BoutReview Logo menu shop   Fighting Forum
Report

k-1K-1 WORLD GP 2000 in 名古屋
7月30日(日)名古屋市総合体育館 レインボーホール

第6試合  トーナメント準決勝
アーネスト・ホースト
(蘭/ボス・ジム)
3R判定 2-0

30-29,30-28,30-30
ロイド・ヴァン・ダム
(蘭/ドージョー・チャクリキ)
×

「精密機械、重戦車を封殺」

Text By 高田 敏洋

ァン・ダムが昨年のK-1ベスト8勢のどの選手と当たっても互角の勝負を演じられる実力を備えているのは間違いない。ことによると彼の最大のウイーク・ポイントは、ツキに恵まれない点であるかもしれない。まずその登場のタイミング。もしK-1の選手層が今日のように膨れ上がる前、あと3年ほど早く登場していれば、堅いガードと重いローで相手を潰していくその正統的なスタイルで、彼はトップ・ファイターの地位を労せずして築いていたのではあるまいか。またピーター・アーツを後一歩の所まで追い込む地力の持ち主であることは認められながら、一方で一撃で相手を沈める決め技の欠落は、同時期にK-1の檜舞台に上がり始めたミルコ・フィリポビッチや、先日そのアーツを右ストレートで沈め大番狂わせを作り出したシリル・アビディらに比べて、ヴァン・ダムを地味なイメージの中に留めている印象が強い。
昨年はチャクリキvsアーツというドラマ性の中でヴァン・ダムのキャラクターは語られていたが、それはある種政治的な舞台裏に属する話題であり、ヴァン・ダムという選手個人の表情を際立たせるものではなかった。プロ・ファイター、K-1キャラクターとして今の彼に欲しいのは、観客に直接響くような彼自身のドラマである。その為に最も手近な方法は、何よりも大物選手を喰う意外性の創造だ。昨年の対アーツ戦に続き、この対ホースト戦はヴァン・ダムに訪れた2度目のビッグ・チャンスであった。


じスリナム出身の両者。そのせいで闘いにくいというようなことは?「それはないが、入場曲にスリナムの曲が2つ続いたのはちょっと面白かった。(ホースト)」
だがヴァン・ダムの方は、「ロイドがウチのジムに初めて来た頃、彼にとってホーストというのは既にヒーローのような存在だったんだ。(トム・ハーリック会長)」そういう相手と初めて対戦するに当たって、「同じ出身地だから、というのはなかったが、あのホーストと対戦する、ということはかなり意識していた。(ヴァン・ダム)」
そのせいかどうか、ヴァン・ダムの手数はいつもより少ないようにも見えた。もっとも第一試合の対富平戦でもR1のヴァン・ダムは比較的静かな立ち上がりだったから、R1は相手を見ていくといういつもの作戦であったのかもしれない。「コンディションは良かった。別に何も問題はなかった。」
対するホーストの方はヴァン・ダムの重いローを警戒して、距離感に注意を払いながら闘っている様子が伺えた。身長で10cm近くヴァン・ダムを上回り、手足の長いホーストは、やや遠間の距離から真っ直ぐジャブやストレートを伸ばして、ヴァン・ダムが得意の返しのローを放とうとすると、素早くバックステップして距離を外す。

(ホースト-ヴァン・ダム 10-10、10-10、10-10)


ァン・ダムがジリジリと前に出始めるが、Mr.パーフェクト・ホーストは要所要所で集中打を集めてヴァン・ダムを押し戻す。軽めのパンチ・コンビネーションでヴァン・ダムを両腕ガードの内側に閉じこめておいてからローキックを見舞う、というのがホーストの対ヴァン・ダム用戦法のようだ。「ロイドのガードは確かに堅いが、あの守り方だとスムーズに次の反撃に繋げていくのが難しい。」
それでもこのラウンド後半あたりでは、ヴァン・ダムのプレッシャーはもう一段強くなっていた。ホーストの右ローに、身体に染み付いた動きで瞬時に返しの右ローを放っていく。そのローのプレッシャーからか、あるいは第一試合の対バシリコス戦で痛めた右膝がこのあたりから悪化し始めたのか、ホーストは右ローの数を減らし奥脚への左ローを狙っていくようになった。

(ホースト-ヴァン・ダム 10-10、10-9、10-10)


常にタフな相手、あるいは絶対に落としてはならない試合においては、しばしばホーストは相手を倒すことより試合に勝ちきることの方を優先する。(ファンの側からすると、そのせいでホーストの試合に対する評価が別れる場合もあるのだが。)この試合でも、パンチの手数と試合をコントロールする巧さで、ホーストは確実にポイントを稼ぐようなクレバーな闘い方を見せた。「これがヨーロッパでの試合なら、ガードの上からいくらパンチを打ってもポイントにはならなかったと思う。だがこれはK-1だからね、格別ジャッジの判断について不満を言うつもりはない。(ハーリック)」
自分が手を出そうとする先手先手でホーストがパンチを出してくるため、ヴァン・ダムはガードの体制に追い込まれていつもの彼のアグレッシブなスタイルを活かすことが出来ない。「ロイドは非常に強いファイターだが、私個人にとっては彼のようなスタイルの選手というのは、決して闘いにくいタイプではないんだ。(ホースト)」

(ホースト-ヴァン・ダム 10-9、10-9、10-10)



に決定打は無かったが、ホーストのテクニックがヴァン・ダムのパワーを抑え込んだ形の試合になった。
判定に対する不満はないですか、という質問にヴァン・ダムは「延長戦までやりたかったが、相手は昨年チャンピオンのホーストだからね。ハッキリとしたポイントを奪えるような形を作り出せなければ勝てない、とは思っていた。」むしろ客席から試合を眺めていたチャクリキ同門のノブ・ハヤシの方が、「もう一丁ちゃいますかー?」と悔しそうな表情を浮かべていたくらいだ。
これで残念ながら今年もヴァン・ダムの東京ドーム進出は果たされなかった。ヴァン・ダム対アンディ・フグ、対バンナ、対フィリョなど、楽しみなカードもおそらく来年以降への持ち越しということになるだろう。ヴァン・ダムのドラマが開花するのがいつになるか、期待して待ちたい。

結果一覧に戻る
← 前の試合  / 次の試合 →

写真:井田英登

TOP | REPORT | NEWS | CALENDAR | REVIEW | BACKNUMBER | STAFF | SHOP | FORUM


Copyright(c) MuscleBrain's All right reserved
BoutReviewに掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はマッスルブレインズに属します。