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(レポ&写真) [HERO'S] 9.7 有コロ:決勝はKID×須藤。前田が須藤に苦言

HERO'S "Sammy Presents HERO'S 2005 ミドル級世界最強王者決定トーナメント準決勝"
2005年9月7日(水) 東京・有明コロシアム

  レポート:井原芳徳  写真:小林秀貴  【→カード紹介記事】 【→掲示板スレッド】
 

第4試合 ミドル級トーナメント・準々決勝Aブロック(1) 5分2R(延長1R)
○須藤元気(日本/ビバリーヒルズ柔術クラブ/70.0kg)
×宮田和幸(日本/フリー/69.6kg)
2R 4'45" 腕ひしぎ十字固め


意外や苦闘、須藤が逆転勝利

 1Rは宮田がレスリングの強さを発揮。上になりパウンドを落とすなど攻勢。須藤は約半年ぶりの試合ということもあり、試合勘が取り戻せていない様子。右足の負傷も相まって、ラウンド終盤には持ち前のトリッキーさも鳴りを潜める。タックルで倒されそうになった時、ロープをつかんでしまうことも。
 だが2R、宮田はスタミナロス。筋肉質の体格が、スタミナロスに影響するのかもしれない。タックルを切ることができるようになった須藤は、宮田の立ち上がり際を狙って、ホイラー戦を彷彿とさせるような膝蹴りを一撃。さらにパンチで追撃すると、グラウンドに持ち込んでバックに。最後は胴締めの足をほどいて一気に腕十字を極め、見事逆転勝利をおさめた。

◆宮田「打ち合っているうちにスタミナを消耗しました。打撃のダメージは無かったんですけど、タックルを切られるようになってしまいました。須藤選手は経験豊富なだけあり、試合運びがうまかったです」
 

第5試合 ミドル級トーナメント・準々決勝Aブロック(2) 5分2R(延長1R)
×レミギウス・モリカビュチス(リトアニア/リングス・リトアニア/67.8kg)
○高谷裕之(日本/フリー/修斗ライト級世界2位・環太平洋2位/69.8kg)
2R 4'16" TKO (レフェリーストップ:マウントパンチ)


ケンカ屋高谷、打撃戦制す

 1Rは高谷が2度マウントポジションを奪う等、寝技の攻防で優勢。2R序盤、レミーガが肘打ちの反則で減点1を喫する。後がなくなったレミーガは、パンチの打ち合いに持ち込むと、高谷も応戦。激しい打ち合いに会場は湧く。最初はレミーガの優勢だったが、左フックを皮切りに高谷が主導権。最後は苦し紛れに組み付いたレミーガをつぶして上になると、マウントから1分近くパウンドを落とし続けレフェリーストップ勝ちをおさめた。

◆レミーガ「(マウントパンチのダメージは?)全くないです。昨日は計量の後走って2kgほど落としました。スピードを上げるための作戦でしたが、もっと筋力トレーニング等のフィジカル面の鍛錬が必要なことを痛感しました」
 

第6試合 ミドル級トーナメント・準々決勝Bブロック(1) 5分2R(延長1R)
×ホイラー・グレイシー(ブラジル/グレイシー・ウマイタ/69.6kg)
○山本“KID”徳郁(日本/KILLER BEE/65.7kg)
2R 0'38" KO (右フック)


蜂の一刺し、最強一族の希望を粉砕

 組技競技出身の両者だが、1Rは大半の時間がスタンド勝負。距離を取り、単発のパンチと蹴りを当て合う。2Rも同じような流れだったが、ホイラーが不用意に右の飛び膝蹴りを放ったところで、KIDの大振りの右フックがホイラーにクリーンヒット。ホイラーは大の字に倒れ、KIDが見事KO勝ちをおさめた。

◆ホイラー「KIDのパンチはラッキーだったが、彼は瞬時に目の前のチャンスをつかんだ。彼への尊敬の念が試合前よりも大きくなった。(これまで出していなかった右ヒザを最後に放ったのが敗因では?)あなたはいいファイターになれますよ(笑)。あれが僕のミステイクだった」
 

第7試合 ミドル級トーナメント・準々決勝Bブロック(2) 5分2R(延長1R)
○宇野 薫(日本/和術慧舟會東京本部/修斗ウェルター級世界8位・環太平洋5位/69.7kg)
×所 英男(日本/STAND/67.4kg)
判定3-0 (20-18/20-19/20-19)


リングの魔術師・所、敗れるも好勝負

 開始しばらく立ち技で五分の攻防が続いたが、中盤に宇野がテイクダウンに成功。アリ猪木状態で宇野が右ローを当て続ける。所も宇野の膝をカカトで蹴ったり、足関を狙ったりと積極的に攻めるが、宇野はうまく防御。1R残り20秒には所の足関を防いで宇野がバックを取るが、所はアームロックに一瞬捕まえるなど、緊迫した攻防が繰り広げられる。
 2Rもアリ猪木状態の攻防が長く、攻めあぐねる所。鼻血を出しドクターチェックを受け、スタミナも消耗していく。しかし少しでもチャンスがあれば食らいついていくのが所の真骨頂だ。ニールキックで奇襲した直後の腕十字。スタンドで宇野に背後からしがみつかれた状態からのアームロック。途中両者への声援が場内で起こるが、声援の量では両者とも互角だ。結局はバックを取られる等、不利な状態に陥ってしまう所だが、勝負度胸の良さと技の豊富さで、最後まで観客を湧かせた。

 試合後は両者とも頭をマットにつけ礼。笑顔で互いの手を上げ、健闘を讃えあう暖かい光景が繰り広げられた。

◆ 所「アリ猪木状態が長過ぎたのが反省点。宇野さんはペースを握るのがうまかったです。(試合後話したのは?)UWFが好きなもの同士なんで、色々話しました。前田さんに教えてもらったアームロックや足関や打撃を出せたんですけど、このレベルになてくると、もっとつないでつないで技を出していかないといけませんね。(今日は同じZSTのレミーガも負けましたが?)今日は僕らの日じゃなかったということです。(入場にZSTのテーマ曲を使ったのは?)曲を作った人が病気と戦っているので、それを背負って戦いたかったです。(紹介VTRで『人生を賭ける』というような言葉があったが?)賭けられたかというと、賭けられなかったですね。また0からスタートして頑張って這い上がります」
 

第10試合 ミドル級トーナメント・準決勝Aブロック 5分2R(延長1R)
○須藤元気(日本/ビバリーヒルズ柔術クラブ/70.0kg)
×高谷裕之(日本/フリー/修斗ライト級世界2位・環太平洋2位/69.8kg)
2R 3'47" 三角絞め


前田日明の理想、須藤元気の現実

 両者とも一回戦の激闘の疲れが残っているせいもあり、1Rは立ち技での淡々とした攻防に。須藤が時折バックハンドブローを当てるが、クリーンヒットにはならない。高谷は時折パンチを当てるが、一回戦のような勢いは無い。一回戦のレミーガの左ミドルで右肘を痛めたのも影響しているようだ。2Rも同様の展開となり、なかなかどちらも決め手が無い。
 バッティングで額にはコブができ、試合前から痛めていた右足も思うように動かない状態の須藤。しかし2R中盤過ぎ、その右膝で飛び膝を高谷のボディに炸裂させるという捨て身の戦法を成功させると、左右の膝蹴りとアッパーの連打で高谷を苦しめる。さらに須藤はタックルで倒しにかかるが、その右膝で踏み込めずバランスを崩してしまう。だが同時に高谷も左のショートフックを放った際にバランスを崩すという幸運な展開に。須藤はふらつきながらも瞬時の判断で一気にバックマウントを奪取。宮田戦同様に腕十字を狙うと、高谷は腰を浮かして防御するが、須藤はすぐさま三角絞めに移行。これがガッチリと極まり、高谷からタップを奪った。

 須藤は2戦とも相手の隙をつき、流れを変えてから一気にチャンスをものにする形での一本勝ちだった。しかし前田日明HERO'Sスーパーバイザーは大会終了後の記者会見で須藤流を「フィッシンング(魚釣り)戦法」と批判。「相手のバランスが崩れるのを待つ戦法も、行き過ぎるのはいかがなものか? 100%ダメということじゃないけど、狙い過ぎるのは違う。全選手があれをやるとどうなるか?『ちょっとそれ、君、ずるいんじゃない?』って感じましたね」と話し、「元気君はもっと地力がある子なんだから、そういう戦法に頼らなくても勝てる。試合は『試し合い』と書くとおり、技を競い合う場所。決勝はトリックや小細工無しで、彼のポテンシャル全開でガンガンやりあって欲しい」と希望を述べた。さらに「海外の格闘技関係者からは『なぜ須藤の戦法にはイエローカードを出さないのか?』と聞かれる。もっと審判にもしっかりして欲しい」「グラウンドでの顔面への打撃のある試合が普通にテレビで流れているのは日本だけなんだから、もっとルールを整備して、技術があふれるものになるといいですね」と語り、HERO'Sとしての理想の格闘技像も見据えた上で、ルール面で須藤流を規制したい考えを示した。
 なお、この話を聞いた須藤は「人それぞれ捉え方があると思います。これはナポレオンから学んだ戦術です。僕は寝技が得意で、高谷君だったら立ち技が得意ですから、同じ土俵に上がらないのが戦術なんですよ」と反論した。

 確かに前田氏の発言には一理あり、目指すHERO'S像にも賛同できる。だが、この日の須藤は右膝が完治しない状態での出場。しかも一日2戦を勝ち上がらないといけない過酷な戦いだ。いわゆる「フィッシンング戦法」を頼らないと勝てない苦境に置かれていたと言えなくはないだろうか? とはいえ特に高谷戦に関しては、相手を釣るために十分「待つ」余裕がないところまで追いこまれ、「フィッシンング戦法」はそれほどうまく行っていなかったように見えた。起死回生の膝も、瞬間の判断でバックを取った動きも、小細工からはほど遠いように感じた。この日の須藤は、まるで華麗なシンクロナイズドスイミングの選手が水面下で必死に足を動かすように、トリッキーの裏で苦闘していたように筆者には見えたが、前田氏は水面下の光景をどれほど注視していたのだろうか? とはいえ、前田氏の発言は須藤の素質への期待の強さの現れであることは確か。前田氏の理想と選手達の現実がいい形で“運動体”となれば、HERO'Sはもっと巨大な渦を社会に巻き起こすかもしれない。
 

第11試合 ミドル級トーナメント・準決勝Bブロック 5分2R(延長1R)
○山本“KID”徳郁(日本/KILLER BEE/65.7kg)
×宇野 薫(日本/和術慧舟會東京本部/修斗ウェルター級世界8位・環太平洋5位/69.7kg)
2R 4'04" TKO (レフェリーストップ:右フックによる左眉尻のカット)


KIDと宇野、ルーツを辿るボクシング対決

 宇野はレスリングシューズを履き、どちらもレスリング出身。サウスポーの構えで、寝技の攻防が期待されたが、1Rは終始スタンドでのボクシングの攻防に。2R序盤にようやく宇野が上になるが、KIDはすぐにスタンドに戻す。その後もボクシングの攻防。何度もパンチが交錯する。
 だが中盤、離れ際にKIDが放った右フックが宇野の左眉尻を切り裂く。出血が多く、2分近くドクターチェックが続いた後再開したが、またも出血が激しくなったため、レフェリーが試合を止めた。
 やや不完全燃焼の決着だったが、宇野は「ああいうところでパンチを打てるのも山本選手の強さだと思います」と敗北を認めるコメント。KIDも「最後は満足じゃないけど、宇野さんと拳を交えられたので満足です」と語った。試合後は抱き合い、互いの健闘を讃えた。

 KIDと宇野。どちらも修斗のトップクラスで活躍したが、参戦時期、階級が異なったため、修斗時代は全く接点は無かった。
 だが宇野は試合後、KIDとの意外な接点について振り返る。「楽しかったです。胸を借りるつもりでいきました。僕の高校時代、山本選手は横浜の別の高校で1年生の時から凄く強くて、いつか当たると思っていて、その運命の日が今日だったんだと思います。彼も知っててくれてうれしかったです」と話した。宇野にとってこの日は、準々決勝で所とUWF、準決勝でKIDとレスリングという、修斗以前の2つのルーツを辿る戦いだったとも言えるかもしれない。
 一方のKIDも、今大会前に母校の山梨学院大で、彼にとってのルーツであるレスリングを再特訓。寝技の場面はほとんどなかったが、KIDは「レスリングっていうのは倒すだけじゃなく、倒されないっていうのもある」と語り、レスリング特訓が目立たないところで活きたという考えを説明した。実際、この日2試合とも右のフックで勝ったことは、レスリングで足腰を強化したことと無縁ではないだろう。

 決勝戦の須藤×KIDは12/31(土) Dynamite!! 大阪ドーム大会にて実施される。単純に2人の攻防も楽しみだが、2人がどういう歴史を経て、練習を積み、試合に臨むかを知っていれば、より深く楽しめるはずだ。単なる70kg以下の頂点争いを越えた、2人のヒーローの人生の大一番に注目して欲しい。
 


第2試合 ミドル級トーナメント・リザーブファイト 5分2R(延長1R)
×エルメス・フランカ(ブラジル/FIGHT.CO/修斗ウェルター級米大陸10位/69.9kg)
○朴 光哲(日本/KILLER BEE/修斗ウェルター級世界3位・環太平洋王者/70.0kg)
判定0-2 (20-20/19-20/19-20)


 朴がスタンドでパンチと膝とローを当て攻勢。フランカはある程度ブロックしていたが、もらい続けるうちに少しずつ失速していく。2R、フランカはグラウンドに持ち込むが、朴はパスガードを許さず、蹴飛ばして脱出に成功。もう一度下になる場面があったがその時も攻めさせず、スタンドでパンチを何発も当て攻勢を維持し、判定勝利をもぎ取った。
 朴は「フランカはビデオで見ても強いと思わなかったし、試合もその通りだった」と話し、今後の試合について「環太平洋王座の防衛戦もやらないといけないし、あとMAXにも出たいですね」と語った。
 

第9試合 スーパーファイト 契約体重なし 5分2R(延長1R)
○サム・グレコ(オーストラリア/チーム・グレコ/105.9kg)
×大山峻護(日本/フリー/92.0kg)
1R 2'37" KO (膝蹴り)


 グレコが左右のローでプレッシャーをかけ、パンチの連打で大山を苦しめる。大山は打撃をもらいながらも組み付くとテイクダウン。だがグレコの守りは堅く、ブレイクがかかる。再開後はグレコのパンチの連打で大山はじわじわと失速。最後は顔面への膝蹴りで大山をマットに沈めた。体格差があったとはいえ、スタンドでプレッシャーをかけ寝技を凌ぎきるミルコスタイルをグレコがかなり習得していることが感じられた一戦だった。
 

第8試合 スーパーファイト -77kg契約 5分2R(延長1R)
○菊地 昭(日本/KILLER BEE/修斗ミドル級世界王者/77.0kg)
×國奥麒樹真(日本/フリー/76.7kg)
3R 判定3-0

2R 判定0-1

 開始早々、菊地がタックルでテイクダウンを奪いあっさりマウントに。その後も腕十字等で再三チャンスを作るが、國奥はギリギリのところで防御し、上になるとコツコツと鉄槌を落としダメージを与える。チャンスの多い菊地がやや優位にも見えたが、2R終了間際に國奥の右アッパーが炸裂。これが幸いし延長に突入する。だが菊地はスタンドで左右のフックを当て、終盤にはテイクダウンに成功しバックを奪取。國奥にチャンスを与えず、最後は文句無しの判定勝利をもぎ取った。
 試合後の菊地は、「チャンスはあったけど、かなり研究されてましたね」と苦戦を振り返った。パンクラス新旧王者に連勝したことについて聞かれると、「因縁はもう決着がつきました。これからはUFCとかの世界の選手とやりたいです」と話していた。
 

第3試合 スーパーファイト 契約体重なし 5分2R(延長1R)
○中尾芳広(日本/フリー/102.3kg)
×ファイ・ファラモエ(ニュージーランド/極真会館・一撃アカデミー/133.9kg)
1R 2'35" 腕ひしぎ十字固め


 開始早々、中尾がタックルでテイクダウンに成功。あっさりとサイドを奪いパンチを落とすが、ファラモエが平然とした表情で受けきる。最後は中尾がマウントを奪い腕十字。それでも我慢したファラモエの腕をアームロックで絞り上げ、最後はレフェリーが試合を止めた。
 

第1試合 オープニングファイト -65kg契約 5分2R(延長1R)
○山本 篤(KILLER BEE/65.0kg)
×戸井田カツヤ(和術慧舟會トイカツ道場/修斗環太平洋ライト級4位/64.9kg)
判定3-0 (20-19/20-19/20-19)


 1Rはトイカツが下からの三角、腕十字などで先に積極的に攻め、後半は山本がバックを奪ったり、ギロチンを狙ったりと巻き返す内容。2Rは山本が右フックや左ボディを確実に当て、トイカツの体力を奪う。中腰のトイカツの顔面に反則の膝を放ってしまったが、ダメージはそれほどなく、口頭注意に留まる。その後は山本がテイクダウンに成功し、バックを奪う等主導権。トイカツは後半バテ気味。大会直前に試合が決まったことも、体力消耗に影響していたようにも見えた。
 ちなみに、試合は客入れ時間の4:45頃に突然のスタート。内容が良かっただけに、主催者側はもう少し多くの人に見てもらえる時間に試合を実施して、65kgクラスの彼らの認知度アップに貢献して欲しかった。
 なお、この日KILLER BEE勢は5戦5勝という好成績を残している。
 

Last Update : 09/12 21:59

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