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(レポ&写真) [PRIDE GP 2回戦] 6.20 埼玉:番狂わせ無く最終決戦へ

ドリームステージエンターテインメント "PRIDE GRANDPRIX 2004 2nd ROUND"
2004年6月20日(日) 埼玉・さいたまスーパーアリーナ  観衆:43,711人(超満員札止め)

  レポート:井田英登  写真:井原芳徳  【→大会前のカード紹介記事】  【→掲示板スレッド】

第7試合 PRIDE GP 2回戦 1R10分/2,3R5分
○エメリヤーエンコ・ヒョードル(ロシア/レッドデビル)
×ケビン・ランデルマン(アメリカ/ハンマーハウス)
1R 1'33" アームロック


 ミルコを沈めPRIDEでの低迷イメージを払拭したランデルマンだが、元はといえばメジャー中のメジャーであるUFCのヘビー級王者。見方を変えればUFCとPRIDE、東西の格闘技メジャーの王者決戦ということにもなる。この大一番に、日本好きを任じて止まないランデルマンは新撰組の羽織りに鉢巻きでの入場。対するヒョードルはいつも通り飾り気無く、赤いTシャツに青ジャージ。ただ腰の銀のベルトが「帝王」の呼び名を否が応にも主張している。

 ゴングと同時に軽快なステップで距離を詰めたのはランデルマン。ハイスパートタイプのランデルマンにすれば、短期決戦で勝負を決めなければ勝利の目は薄い。ヒョードルはじわじわと摺り足でプレッシャーをかけて押し戻す。その見えない圧力を断ち切るように、ランデルマンは瞬間低く身を沈め、そのままミルコを仕留めた必殺の左ロングフックをいきなり繰り出していく。反射的に迎撃の右ショートを振ったヒョードルだが、ランデルマンの狙いは胴タックル。そのまま一気にコーナーへ押し込み、釣り上げてグラウンドへ。

 下になった帝王はがっしりカンヌキに捉えて、パウンドの隙を与えない。さらに瞬間のターンで、カメになって立ち上がろうとする。アンコ型の体躯からは想像もつかないスピードだ。
 だがランデルマンもアマレスの猛者。ヒョードルの立ち上がりざま、バックを奪って腰を落とす。踏ん張ったヒョードルだが、ランデルマンは大きな弧を描いてスープレックスを仕掛ける。いわゆる“バックドロップ”だが、落とす瞬間にひねりを加えて、頭が突き刺さるように落とす殺人技だ。ぞっとするような角度でヒョードルの頭頂部がマットに叩き付けられるが、柔道家でもあるヒョードルは、寸前に右手をマットに叩き付けて肩からの受け身でダメージを殺す。

 すかさず上四方に組み敷いて頭への膝蹴りを狙うランデルマンだが、ヒョードルは危険な投げのダメージも感じさせることなく、エビ(足を使って体をスライドさせる)を使ってランデルマンの押さえ込みをすり抜け、あっさり上下を入れ替えてしまう。ボディに抱きついてヒョードルの動きを封じたいランデルマン。しかし、サイドポジションからコツコツパンチを振りおろすヒョードルの攻めに、たまらず腕のクラッチを解いてしまう。すかさずその左腕をとったヒョードルは、あっさりアームロックを極める。一声唸り声をあげたランデルマンは成すすべもなくタップ。
 終わってみれば圧倒的な力量差を見せつけてのヒョードルの勝利。この男の底無しの強さを、ランデルマンの容赦ない攻めが逆に浮き彫りにしたと言えよう。

◆ヒョードル「(バックドロップのダメージは?)そんなになかったが、ちょっとしたミスがあって、ああいう風にされてしまった。(交通事故の影響は?)ケガはなかった。車が壊れてしまい残念だった。怖くはなかったが、試合ができなくなるのではと心配だった。(決勝戦は誰と対戦したい?)相手は選ばない。誰とでもやる。(なぜそんなに冷静に闘えるのか?)私はいつも穏やかで落ち着いているから、そう見えるのかもね」

◆ランデルマン「ヒョードルがバックドロップで3、4秒気を失ったと後で聞いたが、試合中は顔が見えなくて気付かなかった。今、世界中で戦争や悲しい出来事が起こっているけど、皆さんもお互いにハグをすれば、少しはこの世の中も良くなると思う。特に今日は父の日だからね(※ランデルマンの父は6月2日に亡くなっている)。最後に一つ言わせてくれ。この2人のチームメイト(マーク・コールマンとウェス・シムズ)は僕の生涯の友だ。これからも共に歩んでいく。僕にはネイティブアメリカンとアフリカの血が流れているが、今は日本の血も混ざっていると思う。アリガトゴザイマシタ」
 

第6試合 PRIDE GP 2回戦 1R10分/2,3R5分
○アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ(ブラジル/ブラジリアン・トップチーム)
×ヒース・ヒーリング(アメリカ/ゴールデン・グローリー)
2R 0'30" スピニングチョーク


 奇しくもGP二回戦では3年前の王者決定戦のリマッチが実現した。前回の対決では、ノゲイラが繰り出す変幻自在の関節技を耐えに耐え抜いたヒーリングの充実ぶりが名勝負を生んだ。だが当時破竹の勢いで頂点を目指していたヒーリングに、今やその勢いは感じられない。ノゲイラとの僅差での凌ぎあいに敗れた後、トップ陣に食い込めないまま、いつしか中堅に納まってしまった感がある。一方、王座を獲得したノゲイラは、ヒョードルには敗れたものの、常にトップ集団をキープ。三年の間に両者の間に生まれたこの大きな隔たりを、どれだけこの一戦で縮めるかがヒーリング側のテーマと言える。

 ローからの試合の組み立てがベースのヒーリングだが、このところボクシング技術の強化に余念が無いノゲイラは、巧妙にそのカウンターにパンチを合わせて来る。スタンドで勝負を付けたいヒーリングにすれば、ダメージは大きくないにしろ、このノゲイラの動きに手を焼いてペースを握ることができない。
 一方、ノゲイラは胴タックルで最初のテイクダウンを奪うと、サイドポジションや上四方からのアームロック、下からのオモプラッタと容赦ないサブミッション地獄でヒーリングを攻め立てる。3年前同様、極めきられる前になんとか仕掛けを外すヒーリングの粘りは健在だったが、ノゲイラの攻めにはむしろ「ここで取れないなら、次」といった余裕すら感じられる。
 現に、ノゲイラの仕掛けを外して上のポジションを奪い返したヒーリングがパウンドを狙っても、数発のパンチを繰り出す間に、すぐ下からの関節が襲いかかってくる。オモプラッタの腕を抜いて立とうとした途端、グラウンド状態のままタックルで押し倒されマウントポジション。素早く腕十字、その仕掛けを外しても、既にその足は三角狙いで肩に絡み付いている。
 なんとか立ち上がってアリ猪木状態になっても、手足を取られるのが怖さに攻めが滞るヒーリングにはブレイクが宣告されてしまう。まさに八方塞がりの状態が続く。1R終了前後にもなると、スコア的にはともかく、明らかにペースはノゲイラに傾いていた。

 2Rに入っても打開点が見えないヒーリングに対し、逆にノゲイラはスタンドでも生き生きとした動きを見せる。ワンツーを先行させ、ローのカウンターに右フックをヒットさせていく。ロープに詰められたヒーリングは、反動を利用して自ら胴タックルに行ってしまう。本来グラウンドの技量に差が明白な相手には、決していい戦略とは言えない。むしろ手詰まりのあまり反射的に動いてしまったという印象の中途半端な動きだった。
 そんな心理の隙をノゲイラが見逃すわけもなく、フロントネックロックに受け止め、そのまま体を裏返して巻き込んだ腕ごと首を締め上げる。開幕戦の横井戦でもフィニッシュとなったスピニングチョークである。3年前の対決では見せられなかった新必殺技に、ヒーリングはタップするしかなかった。
 両者の成長の、残酷なまでの格差が浮き彫りとなった一戦と言えるだろう。

◆ノゲイラ「スピニングチョークは弟のホジェリオと一日30回、毎日のように練習している技だ。決勝トーナメントでは誰とでも戦うが、チャンスがあれば小川と戦いたい。彼はテレビで『PRIDEはアマチュアの戦い』と言っていたが、私はプロのファイターなので、プロの戦いを見せてあげたいと思う。」

※ヒーリングはノーコメント
 

第4試合 PRIDE GP 2回戦 1R10分/2,3R5分
○小川直也(日本/ハッスル)※4点膝蹴り受諾
×ジャイアント・シルバ(ブラジル/フリー)
1R 3'29" KO (マウントパンチ)


 バルセロナ出場アスリート、バスケ選手vs柔道家という奇妙な因縁のついたカード。ジャイアント・シウバはヘンゾの道場での柔道修行も行ったというが、所詮は付け焼き刃。実質小川の勝ちっぷりのみが注目される試合といえよう。客席は開幕戦のハッスル効果もあってか、小川応援シートの黄色いハッスルグローブを付けた観客の姿が目立つ。

 試合開始の握手を拒んだ小川に対し、シルバがにやりと笑う“らしい”オープニング。いきなり右ストレートをヒットさせた小川は、そのまま組みついて払い腰でテイクダウン。ヘッドロックに捕らえられた頭を抜くと、そのままサイドポジションをキープする。あっさりマウントポジションを奪取した小川だが、アームロックが極まりきらない。ポジションをハーフに戻しパウンド。シウバの巨体を扱い切れていない印象がある。再度アームロックを狙って手首を取る小川だが、これも極まらず。

 もうこうなるとサブミッションでは勝負はつかないと見たか、小川はマウントからのパウンドに移行。もがくシウバの顎を狙ってパンチ連打。横向きのになった顎に何発も打ち込まれ、シウバは手の甲でマットを二回タップ。
 小川の絶対使命だった唯一の日本人選手決勝ラウンド進出を果たし、興行は次回に繋がった形だ。試合後、小川は前回同様ハッスルアピールを繰り広げた。

◆小川(リング上でのアピール)「すいません。今マイクをもらいましたので喋らしてもらいますが、よろしいでしょうか? デカくてびっくりしました。それが感想でございます。それと今日は応援ありがとうございました。皆さんの応援が俺の気持ちの弱い所を前に出してくれます。
 ここまでが挨拶ですが、ほんのちょっとお時間いただけるでしょうか。イヤな方は少し耳をふさいでおいていただければ幸いです。藤井くんちょっと…(藤井軍鶏侍をリングに呼び込む。藤井はハッスルTシャツを広げる)。

 何度もやってみなさん耳にタコができたかと思いますが…。決して優勝とか大それた事は全く考えておりません。1分でも多くハッスルがアピールできればと思い、Tシャツにもプリントしてきました。『高田モンスター軍の逆襲』とありますが、これはミスプリで『ハッスル軍の大進撃』です。これからもハッスルをコツコツとひろげていこうと思います。やってもいいですか? 3、2、1、ハッスルハッスル。これからも後半戦があります。みんなハッスルして見ようぜ!」

◆小川(バックステージ)「(決勝ラウンドは難しくなるが?)いやいや、闘いは常に難しいからね。それをどうやって面白くするかだから。これまでたまたまうまくいってるけど、次のラウンドにどうするかなんて考えてない。
(ハッスルが流行語になるかもしれない?)流行語大賞とかね、そういうちっちゃなことではなく、みんながハッスルして楽しめればいい。プロレスというのは元々世間との関連があるので、そういう風に広がっていけばいいのかなと思います。
(高田本部長は小川を優勝候補に挙げているが?)別に。高田“総統”の言葉だったら面白いけど、高田本部長じゃ別に何も思わない。」

※シルバはノーコメント
 

第3試合 PRIDE GP 2回戦 1R10分/2,3R5分
×セーム・シュルト(オランダ/ゴールデン・グローリー)
○セルゲイ・ハリトーノフ(ロシア/ロシアン・トップチーム)※4点膝蹴り受諾
1R 9'19" TKO (レフェリーストップ:マウントパンチ)


 ハリトーノフは空挺隊バラシュート部隊の青ベレーをかぶっての入場。セコンドにはミーシャ、パコージン。試合はハリトーノフが体格差をどれだけ克服できるかが一つの焦点だろう。
 シュルトは予想通り打撃で出て来たが、ハリトーノフは胴タックルで身長差を潰しにかかる。フロントチョークに捉えて引き込んだシュルトだが、サイド、マウントと瞬く間に支配的ポジションを奪ってみせるハリトーノフ。やはり両者のグラウンドでの力量にはかなりの差が見える。
 しかし、逆にシュルトには圧倒的肉体の強さがある。ブリッジでハリトーノフをあっさりひっくり返してしまう。ブレイクでスタンドに戻るが、シュルトがパンチで出て来るとこれをかわしてタックル。クロスガードになったシュルトに、ハリトーノフは構わずパンチを落として行く。シュルトの足のガードがきれると、そのまま腰を上げてストレートを振りおろす。シュルトの長いボディがこの姿勢では逆にハリトーノフにとってチャンスになるわけだ。

 再度ロープ際でマウントを奪ったハリトーノフは、先ほどのリバーサルの轍を踏むまいと、ニーインザベリーの要領で肩口に膝を利かせることでシュルトを巧みに押さえ込み、鉄槌パンチを落として行く。遊びのない的確なパンチの連打で、みるみるシュルトの右目周辺がカットされ顔面が赤く染まる。現役軍人らしいシビアな攻めにレフェリーストップが掛けられて試合終了。

 地味だが着実で怖さを感じさせる試合内容で、ハリトーノフが二回戦突破。榊原信行DSE社長はロシア人選手同士の決勝は避けたい意向で、小川×ノゲイラが期待される現状、準決勝でのヒョードルとの元同門対決の可能性が一気に高まった。

◆ハリトーノフ「決勝の相手は誰でもいい。ヒョードル?ノーコメントだ」
※シュルトは病院に向かったためノーコメント


第5試合 ワンマッチ 1R10分/2,3R5分
○吉田秀彦(日本/吉田道場)※4点膝蹴り受諾
×マーク・ハント(ニュージーランド/リバプール・キックボクシングジム)
1R 5'25" 腕ひしぎ十字固め


 ミルコ、レコに続く第3のK-1トップファイターのPRIDE流出。サモアンらしい腰の強さが発揮できれば、打撃には既に定評があるハントのこと。ただ総合用グローブの薄さは、打撃のスペシャリストにとっては同時に拳の保護も薄いということでもあり、K-1同様のKO劇が見られるとは言い切れない。
 一方、GP参戦を回避した吉田は、これが2004年初戦。オリンピックイヤーの今年、同じ元メダリスト柔道家・小川がGPで活躍。つい一つ前の試合でも圧倒的な内容で会場を沸せただけに、このままこのリングの主役を奪われてはならじというライバル意識もあったのではないだろうか。

 序盤から距離をキープしつつ軽くジャンプするようなステップで、ハントの周りを回る吉田。打撃戦になる前に勝負をという意識の現れだろう。一転して素早い片足タックルで飛び込むが、意外にもハントは吉田のタックルの勢いに逆らわず、逆に上のポジションを取るというクレバーな動きを見せる。実際、柔術とレスリングに専属のコーチを付けた他、リングスに参戦していた同じオーストラリア在住のクリストファー・ヘイズマンとの練習もこなし、準備万端での参戦であったと言う事がこの辺の動きからも伺える。

 吉田はパウンドの隙を与えない、いつもの緊迫感漂う試合ぶりで、すかさず下からの腕十字を狙っていく。だが、ここでもハントの対応力が覗く。腕を伸ばさせず耐え、自ら横に回って角度かえてこの仕掛けを外し、逆に膝で吉田の顔面を押さえ込む拷問技に出る。

 中々ペースを握れない吉田だが、組み敷かれながら掴んだハントの手を離さない。上になったハントの体勢が崩れると、ハントの右手を足でフックしたまま下から足首を取ってアンクルホールドを試みる。このあたり既に柔道の領域を外れた総合のグラウンドムーブ。“柔道時代の遺産”だけではない、吉田の技術習得の貪欲さが垣間見えた攻めだった。しかしこの攻撃はハントが逆足で腕を蹴って抵抗したために極まらない。アンクルを諦めて腰を浮かせた吉田は、そのままハントの首をとってフロントネックロック状態に。膠着しようが相手の持ち味が死のうが、とにかくハントにゲームメイクをさせないという、吉田の徹底した“アマチュアイズム”だ。

 ブレイクでスタンドに戻っても、もうシウバ戦の時のように打撃に付合う余裕は見せない。ハントの左フックに乗じてタックル。ハントが膝で迎撃すると、離れて再度タックル。これを潰されて自分から下になる吉田。すかさずパンチ落とすハント。既にグラウンドパンチにもためらいが無いのがわかる。さらに横たわった吉田の左肩を部分を膝で潰す喧嘩殺法を仕掛けるハント。対する吉田も下から頭ははさみ三角を狙う。事前の予想を覆す技術のせめぎあいが展開する。鉄槌風に上からパンチ入れるハント。これが崩れて吉田の仕掛けは腕十字に。地力で跳ね返そうとするハントの抵抗に裏返されて、四つんばいになりながら吉田は再度腕十字にトライ。

 この時の吉田の攻撃は非情だった。膝で挟み込んだハントの腕関節を倒れ込む瞬間に横に捻っているのだ。たまらず腕が伸びきる前にタップしたハント。しかし、吉田はおそらくハントの膝での押さえ込みで左肩を負傷したらしく、しばらく苦痛に顔をゆがめて立ち上がれない状態だった。

 試合後、吉田は観戦に訪れた友人のミュージシャンGacktにマイクで呼び掛けるなど天性の陽性キャラを発揮したが、試合内容は喧嘩技には喧嘩技をという、修羅場での吉田の精神的強さを感じたフィニッシュだった。

◆ハント「難しい試合になることはわかっていた。吉田は思ったよりも強かった。僕のグラウンドが劣っていたから負けたんだ。(この先はどうする?)しばらくリングから遠ざかっていて、そして今日が始めての総合格闘技の試合でした。今日こういう結果だったのでどうなるかわかりません。」

※吉田は左肩負傷により病院へ直行。DSE広報を通じ「年末と来年のミドル級GPに向けて頑張る」といった内容のコメントを発表している。
 
 
第2試合 ワンマッチ 1R10分/2,3R5分
○クイントン・“ランペイジ”・ジャクソン(アメリカ/チーム・オーヤマ)
×ヒカルド・アローナ(ブラジル/ブラジリアン・トップチーム)
1R 7'32" KO (パワーボム)

 ヴァンダレイ・シウバのミドル級王座挑戦者決定戦に位置付けられたこの一戦。切れのいいローで前に出るアローナ。負けじと同じくローを打ち返すランペイジに胴タックルを仕掛ける。だがコーナーでの揉み合いで上を制したのはランペイジ。アローナは下からの十字で切り返しにかかる。
 ランペイジは付合わずアリ猪木状態へ。とにかく関節技に引きずり込みたいアローナと、打撃で勝負したいランペイジのペース争いが続く。アローナがタックルに行けばボディへの膝で迎撃し、引き込まれるとインサイドガードから強烈なパンチを落とすランペイジ。下からの三角を狙うアローナだが、ランペイジが頭を抜くと今度はカカト蹴りがランペイジの頭頂を襲う。思わぬ攻撃に頭を押さえて唸るランペイジ。アローナはこれに乗じて下から粘っこく関節技を狙う。パウンダーのランペイジが先手を制されて、攻め手を封じられた印象が強い。
 この時点でゲームの主導権を握っていたのはアローナだったと言えるだろう。なおもアローナは下のポジションからの腕十字へ。これを抜くと今度は足を肩に掛けての三角と攻めダルマ状態。
 だが、ランペイジには佐竹雅昭を頭蓋骨陥没で引退に追い込んだ必殺の怪力バスター(パワーボム)がある。極めに入ったアローナをそのまま抱え上げ、一気にマットに叩き付ける。マットに伸びた状態のアローナの顔面に更にパンチが落とされ、レフェリーが試合をストップさせた。

 見事な逆転勝利の構図だが、バスター着地時にランペイジの頭突きがアローナの鼻あたりに直撃しているのは明白。この頭突きが勝敗を分けたとなれば、ノーコンテスト相当のアクシデントだが、現場でのBTT陣営からの抗議はなかったようだ。PRIDE側も特にこの事実に触れてはおらず、かつての桜庭×ニーノ戦(PRIDE.25)同様、偶然のバッティングとしておとがめ無しになる公算が高い。
 榊原信行DSE社長は「ジャクソンは次にタイトルに挑戦するのにふさわしい、見事な戦いだった」と評価。8月に計画されているシウバ×近藤でシウバが勝てば、10月にジャクソン×シウバを実現させる意向を示している。

◆ジャクソン「とにかく早くあの試合を終わらせて、次のシウバとの対戦に向けて準備をしたかった。今度は借りを返すときが来るわけだから。シウバとの試合の1時間くらい前に刺客を送り込んで痛めつけてもらって、それで2試合目としてオレと闘うようにすればいい。チャック・リデルでも送り込んでやっつけてもらおうかな(笑)」

◆アローナ「(パワーボムのダメージは?)ない。叩き付けられた時には意識がなく、目覚めたら目の前にレフェリーの足があった。」
 

第1試合 ワンマッチ 1R10分/2,3R5分
○桜庭和志(日本/高田道場)
×ニーノ・“エルビス”・シェンブリ(ブラジル/シュートボクセ・アカデミー)
判定3-0


 昨年3月のPRIDE.25の再戦。この試合ではニーノによる偶発的ヘッドバットもあり、屈辱のKO葬となってしまった桜庭。今回のスペシャルマッチは、PRIDE躍進の立て役者である桜庭の、たっての希望で組まれたリベンジマッチである。一方、受けて立つ立場のニーノは、打撃技術の向上を目的に、4ヶ月前にグレイシーバッハ(N.Y.のヘンゾ道場)を離れ、シュートボクセへ移籍している。今回は体重も4キロアップ。桜庭との完全決着で、PRIDEミドル級戦線定着を果たしたいところだろう。

 事実、前回桜庭の打撃に一方的に押されまくったニーノだが、今回はパンチ勝負ではほぼ互角、逆に自分から連打で攻め込んでチャンスを作る局面も見られた。対する桜庭は、序盤こそローを中心にニーノの突進を殺すいつものスタイルをみせていたが、今一つ動きに精彩を欠く。
 というのも試合前から桜庭の両膝の故障が深刻であり、ほとんどスパーリングをこなさないまま実戦に望むという最悪の状態だったからだ。また、引き込みを多用するニーノとの膠着戦を嫌って、桜庭はアリ猪木状態になることが多かったのだが、この時に寝そべったニーノが桜庭の膝を執拗に蹴り続けたため、桜庭の膝の爆弾が破裂。これがまた不調に拍車をかけた。

 ニーノの柔軟な体を活かして片足を肩口まで引き上げるガードが功を奏し、桜庭はこれといった責めを見せる事ができずに試合を終わった。試合終盤2度見せたジャンピングフットスタンプも、膠着戦で退屈した観客への罪滅ぼしという以上の意味が感じられなかった。
 結局、アグレッシブさでわずかに勝った桜庭が判定勝ちを拾った形だったが、マストシステムでなければドロー間違い無しの内容。桜庭は前回のニーノ戦の“悪夢”を払拭できなかった。

◆桜庭「一本取りたかったが、夢から覚めたばかりなので動きが悪かった。判定勝ちは勝ちだとは思わないので、できれば一本取りたかった。(ニーノはもう一回闘いたいと言っていたが?)機会があれば、ハイ。(8月の大会では誰と闘いたい?)祖父母のお墓参りにしばらく行ってないので、できれば8月15日は墓参りに行きたい。」

◆ニーノ「桜庭は前と変わらなかったが、僕は打撃が進化した。今後もシュートボクセで練習を続ける。これで桜庭とは1勝1敗。なるべく早く再戦したい。私は本来は78kgで、体重上げるのは大変だ。今回は86kgに上げたが、そこまで上げるのには努力が必要だった。(判定に不満は?)PRIDEでは下になることはあまり有利じゃないから妥当だろう」

Last Update : 06/21

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