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(レポ&写真) [HERO'S] 8.5 有コロ:桜庭が死闘。ミドル級は宇野残る

HERO'S "Sammy Presents HERO'S 2006 ミドル級&ライトヘビー級世界最強王者決定トーナメント 準々決勝"
2006年8月5日(土) 東京・有明コロシアム  11,900人(超満員札止め)

  レポート:井原芳徳(Lヘビー級・無差別級) 本庄功志(ミドル級)
  写真:井原芳徳  【→カード紹介記事】 【→掲示板スレッド】


[ライトヘビー級(85kg)世界最強王者決定トーナメント 準々決勝]

第11試合 1R10分・2R5分(延長R5分)
×ケスタティス・スミルノヴァス(リトアニア/リングス・リトアニア/修斗クルーザー級(91kg)欧州王者)
○桜庭和志(日本/フリー)
1R 6'41" 腕ひしぎ十字固め


 桜庭の紹介VTRでは、かつて出演したマクセルのDVD-RのCMが引用された。子供の頃にタイガーマスクに憧れて格闘技を始めたというエピソードが使われたCMで、この日の入場時で最初にかかったのもそのCMソングだった。すると舞台のHERO'Sの巨大なセットが動きだし、オレンジのタイガーマスクをかぶり、DVD-Rを持った桜庭が登場。続いていつものスピード2のテーマが流れ、桜庭が花道を歩き出す。

 谷川貞治FEG代表の話によると、試合前の桜庭の気持ちは非常に盛り上がっていたという。リング上で桜庭が立つのは青コーナー。全てありふれた演出だが、HERO'S移籍というこのタイミングで見せられると、これまでの桜庭の戦いの歴史がなぜか思い出され、感慨深い。

 だが37歳からの再出発は、感慨を吹き飛ばすようなシビアな幕開けだった。シュートボクセに度々出稽古している桜庭は、オーソドックスの構えで左手のガードを下げ、スミルノヴァスのパンチを誘う。だが右フックで飛び込むと、右ジャブをもらい後ずさり。するとかつてのサウスポーの構えに戻り、左ミドルを放つスタイルに。スミルノヴァスの右ミドルと相打ちとなり、スミルノヴァスが尻餅をつくと、桜庭はパンチで突進する。しかしガードが空いてしまい、立ち上がったスミルノヴァスの左フックをアゴにもらい、前のめりで倒れてしまう。

 大チャンスのスミルノヴァスは上からおおいかぶさり、パウンドを桜庭の顔面に連打。桜庭の頭が後方に揺れ危険な状態だ。ここで岡林章レフェリーがスミルノヴァスにタッチ。ストップではない。ロープの向こうにはみ出た桜庭の頭部をリングに戻すためのドントムーブだ。通常のHERO'Sの試合なら、KID×須藤、所×ペケーニョを例にあげるまでもなく、終了でおかしくない場面。場内が「エーッ」というどよめきに包まれる中、試合は続行する。

 パンチと鉄槌を落とし続けるスミルノヴァスに対し、桜庭は片足タックルで組み付き防御。何度かほどかれ、背後からチョークを狙われそうになるが、逆に下になると腕十字を狙おうとする。目がうつろな桜庭、本能のままの動きなのか? とはいえダメージのせいで動きに力が無い。マウントパンチを浴び、亀になる場面も。

 だが3分足らずでスミルノヴァスの動きも緩慢に。桜庭は一カ所に留まることなく動き、スタンドに戻し首相撲からの膝蹴りを放つ。スミルノヴァスのパンチで頭がのけぞる場面もあるが、桜庭はしばらく休んで力を溜めると一気にフックの連打。手打ち状態とはいえ何発か当たり、スミルノヴァスも苦しそうだ。場内が再び盛り上がり始める。

 桜庭がその攻撃パターンを繰り返すと、逆にスミルノヴァスが両手でガードして守りに入るように。ついには背中を向け、桜庭のフックの連打で鼻血を出してマットに倒れ込む。桜庭はゆっくりとサイドポジションに。ニーオンザベリーからパンチを落とし、逆サイドに回りこんで腕十字。これががっちりと極まり、スミルノヴァスはタップした。

 桜庭が勝利した瞬間、リング上には大量の紙吹雪。桜庭は両手を上げ喜んだ後、スミルノヴァスを抱き健闘を讃える。マイクを持つと、セコンドの豊永稔に耳打ちされた後、こう話し始める。「えーどうも、HERO'Sの皆さん。はじめまして桜庭です。ちょびっと、なんでここにいるのか、半分ぐらい記憶が飛んでるんですけど、これから頑張りますので、よろしくお願いします。今後ともHERO'S、よろしくお願いします」

 物語として考えれば最高だったが、HERO'Sらしくない危険な試合だった。選手の安全第一を掲げてきた前田日明HERO'Sスーパーバイザーは大会後、「桜庭を殺す気か?」と谷川氏に詰めより、一夜明け会見では「格闘技は殺し合いじゃなくてスポーツ。勝ち負けよりも安全が大事」と話した。さらに試合中に「止めろ」と叫んでも聞き入れられなかったことに不満を示し、「スーパーバイザーって何だろうな?って思った」と嘆いた。(詳細記事)。

 この日は競技面でのトラブルが相次いだ。秋山成勲×金泰泳ではミスジャッジが起こり、ライトヘビー級トーナメントのみ1R目10分という変則ルールが急遽採用されたことで混乱も生じた。スミルノヴァスは「桜庭がダウンした時点で止めるべきだった。その時桜庭とレフェリーとの戦いが始まった」と話し、変則ラウンド制についても「昨日のルールミーティングの時に初めて聞いた。1R5分のつもりで仕上げてきたのに」と不満をぶちまけた。谷川氏はストップのタイミングについて、「反対方向の解説席にいたので、遠くてはっきり見えなかった」、変則ラウンド制について「スミルノヴァス陣営には事前に説明していた。一部で言われているように桜庭の要求ではない。実験をしてみたが、階級によって時間を変えるのはいかがなものかと思った」と弁明した。

 谷川氏も前田氏も、運営のマニュアルとシステムの不備を認め、10月のトーナメント準々決勝〜決勝までに整備することが急務だという考えで一致した。レフェリーストップの基準の差、大会直前に変更が正式発表された試合時間。問題の大半は、運営の首尾一貫性の無さが発端ではないのか? 前田氏の「スーパーバイザーって何だろう?」という疑問は、「HERO'Sって何だろう?」という疑問にもつながる。芯の無いHERO'Sからは、真のヒーローは生まれない。

第10試合 1R10分・2R5分(延長R5分)
○大山峻護(日本/フリー)
×ホドリゴ・グレイシー(ブラジル/チーム・ホイス・グレイシー)
判定2-0 (平20-18/芹沢20-19/松本20-20)


 大山がテイクダウンに成功すると、時折腰を浮かしつつ、上からパンチを落とし続ける展開。時折猪木アリ状態にも。大山はヘンゾ戦やハイアン戦の「トラウマがあった。自分との戦いだった」というが、終始落ち着いた攻撃。大きなダメージを与えられなかったものの、ホドリゴにほとんどチャンスを与えず、判定勝ちをもぎ取った。

◆大山「(1回戦突破だが?)夢は繋がったかなと。もっと練習してもっと強くなります。ホドリゴは強かったです。相手は警戒していたので、上からパンチを落としていこうという作戦でした。久しぶりに心と心の攻めぎあいをしたので、大きな力になったと思います。(決勝は)桜庭選手と戦えたら最高です」

◆ホドリゴ「悔しいです。この気持ちを持ち続けてグレイシーの伝統を守っていく。下になっている状態はロープ際で思うように動けなかった。いいわけをするつもりはないのでもっといろんな動きが出来たらよかった。(判定について)不服はない。これからはトレーニングをしっかりし、1つの格闘技ではなくいろいろな事を取り入れていきたい」

第8試合 1R10分・2R5分(延長R5分)
○メルヴィン・マヌーフ(オランダ/ショータイム/ケージレイジ・ライトヘビー級(93kg)世界王者)
×クラウスレイ・グレイシー(ブラジル/クラウスレイ・グレイシー柔術)
1R 9'12" TKO (レフェリーストップ:グラウンドパンチ連打)


 マヌーフのパンチをもらううち、クラウスレイは急なオファーだったことも影響しあっさりと失速。逃げのタックルで猪木アリ状態を繰り返し、場内にブーイングが巻き起こる。1R目が10分にも関わらず、4分経過時にリングアナが誤って「残り1分」とアナウンスするアクシデントも。急なルールとカードの変更の影響が如実に現れる内容に。
 クラウスレイに消極的だとして減点1が課されても、同様の展開が続いたが、8分過ぎ、しびれを切らしたマヌーフがグラウンドにつきあいパウンドを連打し、ようやく試合を終わらせた。

◆マヌーフ「今日の試合は満足していない。急に対戦相手が変わり良いパフォーマンスが出来なかった。試合は1人の力ではなく2人の力で良いものにしていくものだ。決勝の相手は誰になるかわからないが、もっと練習して皆を沸かせる試合をしたい」

◆クラウスレイ「急なオファーだったので納得していない。試合中すぐスタミナが切れてしまった。初めの2分間ぐらいは自分の実力が出ていたかもしれない。今度はもっと早くにオファーをもらい、しっかり仕上げてリングに上がりたい」

第7試合 1R10分・2R5分(延長R5分)
○秋山成勲(日本/フリー)
×金 泰泳(日本/正道会館)
1R 2'01" 判定3-0 (平=秋山/松本=秋山/礒野=秋山)

※ワセリンの塗布で金に減点1
 
 秋山が組み付いて倒そうとするが、金はこらえる。打撃戦では金が優位と思いきや、右フックを当てるのは秋山の方。試合勘の差か。
 その後秋山が上になると、アクシデントが発生する。秋山の腕十字が一度は極まりかけるも、金はポイントをずらして防御する。その状態がしばらく続くと、芹沢健市レフェリーが極まっていると判断しストップをかけた。
 たが、金は立ち上がって極まっていないと抗議。場内からもブーイングが巻き起こる。礒野元ルールディレクターはマイクで「極まっているとレフェリーが判断した」と説明し事態を収拾した。だが大会後、金陣営から提訴を受け、ビデオ検証等を行った結果、ミスジャッジだったとの結論に達した。

 本来なら無効試合だが、トーナメントで勝者を決める必要があるため、ルール第18条「本大会規定に定められていない問題が生じた場合、プロモーターならびに審判員の合議によって、これを処理するものとする」に従い、両陣営も参加した話し合いが行われた。その結果、審判団が終了時点までの内容を判定することとなり、秋山の判定勝ちに裁定が変更。審判団は大会直後の記者会見でこの事情を説明し、謝罪している。

◆秋山「ファンからのブーイングをもらったのは仕方ない。(腕十字を)自分がやっていた時は音がなっていたんで、正しいレフェリングだったと思います。もちろん完全燃焼はしていない」

◆金「(腕十字は極まっていた?)完全に極まってなくて、15秒くらいすれば抜けられた。最初の一瞬入ったけどズラしたんで。秋山が「伸びた」って言ったらレフェリーは試合を止めた。伸びてないのに。よし、これからという時に止められたから意味わからん。自分が手を回して出来ることをアピールしたら、レフェリーはびっくりしていましたよ。なんで選手が伸びたって言ったらレフェリーは止めんのか、それに憤慨している。はっきりケリをつけるにはもう1回したい」

[ミドル級(70kg)世界最強王者決定トーナメント 準々決勝]

第6試合 5分2R(延長1R)
○宇野 薫(日本/和術慧舟會東京本部)
×ブラックマンバ(インド/フリー)
2R 3'30" チョークスリーパーホールド


 1R序盤にはマンバの右ヒザが宇野の顔面にヒット。宇野の腰が落ち、パウンドの連打を浴びて出血する場面も。宇野は終盤にバックマウンドででチャンスを作る。2Rもマンバの打撃を浴び、このまま試合終了で日本人全滅か?と思われたが、宇野がグラウンドで上になるとバックを取り速攻のスリーパーを極め、執念の逆転勝利を手にした。宇野は眼の下を5針縫ったという。

◆宇野「マンバはかなり強かったです。(傷は)最初のヒザ蹴りじゃないですかね。日本人選手が負けているということで、高谷選手がああいう形で負けてしまって、所選手にも試合前にがんばってくださいと言われたんで。夢中で試合をやりました」

第5試合 5分2R(延長1R)
×安廣一哉(日本/正道会館)
○ハニ・ヤヒーラ(ブラジル/アタイジ・ジュニア柔術)
1R 1'08" チョークスリーパーホールド


 安廣は開始早々テイクダウンを奪われ足関節を狙われるも、相手を蹴り素早く対応して回避する。しかし再びテイクダウンを奪われると、すぐサイドに回られ変形のチョークを極められた。

◆ヤヒーラ「(試合を振り返って)気持ちよかったです。相手はスタンドが強く危険な相手だったので警戒していました。どの選手も危険で皆すごいポテンシャルを持っているので、決勝に向けてピークを100に持っていきます」

◆安廣「空手の大技とか蹴りも見せられずいいところが出ず負けてしまった」

第4試合 5分2R(延長1R)
×高谷裕之(日本/チーム・ハードコア)
○J.Z. カルバン(ブラジル/アメリカン・トップチーム)
1R 0'30" KO (飛び膝蹴り)


 高谷が1,2,3,左フックとパンチで牽制。しかしその後、カルバンの飛びヒザが高谷の顔面に直撃。ダウンしたところに追い討ちのパウンドを放ったところでレフェリーは試合をストップした。谷川氏によると、高谷は眼窩底骨折の疑いがあり、手術の可能性があるという。

◆カルバン「(勝因は?)トレーニングしたことを全部出せたこと。(なぜあそこで飛びヒザ?)高谷はガードが空いていて、テイクダウンを警戒していたから。高谷のガードを落とすようにフェイクでテイクダウンではなく飛びヒザを出した。(2戦連続KOだが?)やっぱり次もKOしたい。それが自分の戦い方だから」

第3試合 5分2R(延長1R)
×所 英男(日本/リバーサルジム)
○イヴァン・メンジヴァー(カナダ/トリスタージム)
判定0-2 (平19-20/和田20-20/岡林19-20)


 1R開始早々メンジヴァーの右フックが空を切り会場はどよめく。このパンチが一発でも当たったら所はひとたまりもないだろう。
 最初に上になったのは所。さっそく足関節を狙い先制攻撃するも、メンジヴァーは冷静に回避する。グラウンドになったら所が完全に有利か?と思われたが、メンジヴァーが下からオモプラッタを繰り出しリバーサルすることに成功。寝技もなかなか出来ることを披露する。しかし所もまたすぐリバーサルし一進一退の攻防が続く。
 2Rに入るとメンジヴァーがバックを取り、容赦なくパウンドを放つ。「バックで殴られたのが効いた」と所は試合後話しており、だんだん動きが鈍くなってくるのがわかる。会場からは悲鳴ともとれる声援が飛び、この試合一番のピンチが襲う。
 しかし、ラウンド終盤にポジションを入れ替えると、一気に腕十字に移行。極まったか?と思われたがメンジヴァーが上手く体のバランスを取り、回避したところで試合終了のゴング。所は最大のチャンスを逃し判定負けを喫した。

◆所「(判定については納得している?)判定負けだと思います。負けたのは悔しい。(勝てると思った時は?)それはないです。延長できればいいなと思っていました。(スタミナは)きつかったけど、まだできました。現時点での実力は出せたと思います」

◆メンジヴァー「ちょっと疲れました。どういう風に動くか、試合をしながら考えていたので疲れました。(最後の腕十字は?)少しだけ入りました。(トーナメントでの目標は?)試合が終わったばかりなので次の事は考えられないです。明日になって次どうするか決めているので、明日考えます」

 
[スーパーファイト]

第9試合 無差別級 5分2R
○ドン・フライ(アメリカ/フリー)
×山本宜久(日本/リングス・ジャパン)
1R 4'52" チョークスリーパー


 互いにパンチとローを当てるも、決め手に欠く展開が続く。だがパンチの相打ちの場面でフライの右アッパーが山本のアゴにヒット。ダウンした山本はすぐさまチョークを極められた。バックステージでは「完敗です。そろそろ心と体がバラバラで限界かなと思っています」とコメントし、総合引退を示唆した。

第2試合 無差別級 5分2R
○セーム・シュルト(オランダ/正道会館)
×キム・ミンス(韓国/リングス・コリア)
1R 4'46" 三角絞め


 ミンスが倒してサイドポジションを取るが、その前でもらった左ストレートで鼻血を出しドクターチェックが入る。再開後、ミンスは立ち上がってアリ猪木状態からパウンドを落とす。するとシュルトは長い足を伸ばして三角絞めでミンスを捕獲。そのまま血を流したミンスの顔にパンチを叩き込むという、まるで自身のハリトーノフ戦を彷彿とさせるエグい攻めでミンスを痛めつける。最後は三角でタップを奪うと、場内は大歓声に包まれた。

第1試合 ミドル級 5分2R
○朴 光哲(日本/KILLER BEE)
×アレッシャンドリ・フランカ・ノゲイラ(ブラジル/修斗ブラジル・ドージョー)
判定3-0 (平20-19/芹沢20-19/礒野20-19)


 スタンド勝負をしたい朴と、グラウンド勝負に持ち込みたいノゲイラ。両者の思惑がくっきりと別れた試合となった。1Rはノゲイラがテイクダウンを奪い上になる時間が長かったものの、決定打に欠ける展開。2Rに入ると朴がノゲイラのタックルをことごとく切り、スタンドでプレッシャーをかける。お互い決定打に欠けるも、試合を若干有利に進めた朴が判定で勝利した。

Last Update : 08/07 23:24

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