99.4.25 K-1 REVENGE '99 横浜アリ−ナ

　一方かつてのMr.Revenge、復讐の積み重ねの中から今日の地位を築きあげた感のあるアンディ・フグ。かつての脆さを背負った悲運の鉄人のイメージはすっかり影を潜め、今やK-1の頂点に君臨する実力者の一人として自他共に認める存在である。とうとう彼がRevengeを受けて立つ側に立場を変えた。新たなK-1時代の幕開けを象徴する一戦である。

　体格的にはイーブン、お互い積極的に手数を出すタイプだから手の合う両者である。この試合でもお互い挨拶代わりの右ローを放った後、殆ど間断なくパンチ、キックの交錯が続く。セフォーが一旦ガードを解いた体勢から、得意の不意打ちのタイミングでフグにパンチから左ローのコンビネーションを打ち込むが、負けん気の固まりフグはこれにすかさず右フックで応戦。攻め込んだ筈のセフォーを一気にロープ際まで後退させて雨霰とパンチのラッシュを浴びせる。ガードを固めていたセフォーにダメージは無かったが、この攻防でラウンド全体のリズムをフグが掴み、セフォーはどちらかといえばプレッシャーを受ける側に回らされた。試合の流れを掴むことが巧みなセフォー相手に、現在の自信に満ちあふれたフグならばこそ可能なことである。

（フグ-セフォーで10-10、10-10、10-9）

　両腕で顔面をガードしたフグの顎に下からセフォーの得意技、左右のアッパーが迫る。一方フグの方はこれまた得意技の左アウトローでセフォーの脚を痛めつける。この左ローをセフォーはかなり嫌がっている感じがした。

（フグ-セフォーで10-10、10-10、10-10）

　フグのパンチラッシュでセフォーはガードを固めてロープ際まで追い込まれる。フグのパンチは破壊力も凄いが、畳み込むような回転のスピードは対戦相手にしてみれば突風に襲われるような感じだろう。しかしセフォーはこのラッシュをがっちりガードし、「よーし、来い来い」とばかりに挑発的に頷いてみせる。

（フグ-セフォーで10-10、10-9、10-10）

　この後セフォーは再び左のアウトローを受けて遂にダウンを喫する。「それまでにもかなりダメージは蓄積していた」と語るフグの言葉通り、最初の金的へのヒットにしてもセフォーが嫌がって不用意に腰を引いて蹴りを流そうとしたために股間に足先がヒットする角度になってしまったとも言える。だが果たしてあのアクシデントのダメージがなかったら、セフォーのこのダウンはあったかどうか。試合後にローキックのダメージを聞かれ、セフォーは「脚は大丈夫だが、Ｒ４の途中で足首を捻ってしまった」と答えている。「Ｒ４のどこで捻ったかまでは判らない」とのことだが、いずれにせよあのローブローの一撃でセフォーの命運は尽きてしまった。
　結局この後セフォーはフグのラッシュでしゃがみ込むような２回のダウンを喫したが、ラウンド終了までフグを手招きで挑発し続け、自分の方からもパンチを出し続けた。

（フグ-セフォーで10-7、10-7、10-7）

　結果はＲ４終了TKO。だが試合後に会場を占めた拍手は、リング上で勝利のパフォーマンスをするフグよりも寧ろリングを後にするセフォーに向けられていた。格闘技の試合でああいうスピリットを示す選手に心を動かされない者は居ない。結果は不運な敗戦に終わったものの、セフォーはこの試合で観衆の気持ちをがっちりと掴んだ。「フグと自分の差？無いよ。彼は素晴らしい選手だが、俺は自分だって素晴らしい選手だと思ってる。今のトレーニングを続けて、いつか必ず彼に勝つさ。」

　一方今回は今までとは逆の立場で、結果的にも憎まれ役に回ってしまった感のあるフグだが、無論これは彼に責任のあることではない。寧ろこれからのフグにはセフォーだけでなくスケルトンやミルコら新鋭達の挑戦を受けて立つ立場として、より一層高い壁であり続けて貰いたいと思う。

（高田敏洋）