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[File 0011] 山本優弥&石川直生「夏の終わり、秋への扉」

(2005年8月24日(水) IKUSA GP 記者会見後の単独取材 および 9月9日(金) 東京・青砥の青春塾での公開練習の共同インタビューの内容を編集)


■山本優弥の意識改革

−−まずは山本優弥選手、9.16 全日本キック後楽園大会の阿部裕幸戦への意気込みを聞かせて下さい。

優弥「6月から3ヶ月ぶりの試合で、普通の選手ならそんなに長くない期間なんでしょうけど、自分としてはとても空いている気がするんで。6月の試合は全然だったんで、今度はパッとする試合をして、お客さんを湧かせたいです」

−−阿部選手のことはビデオを見て研究はしたんですか?

優弥「3年位前の試合のビデオは見たんですけど、古いんで、それから伸びているとは思います。でも、そんなに特別に考えていることはないですね」

−−6月のK-1広島大会の試合は、右肩を脱臼するアクシデントから生涯初のKO負けを喫してしまいました。練習はどれ位で再開できたのですか?

優弥「3週間は固めて安静と言われてたんで、それからは少しずつ動いて。そしてこっち出てきて、青春塾とかAJジムとかいろんなところでお世話になって」

−−以前からこちらの石川選手とは仲が良くて、広島から本格的に東京に拠点を移したのをきっかけに、石川選手の所属する青春塾でも一緒に練習をするようになったんですよね。広島と東京の練習はどう違いますか?

優弥「広島ですとある程度自分一人でやったりするんですけど、こっちだと相手がたくさんいるんで。青春塾の竹島(伊佐夫)代表もミットを持ってくれてますし、環境が整ってますね。周りからのサポートが増えて、凄く勉強になったことが多くて。久しぶりに自分が成長できたという実感があるので、なんか、いい動きができそうな気がしています」

−−具体的な技というより、動き全体が良くなったという感じでしょうか?

優弥「意識の高さが変わりましたね。以前は自分の持っているパーツでうまく勝とうとか、こいつは倒せないけどこうやれば勝てるとか。そういうことじゃなく、自分が成長することが大切だという事を、一緒に練習している石川選手に学んだんで。格闘技始めてから、あんまりそういう気がしたことがなかったんですけど、自分が伸びてる気がしてます。いつも石川選手が『この試合は絶対勝てる』とか言うんですよ。なんでそんなに自信があんのかな?と思ってたんですけど、一緒に練習してたら、そういう自信がつく理由が少し分かりました」

−−今回の試合に勝利して、K-1再上陸につなげたいという思いが強いでしょうか?

優弥「あんまり先の事を考えるとうまくいかないんで。本当に格好付けて言うわけじゃないですけど、目の前で決まった試合を一個一個クリアして。頭で考えたらダメなんで。何も考えずに行った方がうまく行ってることが多いんで。深く考えたら顔が引きつって体が動かなくなるんで、リラックスしとこうかな、と思います」

−−阿部戦、K-1を意識するんじゃなく、通常通りの練習成果が1試合1試合出るのが理想だと。

優弥「いままでは試合のために自分の体が動くように調整する程度だったんですけど、こっち出てきていろいろ目標ができて、強くなろうという気持ちも出てきたんで。すべて試合を通過点にして、どんどん強くなって行きたいという考え方に変わりましたね。向上心が出てきました」

■未完の大器・山本優弥への驚き

−−なにか東京に出てきて、物凄くプリミティブなところで意識に変化が出てきたような感じですね。一緒に練習していて石川選手もそれを感じますか?

石川「1ヶ月前から優弥と練習して、山本優弥というキックボクサーが、こんなに未完成だったということに凄く驚いたんですね。それは精神的な部分もそうですが、スタイルが出来上がっていないにも関わらず、これだけ世界で活躍している選手たちと渡り合っているという部分にびっくりして。僕の方が5年位長く生きている分、いろんな人生の経験もしてるから、練習の心構えとか、凄く優弥が吸収しつつあるんですね。優弥は二十歳ぐらいで物凄く引き出しの多い選手になっちゃったんで、技術を伸ばす前に、引き出しの中で、自分の頭の良さを利用して勝ってたんだけど、その底力が今回の1ヶ月で伸びた気がするんですよ。これまで倒しきれない試合とか多かったから、今回は今までの優弥とちょっと違うと思いますね。何で倒すかわかんないけど…」

優弥「あんまり言わんでええ(笑)」

石川「ホントに未完成で。この若さがうらやましいぐらいですね」

−−優弥選手が東京に出て来る以前というのは、ほどんど練習した事がなかったんですか?

石川「そうですね。東京来たときにたまに青春塾で軽くスパーリングやって、お互い『やるねえ』『いやあ、アンタこそ』みたいな会話してたんで。あんま練習の話とかしてなかったね」

優弥「一緒に練習してて、体格も動きも全然違うんで、練習中に教えてもらう事は無いんですけど、自分に石川選手みたいな動きができたら、みたいな部分はたくさんあるんで。口には出さなくても、吸収することはたくさんありますね」

石川「朝練の時、弱音ばっかり吐くんですよ。『サボろうやあ。イヤだあ』って(笑)。でもそういう時は無視して僕が引っ張るんですよ。そうすると絶対ついてくるんです。走っててもむしろ僕より速いし。ハートが滅茶苦茶強いんですね」

優弥「一緒にやるまでは、自分ホントに何にもできない男だと思ってたんですよ。でも案外頑張ったらついて行けるし、才能があると言われたら、二人とも単純な人間なんで(笑)、そうか!って思って凄くやる気になって」

石川「逆に僕にとっても自信になったんです。僕はずっと優弥の試合を見てて、優弥のファンで、年下だとか関係なく、こういう選手と一緒に練習して、あ、この子と同じぐらい、時にはこの子以上の内容の練習ができることがわかったんで、自分の自信になりましたね。今回二人とも楽しいんですよ」


■石川直生・ビッグマウスの理由

−−石川選手の方は、9.19 IKUSA GPに向けてどういう意気込みでしょう?

石川「今、一回戦のビデオを見て研究してるんですけど、ビデオを見れば見る程、石川対山本真弘の決勝は動かない、物凄く確率が高いと実感しています。決勝はどっちが勝つかという野暮なことはいちいち言わないので、…見ていて下さい」

−−準決勝のKAWASAKI戦はそんなに特別対策を立てなくても勝てるような感じにも聞こえるんですが。

石川「いや、いっぱい対策は立ててるんです。というよりも、いろいろ自分の持っている引き出しの、こことここを開けば簡単に潰せるというのがわかってるんで。天狗になってるとかじゃなく、僕が第三者のような見方をして、問題がない試合ですね。一回戦のTURBΦ戦もそうでしたけど」

−−試合前のビッグマウスで逆にプレッシャーは感じないですか?

石川「無いですよ。僕はプロレスファンなんで、自分がそういうことができるようになったことで喜びを感じていますね。TURBΦ戦の時も周りからいいリアクションも帰ってきて。ホントに第三者的に冷静に分析して勝てると思って言ったことだったから」

−−トレーニング面での充実も、その自信のベースになっていると思うんですが、IKUSA GPの前から、格闘クリニックで体質改善のプロジェクトが始まってますね。

石川「血液検査を元に食事を改善したら体調が凄く良くなって。でも今僕は青春塾の竹島会長とやっているんで、それを全くいじることなく。例えばこの技をもっとこう活かしたいと思った時に、フィジカル面でこの筋肉を鍛えた方がいいとか、週に1回、必ず格闘クリニックで課題を作ってもらって、1週間後にその課題をクリアしてたら、また次のステップに進むという感じでやってるんですよ。1週間竹島会長との練習の中でその課題をクリアしてって。新しいことは全く何もやってなくって、元々持っているフィジカルを伸ばすという方法なので。僕は昔はいろんな人にいろんなことを言われて、戸惑ったこともあるんですけど、今は一つの道がしっかりあって、それを色んな人がバックアップしてくれてる感じですね」

−−あと、全日本キックの中で凄く揉まれていることも最近の強さの要因かと思います。

石川「(山本)元気にせよ、前田(尚紀)にせよ、伝説的なレコードを作ってるじゃないですか。そんな上2人がいるのに、その下の2人が他所の団体でコケてたら話になんないんで。元気の7月の試合にしたって、負けちゃったけど、ああいう試合を5Rやった人間ってのは、凄く強くなるから。負けたとはいえ得たものは凄く多いと思うから、悔しいですよね」

−−決勝は山本真弘選手との全日本対決になると予想されていますが、いろんな団体の選手の出るトーナメントですから、逆に、普段戦えないような選手と戦いたいという気持ちは無いですか?

石川「あ、これは色んな所でも言ってるんですけど、一回戦の前日計量の時に、シュートボクシングの及川選手が物凄くデカく見えたんですね。僕が前、全日本での試合の時、僕の試合の次が白鳥忍だったんですけど、試合前集中してたら、ゾワッとしたんですね。パッと目を開けたら白鳥忍だったんですよ。それと同じ位の闘気が及川選手にはあったんで。例えば高谷(裕之)選手も異質な感じがするじゃないですか。そういう強い人のオーラが及川選手からは出てて。でもそれも喰うと思いますけどね、山本真弘は。山本真弘と決勝をやる確率が高いことに変わりはないですね」



 

 なお、この取材後、全日本キックの宮田充興行部長は、石川か真弘がIKUSA GPで優勝した場合、その選手が「山本元気の持つ全日本フェザー級王座挑戦者になる可能性が高い」との考えを示した。「前田君もここのところいい勝ち方をしている」「もちろん勝ち方にもよる」という補足はあったが、各団体・フリーの強豪が揃ったトーナメントで頂点に立つことができたなら、十分元気に挑戦する資格はあるという考え方だ。山本優弥の試合も、本人は特別意識していないが、K-1側が優弥を10/12代々木大会の出場候補選手に上げていることから、K-1の前哨戦という見方もできる。
 この二人が夏の最後の戦いを乗り越え、どういう秋への扉を開くのか? 今からとても楽しみだ。(写真&文:井原芳徳)

Last Update : 09/16 02:57

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