝負論を至上の価値に据えるK-1の世界観からすれば、そんな中途半端な大団円より、死力を尽くした頂点決定が美学の中心に据えられていなければならない。もし主力選手が試合で敗れたり、怪我を負ったとしても、そこに新たなドラマを見出し、新たな舞台を切り開いてきたからこそ今のK-1の隆盛がある。


だが、このシステムが抱える危険はあまりにも大きい。選手にとってもそうだが、移ろいやすい興行人気を維持していかねばならないプロデューサにとっても、これは大きな「博打」である。名古屋でのこの「勝負」は、良くも悪くも結論を棚上げされた形で横浜や福岡に持ち越すことになった。この二の舞いが各地で繰り返されれば、観客はその結果にシビアな視線を投げ掛けてくるだろうし、東京ドームという最終決戦の地に集うメンバーの顔ぶれが、意にそわなければ興行的にもピンチが訪れるかもしれない。

Show must go on. それでも、ショウは続く。

ホーストvsバンナというリベンジ勝負の真の結末も含め、全てのドラマの結末が待つ東京ドームへとキャラバンは進んでいくのである。



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写真:井田英登

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