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k-1K-1 WORLD GP 2000 in 名古屋
7月30日(日)名古屋市総合体育館 レインボーホール

第1試合 トーナメント一回戦 
アーネスト・ホースト
(蘭/ボス・ジム)
3R 3'20"

KO
パリス・バシリコス
(ギリシャ/カズパラス・ファイターズ)
×

「ホーストに死角無し」

Text By 高田 敏洋

年のディフェンディング・チャンピオンであるにも関わらず、一切のシード権を与えられず他選手同様一回戦からの出場を命じられたホーストは、「正直驚いた」という。しかも今回のトーナメント、客観的に見てホーストにはかなり過酷な組み合わせになっているという印象すらある。


この1回戦の相手、パリス・バシリコスにしても「警戒すべき危険な相手という認識は持っている」とホーストも警戒するように、単なる王者相手の噛ませ犬で終わるような柔わな選手では決してない。欧州&ロシア地区予選Aでは、決勝戦でシニサ・アンドリヤセビッチ(一昨年のK-1GP開幕戦に参加)を左ハイKOで片づけてこのトーナメントへの出場権を手にしているのだ。先日日本でも放映されたその予選トーナメントの戦いぶりでは、ヨーロッパ選手らしい攻防のバランスの取れた、テクニカルかつパワフルな動きをみせていたのが印象的だった。


レッシャーを掛けてジリジリと前に詰めていくのはホーストだが、バシリコスも小刻みなステップワークからスピードのあるカウンターのパンチで対抗する。ホーストのロー対バシリコスのパンチ、といった展開だが、両者の攻防はほぼ互角だ。

「ビッグ・ネームになると、相手を呑んで荒っぽい闘い方をするような選手もいるんだろうけど、ホーストには全然そういうところが無かった。決してハード・パンチャーってわけではないが、クレバーな、さすがベスト・ファイターという印象を受けた。(バシリコス)」
(ホースト-バシリコス 10-10、10-10、10-10)


ーストが慎重になるのは、彼がトーナメントの怖さを知り尽くしたベテランだからであろう。K-1決勝に常連出場するような選手がよく口にするのは「これはK-1なんだから」という言葉である。

単なるキックのワンマッチとは明らかに異なる規模とシステム、一つ取りこぼせばその年はお終い、という過酷さ。ホーストらベテラン・ファイターはこれまで8年間その辛酸を舐め尽くして今日の地位を築き上げているのだ。相手が誰であろうと、一瞬の隙も見せられない。ホーストの微塵も隙のない表情からは、彼の集中力が高く保たれていることが感じ取れた。


合展開はR1のリズムが継続するが、このラウンドで目立ってきたのがホーストの右のパンチである。「精密機械」ホーストがバシリコスのリズムを掴み始めているのか、しばしばその右ストレートや右フックがカウンター気味にバシリコスの頭部を脅かすシーンが現れる。対するバシリコスの方にもカウンターのパンチがあり、いくつか危険なパンチがホーストの頭部を掠めるシーンがあった。しかし、F.フィリョに失神KOを喫して以後のホーストは、顔面のガードがそれまでにも増して堅くなっている。
(ホースト-バシリコス 10-10、10-9、10-9)


かにホースト有利かと思われる展開だが、バシリコスにも決して目のない闘いではない。このラウンドも唐突に最後の瞬間が訪れるまでは、互いに緊張感を保った内容のある試合が続いていた。

「非常に能力の高い選手だと思う。また優れた良い選手がK-1の新たな人材として加わってきたと思うよ。(ホースト)」


ーの圧力でややコーナーに詰められるような恰好になりながら、バシリコスが左のジャブを返しにくる。その瞬間をホーストは餌食にした。身体が開いたバシリコスの、左の拳のインサイド、いわゆるクロスカウンター気味に真っ直ぐに右ストレートが一閃した。決して力に頼ったものではない、「精密機械」と呼ばれる男の技術に裏打ちされた至極の一品。一瞬で命脈を断たれたバシリコスは、何とか立ち上がったものの既に目の焦点が合っていない。角田レフェリーはその様子を見て両腕をクロスさせる。

合終了。判定までもつれ込むかと思われた展開は、王者のさすがというべき一撃によってK-1らしいハッキリとした決着をみることになった。



合後も、このギリシャから来た男は冗舌だった。

「あそこまで行ったんだから、出来れば判定までは持ち込みたかった。その点は残念だが、私の母国ギリシャはどちらかというとキックは後進国で、ホーストと言えば伝説とかヒーローといった扱いを受けるような選手なんだ。そのホーストとグラブを交えて、そして2ラウンド半の間内容のある良い試合が出来た、その事に関しては、ある程度満足はしてる。」

ヨーロッパ予選と比べても、やはり今日の本戦のレベルは高かった?

「もーちろんだよ。もちろんだ。」


しかし本人の言うとおり、バシリコスはこの試合でしっかりとその実力を示すことが出来たのではないかと思える。既に御存知のように、この後ホーストは、ロイド・ヴァン・ダムとの準決勝を経て、決勝でバンナと対戦中、右膝のダメージを訴えて試合を放棄することになった。その右膝損傷は、実は「殺人ローキック」の異名を取るヴァン・ダムに負わされたものでなく、この第一試合のバシリコス戦で痛めたものであった。

この試合の数時間後金泰泳が後輩選手への心構えとして語った、「負けても脚一本奪って帰る」というファイターの姿勢をまさに実践した恰好である。パリス・バシリコス33歳、デビュー戦としては決して若くはないが、また見てみたい、と思わせるものを持った選手である。遅れてきたこの新星が、K-1出世街道をどこまで追い上げを掛けられるかに注目しよう。

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写真:井田英登

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