99.4.25 K-1 REVENGE '99 横浜アリ−ナ

　ノールール系の試合で馴らしたグッドリッジだが、現在では「ルールの縛りの無い状態に馴れた選手は、特定のルール下で特化したトレーニングを積んだスペシャリストには対抗出来ない（逆に特定のルールに特化した選手はノールール系では勝てない）」というのは広く一般的見解になりつつある。このままいけばそのことを証明する形で試合が終了するか、と思われたところで、やはりこの「試合」が「試合」でないことを思い起こさせるシーンが現出した。

　組み合いになった瞬間にグッドリッジが放った膝蹴りが武蔵の金的にヒット。股間を押さえてうずくまる武蔵の、今度は顔面に続けざまに膝蹴りがヒットしたのだ。
　この反則により武蔵は脳震盪を起こして倒れる。ドクターの「試合続行不可」という判断によりグッドリッジの反則失格負けが宣言された。場内から落胆の声があがる。

　しかしある意味では、この試合の最大のドラマはここから始まったと言ってもいいかもしれない。

「武蔵には暫く休憩をさせます。休憩の後武蔵が闘えるようだったら再試合させます。」

　場内マイクを使って石井館長がこう宣言したから場内は大騒ぎとなった。

　この「反則攻撃のダメージの回復を待って数試合後に再開する」というやり方は空手の大会ではしばしば見受けられる。ちょうど進行スケジュールでもこの第三試合の後にはインターバルが設けられていたから、それがそのまま武蔵の休憩に充てられる格好になったわけだ。たまたまこの間に控え室廊下で石井館長の談話を聴くことが出来たのだが、大会規定を自らの意志によって曲げる形になることは「（非常にキッパリとした口調で）深く反省してます。」しかし批判は承知の上で「でも僕はやらせたいですよね。格闘技だからね。」
　館長には敢えて今の武蔵だからこそ格別の思いがあってのことだったろう。ゲーリー・グッドリッジという選手に対してはまさにこういうラフな展開こそ事前に予想されたものであり、それを乗り越えることこそ今大会で石井館長が武蔵に要求した最大のテーマだった筈だからだ。

　結局石井館長のこの希望は、ドクターからの「絶対に許可できない」という通達で実現しなかった。
　しかしこの結果、武蔵には６月のカークウッド・ウォーカーとの再々戦に続き、急務の課題がまた一つ積み重なることになった。"Revenge"を冠する大会で逆にRevengeしなければならない相手が出来てしまったのだ。今大会で武蔵に課せられたテーマは、未だ消化不良のまま宙をさまよっている。

（高田敏洋）